6日目(8月7日 木曜日)

今日は、女房のための買物の日とした。前回来た時はソーホー地区とかナイツブリッジ地区とかエリア別に観光ルートを決めたので、観光と買物がごちゃ混ぜとなり、時間の余裕が無い事もあって喧嘩の元だった。今回はその反省を基に、日程から買い物の日を分離した。そもそも、私は日本でも買物は大嫌いで、嫌々女房の買物に付合わされると不機嫌になり、

必ずもめる。


大体、女房は買物自体を楽しんでいるので、買いもしないものを、あれこれ見てまわる。こっちは、最初から買うものを決めて、店も決めてから買物に行き、短時間で済ませてしまう。こんな二人が一緒に買物ができる訳がない。
どちらかが、我慢する事になるが、女房の楽しみを尊重して、今日と明日を買物の日として旅程に割当て、その間は我慢して付きあう事にした。ただし条件として、場合によっては別行動としてもいい事にした。女房が買物をしている間、こちらはパブでビールでも飲んでいようという算段だ。

王室御用達の紋章も眩しいハロッズロンドンでの買物はなんといってもナイツブリッジにあるハロッズである。宮殿のようなデパートで、王室御用達のマークである王室の紋章が4つも付いている。初めて行った時は、あまりの凄さに女房と二人で興奮状態になって、気が付いたらつまらないものを沢山買っていた。今回は店の中の勝手も大分わかっているので、少しは落ち着いて行動できたが、その豪華さと広さは感動ものである。
高級品が山ほど置いてある。特に、食品のコーナーは豚の半身が吊るしてあったり、鴨の束になっていたり、人工の小さな滝の下に生魚が置いてあったりと、市場のような品揃えだが高級店らしく品良くディスプレイしてある。食材が豊富で

ここには無い物は無い


のではないかと思われる。女房が服を見たいというので、地下の日本人向けの案内所で1時間後に待ち合わせる事にして、別行動にした。私は暫く散策した後、ハロッズの外に出て一服した。道行く人をゆっくり眺めるのもなかなか面白い。地図を片手にハロッズに入って行く観光客や、タクシーで乗付けてくる人など様々だ。ゆっくりダバコを吸いながら回りを眺めていると、中年の男性が道を聞いてきた。
「ここはナイツブリッジXXか」という。
最後の方が良く聞き取れなかったが、そうだと答えると地図を見ながら南へ歩いていった。その後、もう一度彼が言った事を頭の中でリピートしてみた。あっ!違ってる。「ここはナイツブリッジ・ロードか」って言ったんだ。ここはブロンプトンロードでナイツブリッジロードは向かいの道なのだ。こりゃマズイ。慌ててその人を追っかけたが、もう何処にも見当たらなかった。

悪い事をした。


今度からは、分からない時はちゃんと聞き返して、間違えないようにしよう。
買物をした後、昼食をここの地下で食べようという事になって、地下に行ってみたが、さすが高級店だけあって一品£10(2000円)以上する。寿司屋のカウンターもあったが、ここも高かった。
地下は諦めて、2Fの喫茶に行く事にした。喫茶はバイキング形式で、好きなものを取ってからレジで清算してテーブルに持って行って食べる形式になっている。フルーツの乗ったパンとクロワッサンとポットティで二人で£10くらいで済んだ。

ハロッズを出た後、ピカデリーサーカスまで行き、私がバーバリーでバーゲンのコートを買い、女房がそごうでバーバリの赤いコートとハンドバックを、これもバーゲンで買って大きな買物を済ませた。店によって額が違うが£75以上の買物をすると、VATという免税手続きをしてもらえる。
パスポートを見せてVATを発行してもらう。後で出国する時、VATと現物を見せて税関の承認印をもらって、それを買った店に郵送すると何ヶ月後かに銀行に税金分が手数料を引かれて振り込まれる仕掛けだ。消費税が高いので、免税で買うとかなりの額が戻ってくるが、面倒である。その場で引いてくれた方がよっぽど親切だが、そういう事は

日本人向けの土産物屋くらいしかやってない。


フォートナム&メイソンの入口は改装中だったその後、フォートナム&メイソンでお土産の紅茶を買った。紅茶は、食品だからVATの対象にはならないが、日本だと高級スーパの成城石井で1000円の紅茶が300円くらいで買える。棚にある紅茶の箱をごっそり買占めた。紙袋が両手に一杯になったが、買物はまだ終わらない。今回最も期待している物を買わなくては。それは、

