4日目(8月5日 火曜日)

今日と明日はレンタカーを予約した。昨日、パブで計画を立てて、今日はオックスフォード、明日はハンプトン・コートという宮殿に行く事にした。ハンプトン・コートはどんな所かよく知らないが、皇太后の誕生日に会ったおばさんのお勧めがあったので、地元の人の意見に従うことにした。

プレジデント・ホテルの外観レンタカーの営業所が9時からでないと始まらないので、朝食を8時前に済ました後、セーフティ・ボックスに貴重品を預けたり、お金を引出したりと、細々した処理をする事にした。我々が滞在しているホテルは、プレンジデントホテルという。隣がインペリアルホテルで、同じ建物の中に2つのホテルが入っている。2つのホテルは系列でグランドフロアで行き来できる。ホテルの中にはバーやレストラン、銀行の支店、売店、カフェ、両替所、レンタカー屋などがあって両方のホテルの宿泊客が利用できるので結構便利である。
ロケーションもラッセル・スクエアという、日本で言うと上野のような場所にある。最寄りの地下鉄駅はピカデリー線という幹線のラッセル・スクエア駅で徒歩1分のところにあり、ロンドン中心街のピカデリーまでわずか4駅。また、徒歩圏に国鉄のユーストン駅や大英博物館がある等、観光には至便だ。

但し、古い。


エアコンもない。我々が滞在しているスタンダードの部屋はカギがキーカードではなく鉄の棒の先に鍵が繋いである。外に出る時はフロントに預けなければならない。もっとも、ロンドンの夏は涼しくて、エアコンがなくても快適である。蚊もいないので、窓を開けていても問題ない。
前置きが長くなったけど、貴重品を持ち歩くのは物騒なので、セーフティ・ボックスを借りようと思ったところ、フロントには無く、ホテルの中にある両替所で有料で預かるという。両替所のセーフティボックスは預託金£20と鍵代£2を初めに支払い、後は1日50ペンスでキープ出来る。利用し終わった時に預託金は返金される。預けた物を取り出す時には、鍵を係員に渡し、割当てられたボックス番号を言う。あらかじめ、ルーム番号、名前、母親の親の姓を登録しておいて、係員が怪しいと思った時はこれらを尋ねるという。
というような事を四苦八苦しながら、係員から説明を受け、ようやくセーフティボックスを確保した。
ちょとしたホテルなら、セーフティ・ボックスは無料で、フロントで「セーフティボックス プリーズ」で全てOKなのに、安く上げようとすると苦労も多い。もっともセキュリティはフロントのものより、こちらの方がずっと高いのは確かだ。その後、キャッシュディスペンサーで現金を£100引出した。キャッシュディスペンサーはホテルの外壁に2機取付けられており、

24時間引出しが可能だ。


キャッシュカードはあらかじめ日本のシティバンクで作っておいた。日本で円で預金したものが、ロンドンでポンドで引出せるなんて、便利になったものだ。実際引出してみるまで、こんな事ができるなんて半信半疑だったが、ちゃんとお金が出てきた。金融ビックバンが起これば、邦銀はサービスの良いシティバンクのような外国銀行に駆逐されてしまうのではないだろうか。レンタカーの営業所が開くまで、もう少し時間があったので、ホテルの売店でテレホン・カードを購入することにした。こちらでは、テレホン・カードと呼ばず

ホーン・カード


という。売店で、ホーン・カードをくれというと、ホーン・カードよりお得なカードがあるというので購入してみた。
それは、カードの裏に無料通話番号(日本の0120)とアカウントNoが書いてあるだけのもので、カードを電話機に入れるのではなく、まず無料の通話番号に電話して、案内の音声に従ってアカウントNoとかけたい相手の電話番号を入力すると繋がり、アカウントのある間だけ使えるというもの。日本のNTTにあたるBT(ブリティッシュ・テレコム)より安い。でも面倒だ。アカウントNoは15桁くらいあるので、入力を間違うとやり直しになるし、案内が何を言っているのか良く分からないしで、やっと慣れた頃には£10のそのカードを使い切っていた。
電話でまごまごしている間に、9時を回ってしまったので、ホテルの敷地内にある、ハーツというレンタカー会社の営業所に行った。日本で購入したバウチャーを見せると、直ぐに受付けてくれたが、手続きはこれでは終わらない。バウチャーには、保険の契約やドライバーの追加(女房の分)等が入っていないので、現地で追加しなければならないのだ。保険は

