5日目(8月6日 水曜日)

今日は早く起きて、ハンプトン・コート宮殿に行く事にした。早く起きたのは、1日を大事にしたいだけでなく、駐車場の料金が気になったからでもある。12時間までが£14で、24時間までが£16なので、なんとか12時間以内に出庫したかった。大体、ホテルの宿泊客が、ホテルの駐車所を借りるのに料金がかかるというのは、納得がいかない。フロントに行って、駐車券を見せ、タダにならないかと交渉したが、つれなく断られた。でもまあ、安いホテルだからしょうがない。でも、これや、あれやの有償サービスの料金をたしていくと、もしかしてもうワンランク上のホテルに泊まれたのかもしれない。

駐車料金は諦めて、£14払い、今日のドライブに出かけた。レンタカーも2日目になって、だいぶ慣れてきた。もうラウンド・アバウトは大丈夫。信号や標識にも慣れた。しかし、気をつけなければいけないのは、「この先工事中」とか「×××に注意」とかいうたぐいの情報表示である。日本語なら一瞥して理解できるが、英語で書いてあるので考えながら読んでいると、回りが見えなくなり、気が付いたら数百mも進んでいる。英語標識は読まないのが安全である。そもそも

一瞬で分からない英語は考えても分からないのだ。


M3を走るとハンプトンコートの標識があったハンプトン・コート宮殿はロンドンの中心から40〜50Kmくらいの所にあるので、ロンドン市内を通るとすぐ着くはずだが、例によって持っている地図が大雑把なので、市内を通り抜けるルートは選ばず、まずA40とM40でロンドン郊外まで出て、ロンドン郊外を取り囲む環状高速道路M25を回ってM3でロンドン方面にもどる道を選んだ。日本でいえば、丸の内から首都高速3号線(A40)で東名(M40)に乗って、横浜ICで16号(M25)に乗り、横浜方面に南下してから狩り場ICで1号線(M3)にのり横浜まで行くようなものである。

道はM25で少し渋滞しただけで、後は順調だった。M3に入るとお城の絵が書いてある標識が出て来て、ハンプトンコートへの道を示してくれていたので、M3からは昨日の様に迷わず目的地に着く事ができた。到着したのが9時ちょっと前と早かったせいもあって、駐車場もガラガラですんなり駐車できた。ハンプトン・コート宮殿はチューダ朝の16世紀の初めに作られたテームズ河の上流にある

河畔の美しい古城だ。


その当時の日本はというと、戦国時代で織田信長や徳川家康が生まれた頃の事である。宮殿を一般公開したのはビクトリア女王国鉄ハンプトンコート駅で、それ以来大変な人気の観光名所となっているそうだ。アクセスはウォータールー駅から国鉄というのが普通。他にビクトリア駅からグリーンコーチと言うバスでもOK。テームズ河を船でという方法もある。車で来たのが一番悪いアクセスだったかもしれない。

ハンプトンコートの入口その国鉄のハンプトンコート駅の駐車場を出ると、直ぐ前がテームズ河で、そこにかかる橋の上から見る宮殿の美しさといったら、私の文章力では到底表現できない。橋を渡ると直ぐハンプトンコートの西門に入れる。宮殿は大変広い。観光ポイントが70もあり、庭園だけで24万u以上ある。庭園の中に迷路があるほどだ。ちゃんと全部見ようとすれば、到底一日では終わらないに違いない。年間チケットを売っているくらいだから、はまってしまうと何度も来てしまうのだろう。
チューダ朝の衣装を着たガイドさん煉瓦作りの建物も兎に角広く、沢山の部屋がある。厨房だけで1000坪もありチューダーキッチンと呼ばれて観光客に人気があった。係員の人がポイントポイントに居て、中で迷っていると「お困りですか」と気軽に声をかけてくれ親切に教えてくれる。英語が分からない観光客が多いので,カタコトでも嫌な顔一つせずに聞いてくれて笑顔で答えてくれる。

なんていい所なんだ!


ハンプトンコート南の庭園ステート・アパルトメンツと呼ばれる王や女王の部屋は、豪華絢爛。「すごい、すごい。」というばかりだ。入ってきた西門と建物をはさんだ東側が正面で、そこに広い庭園があり、その先に運河があって公園が広がり、美しい景観を見せている。南の庭園にはブドウやオレンジの果樹園もあって、ここでとれたブドウでワインを作っているという。冬の間、寒さに弱いオレンジの木を入れておくオランジェリーという部屋もあった。
規模といい、作りといい、フランスのベルサイユ宮殿と良く似ている。