ウィリアム・モリスがデザインした布地だ。


女房の調査によると、それはリバティにあるという。リバティはピカデリーサーカスからリージェントストリートを北に15分程歩いた所にある高級デパートだ。暑い中、荷物を一杯持って歩いたので、リバティに入る前にパブで休憩した。ビールがうまい。パブの樽から出すビールはあまり冷えていないが、イギリスのビールはこの温度なのだろう。
リバティは高級店だが売場が狭いのが難点だ。絶対的な広さはあるのだが、色んなものが所狭しと置いてあるのと通路が狭いので、そういう印象を受ける。
ウィエイアムモリスを買ったリバティお目当ては4Fにあった。布地が一杯置いてある。ところが、モリスがデザインしたものかどうかが分からない。係員にどう聞こうか考えていると、ネクタイ姿の中年が元気にやってきて、店員に親しそうに話掛けてきた。
何か早口でまくしたてて、生地を2〜3点ぱっぱと選んで買って行った。その時、生地の事をファニッシングと呼んでいた。そうか、こういう物をファニッシングというのか。
早速、品の良さそうな老年の店員に尋ねた。
「これらはファニッシングというのですか?」と私。「そうです。」
「私たちはウィリアム・モリスがデザインしたファニッシングを探しています。ここにありますか?」
「ありますとも。たくさんあります。ここにあるものの大半はモリスのものです。」やった。見つけたぞ!
「どれがモリスか教えてください。」と言うと、サンプルブックをめくって、「これがモリス、これもモリス、これは違う。これはモリス・・・・・」とサンプルブック3冊を全部めくって教えてくれた。モリスを沢山もっている事を誇りに思っているようだった。

モリスのファニッシングはどれも素晴らしくて、とても一つを選ぶ事ができない。散々悩み抜いた末、二つを買う事にした。店員に選んだ二つをください言うと「これは18XX年のもので、モリスのデザインの中でも大変素晴らしいものだ。」という。う〜ん、満足。値段は1mが£24くらいで大したことはないが、店員の上品な対応もあって高級品を買ったという満足感が味わえた。

これぞ英国の買物の醍醐味だ。


夕方になり荷物も沢山になったので、タクシーでホテルまで帰った。今回はちゃんとチップをはずんだ。荷物を片づけて、ちょっと良い服に着替えてからミュージカル「レ・ミゼラブル」を観るためパレス劇場へ出かけた。

旅行前にミュージカルに結構詳しい知人が、お勧めは「オペラ座の怪人」だという。「オペラ座の怪人」は舞台装置が素晴らしくて、場面もテンポ良く変わるので、英語が分からなくても見てて飽きないが、「レ・ミゼラブル」は舞台も地味で会話が多いので英語が分からないとつらい、と言う。昨年「キャッツ」を見て寝てしまったと言うと彼は、キャッツで寝たならレ・ミゼラブルは

爆睡ですね。


パレス劇場で公演されているレ・ミゼラブルという。プロムスの前科もあるので心配だ。やっぱり「オペラ座の怪人」か「スターライト・エキスプレス」にしとけばよかったか。でも今更変えられないので、予定通りとした。
パレス劇場はチャリングクロス・ロードにあり、ピカデリー線のレスタースクエアで降りて直ぐだ。開演は19:30からで3時間半もある。やっぱり寝るかもしれない。30分前に着いて指定席に座る。1階に結構良い席が取れていた。客席は1階と2階がボックス席になっている。ボックス席に日本人のキャピキャピギャルが2人いるのが見えた。身の程をわきまえない行為だ。いくら金があってもこういう事をしてはいけない。
日本語のガイドブックがなかったので、しかたなく英語版を買い、ざっと読んでから、女房にストーリの概要を聞いて、ガイドブックで理解できない所を補足した。女房は来る前に本を読んでいるので完璧だが、私が「ああ無情」を読んだのは中学の時だ。もうすかり忘れている。
開演を席で待っていると、東洋人のおばさんが英語で「あなたの席はN32ですか」聞いてきた。おばさんはN32のチケットを持っている。私のもN32だ。

ダブルブッキングだな


というと、「あの〜、日本人ですか?」と日本語でいう。よかった。トラブルの時に日本語が通じるのは助かる。「我々は続きで取っているので間違えない。事務所に行って係の人にクレームを言った方がいいでしょう。」と、おばさんに交渉するように言って、こちらは譲らなかった。暫くすると係員がおばさんがやってきて、おばさんに我々の前の席を用意した。

「レ・ミゼラブル」はストーリ展開が早く、最後まで寝ないで観れた。ジャンバルジャンの苦難の人生よりもコゼットのラブストーリに重点を置いた演出になっていたり、極悪人のコゼットの養父母がコミカルに描かれていたりと、若干の不満は残ったが、全体的には感動的に仕上がっていた。横に座っていた白人のお父さんも何度か涙を拭いていた。クライマックスでコゼットが華やかに結婚式を挙げている時にジャンバルジャンが一人静かに死んでいく場面は、

もう涙なしには見られない。


終わって外に出ると、もう11時になっていた。パレス劇場の外は人が一杯で、あちこちのパブも人で溢れている。ここで一杯とも考えたが、夜も遅く物騒なので真っ直ぐホテルに帰る事にした。いつものパブに入ると、もう終わりだと言われたので、ホテルの深夜営業のレストランで食事をする事にした。
ビールを飲みながらの食事が終わった頃、女房が気分が悪いので出ようという。清算していると、女房は先に出てレストランの前のソファーにうずくまっている。側に行って介抱したが相当具合が悪いようだ。部屋に戻ろうといったが、とても歩けそうにない。そのうち、気持ち悪いといってソファーの前に置いてあった灰皿に

ゲロ


してしまった。こりゃまずい。レストランに戻ってペーパタオルを持ってきて始末をして早々にそこを立ち去った。部屋に帰ったあとも、暑くて気持ち悪いといって暫く苦しんでいた。タオルを濡らして体を冷やしたりして介抱し一時間くらいしてやっと回復した。

どうも、人気に当たったようだ。最後は災難だったが、充実した6日目が終わったのだった。





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