フル・カバレージ・コリジョン


というと、全部をカバーしたものに入れる。言った内容は伝わったらしく、レセプトを作ってくれたが、その内容を確認しなければならない。全部で50項目くらいある記述内容を確認し、特に今回追加したオプションの項は、受付けの人と一点一点確認する。
受付けには2人の白人男性がいて、1人は人の良さそうな人で、もう1人は恐そうな人だったので、人の良さそうなお兄さんの前で待っていると、恐そうなお兄さんがちょうど前の人の対応が終わって空いたので、こっちに来いとという。しょうがないので、渋々そちらとやる事になった。
何を言っているのか分からないので、何度も聞き返していると、向こうも手慣れたもので、日本語と英語の対応表を持って来てくれて、それで一点一点説明してくれた。こちらが納得するまで、根気よく付き合ってくれる。さすが契約社会である。
手続きが済むと、配車係のあんちゃんが地下駐車場の車まで案内してくれて、色々説明してくれたが、このあんちゃんは、かなり英語がなまっていて、さっぱり言っている事がわからない。標準語でも苦労するのに、なまっちゃってると、もうどうしようもない。最後に「わかった?」っていうので、「分からない」というと笑って車のキーを渡してくれた。

いよいよレンタカーで出発慎重に車の点検をする。イギリスは日本と同じ左通行右ハンドルなので、違和感はない。車はフォードで車種はよく分からないが、日産のプリメーラクラスの結構新しい物だった。まだ新車の匂いがする。機器を一通りチェックしたところ、なんとウインカーとワイパーのスイッチが日本車と逆の位置についていた。他は日本車と同じだ。それでは、発進。慣れるために、ホテルの回りを軽くドライブすることにした。ホテルの駐車場を出て左折。おっと、ウィンカーを入れたつもりが

ワイパーが動いてしまった。


分かっていても、体が勝手に反応してしまう。気を付けないといけないな。ロンドンの道と道路標識は、初日にエアバスに乗った時に真剣にチェックしておいた。もちろん日本でも英国観光局から、道路標識やルール等を取寄せ予習した。イギリスのドライブで最大の難問は交差点である。日本と同じ十字路もあるが、ラウンド・アバウトという形式の交差点が多く独特のものだ。
ラウンド・アバウトはイギリスの街の形成に関係があると思われる。イギリスの街は中心がサーカスとよばれる円形の広場になっていて、その中心に向かって道路が放射線状に伸びている。日本では田園調布が良く似た形状をしている。パリの凱旋門やオペラ座も同じような形状をしているので、イギリス固有のものではないのだろうが日本には無い形式だ。
つまり、交差点が十字路ではなく、放射線状に5差路、6差路になっているのだ。この交差点を効率よく通り抜けるために、交差点の中央はラウンド・アバウトというドーナツ型の道になっており、車は時計回りでまわる。例えば、右折したければ、まずラウンド・アバウトに入り左に回っていって、3/4周してから右の道に抜けていく。もちろんラウンド・アバウトから抜ける時は左折する事になる。つまり、

交差点では左折しかない


のである。車は全て前方右が優先(「GIVE WAY」という標識がある)なので、そちらだけを注意していれば良い訳だ。頭では理解できていても、実際ラウンド・アバウトに入ってみると、あちこちから車が進入してきてメチャクチャ恐い。さらに、2車線や3車線のものもあるので、ドーナツの中で皆バンバン車線変更をしてくる。内側の車線に入ろうものなら、出るのは一苦労である。
ラウンド・アバウトで有名なのは、パリの凱旋門で、日本でも車のCMでやっていた。ギネスブックには、凱旋門のラウンド・アバウトに入ったドイツの生真面目な観光客が車線変更できずに60周(?)くらい回ったというのが載っているそうだ。
この話しを聞いた時は笑い話と思っていたが、実際に入って見ると、右優先を信じて左にいる車の鼻先に割込んでいかないと出れない。もちろんこちらが左にいる時は同じ事をやられる。思った所で出れないと

もう一周回る事になるのだ。


もうひとつ日本と違う点は、右折禁止と一方通行が多い事である。右折したい時は、ひとつ手前のブロックの信号を一旦左折してから1ブロックをぐるりと迂回して行く事になる。
前回来てバスに乗った時、目的地の手前でバスが突然左折して違う方向に行き始めたので、慌てて降りて歩いて行った事がある。今にして思えば、右折禁止のため迂回したのに違いない。
ホテルの駐車場から出て南下し、ハルボーンの交差点を抜けて東にシティ方面に進路をとり、最高裁の前を通って、ダイアナが結婚式をあげたセントポール寺院まで行って、またホテルに戻ってきた。所要時間45分。無事戻れた。あー肩が凝った。でもだいぶ慣れたので、いよいよオックスフォードへドライブに行く事にした。
ホテルの前に車を停めて、もう一度地図を見ていると、ホテルへ出入りしているらしい業者が我々の車の横に車を停めた。気の良さそうなおじさんが出てきて、「ドライブかい」と声をかけてきた。
「そう。オックスフォードまでね。でも行き方が良く分からない。」というと、親切に道を教えてくれた。「A40からM40と一本道なので簡単だ。全然心配無い。」という言葉に勇気付けられて出発した。道は、おじさんの言ったとおり行くとA40(国道40号線)に入り、暫く行くとそのA40がM40(高速40号線)に変わった。高速道路は無料なので