イギリスのベルサイユ


と呼ばれているそうだが、ここの方がベルサイユ宮殿よりも保存状態がよく、ずっと素晴らしい。英国人の王室に対する敬意がそうさせたのか、王室の財力がそうさせてのかは分からないが、今でも住めるくらいに保存されている。
ガイドブックの書き出しに「川に面し、美しい庭園とパークランドに囲まれたハンプトンコートは見る人に感動を与えると同時に、歴史への興味も呼び覚ましてくれることでしょう。散策は驚きと喜びで満たされるでしょう。」と書いてあったが、全くそのとおりの興奮を味わい、昼過ぎに宮殿から出た。

帰り道は違うルートを通るという冒険をするか迷ったが、地図が無い弱みで結局来たルートで帰る事にした。ホテルの駐車場に着いたのはまだ2時過ぎだった。車は明日の9時まで権利があるが、市内の観光には車は返って不便なので、返却する事にした。ハーツの営業所に行ってチェック・インした。
レンタカーは借りる時がチェック・アウトで、返す時がチェック・インといって、ホテルと反対だ。清算してもらうと、なんと£109だという。

2万2千円だって!


冗談じゃ無い。
「君は間違っている。私はバウチャーを持っていたんだ。はい、これが控えね。」というと、なんかグチャグチャ言って、明細書にボールペンでチェックをして説明してくれた。しかし、係員がチェックした項目を全部たしても£109にはならない。
「あなた、間違ってるって。ほらね。」と電卓を使って係員の目の前で計算して見せた。
係員は「う〜ん。」と明細書とバウチャーの裏に細かい字で書いてある契約条項をにらんで考え込み、何度もコンピュータをたたいて確認してから。またグチャグチャと何かいう。
「私は英語ができないので、あなたの言っている事は理解できない。紙に書いてくれ。」
紙に書いて説明してもらったところ、昨日の9時に借りて今日の9時に返せばよかったが、今は2時なので、5時間超過している。だから追加料金がかかったのだ、という。
「何を言ってるんだ。私は2日間借りている。超過料金はかからない。」というと、またその係員は悩み始めて、考え込んでしまった。
その後色々やりとりがあった末、乗り捨てオプション£10が追加されていた事、税金が£28もかかっていた事等が判明して、£109の明細が全部明らかになった。乗り捨てオプションなんか付けたつもりはなかったが、私が持っていた控えにもシッカリ書いてあったので、借りる時にチェックしなかった自分が悪いと諦めた。
それにしても、

税金が£28(5600円)とは法外だ。


いや法律で決まっているのだろうけど・・・。もしかしたら、観光客は免税になるかもしれないと思って聞いてみたが、「こんなに大きな物(レンタカー)は国外に持ち出せないでしょ。」と冗談で済まされてしまった。そりゃそうだ。聞いた私がバカでした。でも、イギリスでは大抵の物は税込みで料金表示されているので、てっきり内税かと思っていたのにそりゃないよ。
結局、バウチャーが15,000円、駐車場が2,800円かかったので、合わせて39、800円かかった事になる。ずいぶん高くつV&A美術館いたものだ。4万円近い出費はショックだったが、気を取り直してビクトリア&アルバート美術館に行く事にした。

ビクトリア&アルバート美術館はロイアル・アルバートホールの直ぐ側にある世界中の優れたデザインをコレクションした美術館だ。我々のお目当ては

ウィリアム・モリスだ。


ウィリアム・モリスは最近日本でも有名になった19世紀のデザイナーで、植物をモデファイしたモリス柄といわれる美しいデザインが特徴だ。壁紙やカーテンの柄に多く使われていたが、家具や調度品とトータルコーディネイトした事でも有名である。
例によって美術館の中は大変広くて案内を見ながら、モリスがビクトリア&アルバート美術館のために内装をデザインした休憩所に行った。休憩所はその当時3部屋あって、その内の一つをモリスが担当した。現在は三つの内の一つだけが実際の休憩所として使われており、モリスの部屋は部屋ごと展示されている。これはモリスが公式の仕事として初めて受注したものだそうである。この部屋はNHKのモリス特集で紹介されていたもので、女房がしっかりチェックして今回の訪問になった。
美術館自体が大変素晴らしい建造物なので、モリスの部屋はあまりパットしなかったが、TVで見たのと同じ物を実際に見る事が出来た事には満足した。隣の休憩所で少し休み、モリス商会の作品が置いてあるというコーナにいって見る事にしたが、広い美術館の中でさんざん迷ったあげく、係員に何度か聞いてやっとたどり着いた。しかし残念ながらそこにはモリス自身の作品は置いていなくて、モリス商会のメンバーの作品が数点あるだけだった。ここにはモリスの作品は「モリスの部屋」しかなかったのだ。楽しみにしていたのにガッカリだった。こんなことなら上野でやった

モリス展に行っとけばよかった。


閉館の館内放送に追い立てられて、外に出ると大雨が降っていた。傘を持っていない人たちが出口にかたまっていたが、我々は傘とレインコートを持っていたので、サウスケンジントンという地下鉄の駅に向かった。サウスケンジントンからラッセルスクエアまではピカデリー線で一本である。地下鉄に乗ってラッセルスクエアの手前にきた所で車内放送があった。
「XXXXXなのでラッセルスクエアには止まりません。」
なんだ?きっと大雨で浸水したのかな。それにしても、こんな時についてない。しょうがないので、次のユーストンで降りて、大雨の中を歩いてホテルまで帰った。突然の大雨に傘を持っていない人が沢山いてずぶぬれになりながら歩いている。我々も雨具があるものの、雨が強くてあまり役にたたない。ホテルに着いた時には、相当濡れてしまっていた。ホテルの部屋で濡れた服を着替え、日課にパブに行った。

今回はパブの事を紹介したい。


行きつけのパブ「Friend At Hnad」イギリスのパブは安くて安全で昔ながらのクラシックな雰囲気がある。それに通りに必ず一軒あるほど数が多い。
"It's a poor street without Pub in it."(パブの無い通りは通りじゃない)
という諺があるほどだ。それにもかかわらず、どこのパブもシステムが同じで、まるでチェーン店のようだ。
料金は先払い。まず、カウンターにいって店員に飲物を注文する。この時「ビールちょうだい。」と言うのは愚かな行為だ。ビールは何種類もあるので、そんな事をいうと必ず「どのビール?」と、聞き返されてしまう。それに、日本酒と同じでイギリスには何百種類ものエールと呼ばれる地ビールがあって、それぞれのパブには当店自慢のエールがある。パブでエールを作っている所もある。
だから銘柄を聞かれてもバドワイザーなんて

他国のビールを注文するのは野暮というものだ。


それにバドワイザーは何種類もあるので、「どのバドワイザー?」とさらに突っ込まれてしまう。かと言って英国ビールの銘柄を知っている訳でもなので、そういう時はビールのサーバに銘柄が書いてあるので、それを指して「これをくれ」と自信を持って言おう。
すると、「サイズは?」と聞かれる。日本の中ジョッキサイズを「パイン」と言って、これが標準で、それより小さいサイズは「ハーフパイン」という。
ビールは樽から直接サーバでついでくれる。もちろんビンビールもあり、こちらは冷蔵庫からビンを出してくれる。今回、毎日同じパブに通い、色々な種類のを呑んでみた。
いつも「これください」で注文したので、銘柄はよく分からなかったが、

ギネスという黒ビールはうまかった。


ギネスをサーバからグラスに注ぐと最初は全部アワ状態になる。
「えっ、アワだけじゃん。」
と不信そうにしていると「そのまま2分待て」と言われる。言われたとおり暫く待っているとアワが上がって黒ビールが現れる。その味の濃厚な事といったらない。すっきりした喉ごしの日本ビールに慣れている身には受け入れがたい。ラガービールと半々にしてくれと店員に頼んでみたが、できないという。
ソフトクリームでもミックスってのがあるぞ。融通の効かないったらない。しかし、毎日呑んでいるとだんだん慣れてきて、この濃さがたまらなくなった。ビールの値段は大体£3前後で日本より少し高い。パブでは飲物が主体なので、食べ物を注文する人はあまりいない。皆おつまみ無しでビールだけ飲んでいる。
英国人は、昼飯をパブで食べ、仕事帰りにパブで一杯、休日は仲間とパブで過ごす。と言われるほど生活に密着している。食べ物もあって、「食べ物の注文はこちら」と書いてあるカウンターで注文して金を払うと番号札をくれる。マクドナルドと同じだ。それをテーブルの上に置いて待っているとキッチンからコックが料理を持ってくる。
ここのパブのコックはオカマっぽくて、髪に花なんかを付けているが、あまり気にならない。
パブの中には我々を含めて色々な人がいる。ヒップなお兄さん方、品のいい老婦人、ネクタイ姿のサラリーマン、観光客。皆、人の事は気にかけずに勝手にやっている。何も注文せずにただ座っている人もいるが、店員は何も言わない。かといってよそよそしい訳ではなくて、何かきっかけがあると気さくに話をする。店の名前のとおり

「Friends at Hand」な雰囲気だ。


我々も最初は勝手がわからないし、なんだか恐そうなお兄さん方もいるしで、おそるおそるだったが、暫く通ううちにすっかり慣れて気楽に過ごせるようになった。パブ飯も大体£5くらいで、量がたっぷりあるので、二人でシェアすれば安い。ビールを存分に飲んで二人で£20くらいしかかからない。
ということで、この日もパブで飲みながら、残り3日の計画を立てて、5日目が終わったのだった。





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