料金所がない。


何時の間にか高速道路に入っていた。
M40を一路オックスフォードへ速度制限は暫くは時速50マイル(80Km)だったが、そのうち制限時速の標識が無くなった。制限標識なしは何マイルが制限なのか分からなかったが、回りの車は皆130Kmくらいでビュンビュン飛ばしている。ともかく安全第一なので、左車線(走行車線)を流れに乗ってゆっくり、といっても110Kmくらいで走った。
一時間ほど走ると、オックスフォードの標識が出てきたので、そこで高速を降りた。降りた道はA40で、暫く一本道が続いてた。休憩所というカンバンがあったので、そこに入った。休憩所といってもトイレと露店があるだけの粗末なものだったが、オックスフォードの案内図があった。「Hight Street に入って、橋を渡って真っ直ぐいけばいいのだな。」という事をシッカリと記憶した。後になって分かった事だが、その地図はオックスフォード市内のもので、それを憶えても市内にはたどり着けないのだ。
休憩所をでてまた暫くA40を北上すると、難関のラウンド・アバウトがあった。
左は「OXFORD BUSSINESS PARK」、直進は「CITY CENTRE」、右折は「A40」となっている。
・・・絶句。どっちに行っていいのか分からない。でもラウンド・アバウトに入ってしまった。考えながら一周まわり、二周目で意を決して「OXFORD BUSSINESS PARK」方面へ左折した。左折したものの、いくら行っても着かない。だんだん建物や人影がなく寂しくなってきた。どうも、間違えたらしい。引き返す事にした。引き返す途中に、「OXFORD XXX」とかいう標識があり、そっちに行ってみようかとも思ったが、

迷った時は原点に帰る


のがサバイバルの原則なので、最初の交差点に戻る事にした。あとは「CITY CENTRE」と「A40」のどっちかだ。
大体、CENTREってのはなんだろう。CENTERなら市内という意味だと思うが・・・。辞書を引いても乗っていない。怪しい物には手を出さないの原則で、A40へ行く事にした。
日本から持ってきたイギリス全土の道路地図にはA40の途中にオックスフォードがあるように書いてある。もっとも、それは東名が名古屋を通過しているようなもので、名古屋市内が東名沿いにある訳ではないのだが・・・。A40に行ってみると、さっき降りたM40にまた乗ってしまった。慌ててまた引き返して、結局一番怪しい「CITY CENTRE」へ行く事にした。この道も、いくら行ってもオックスフォードには着かない。まただんだん人影もなく寂しい道になってきたので、少し引き返して小さな町並みがある交差点の近くの駐車場に車を停めた。

駐車場のシステムは、自動販売機で駐車券を買って車のフロントガラスの内側に貼っておく。取締は結構厳しくて、しょっちゅう警察が見回りにくる。駐車違反の罰金は相当高いので、皆ちゃんと駐車券を買っている。駐車券を買おうとしたら、丁度駐車場からでる車がいて、その車のおにいちゃんが、こっちに向かって何かしきりに叫んでいる。ちょっと恐かったが、近づいていくと、後2時間使用できる駐車券をくれた。


イギリスは親切な人が多い。


駐車場の前がスーパーだったので、地図を探す方々買い物をした。ロンドンの市内は物が高いが、ここまでくると日本並みの値段だ。特に、乳製品とパンは安い。ミルクが1リットル120円、フランスパンが100円、ハムが特売で1パック200円と、安いものばかりを買い込んだ。ついでにお菓子も安かったので、子供のお土産に大量に買った。スーパーには、残念ながら地図がなかったので、地図を探して小さな街を見てまわった。
もうお昼もとうに過ぎて2時をまわっていたので、フィッシュ&チプス屋でフィッシュ&チプスを1つ買い、近くのだだっ広い公園で女房と二人でシェアして食べた。もしかしたら、ここがオックスフォードかもしれないね。だとしたら、オックスフォードも大した事ないな。などと見当違いな事を話した。
その後、文房具屋でやっと地図を買い、それを店員に見せて

「ここはどこ?」


オックスフォード・ハイストリートと尋ね、やっと位置関係が分かった。道はこの道で正しく、オックスフォードからわずか2Kmの所にいたのだ。
オックスフォードの市内は何処を写真にとったらいいのか分からない程、素晴らしい建造物であふれている。街全体が大学になっていて、数十のカレッジが点在している。メインストリートは Hight Streetでその両脇に教会や図書館、マーケットなどが立ち並んでいる。歴史を感じさせ、活気があるなかにも落ち着いた雰囲気があり、こんなところで大学生活を送れたらどんなにか良いだろうと思う。息子達には是非オックスフォードにいってもらいたいものだ。
クライスト・チャーチしかし、ここに入れるのは余程家柄が良いか、頭が良いかのいずれかだろうから、我が家はいずれにも該当しないので、不可能な世界である。しかし、分かっていても親馬鹿はどうしようもなく、息子達にオックスフォードのTシャツとトレーナをお土産に買ってしまった。
5時すぎて、建物の中にも入れなくなったので、ちょっと買い物をして、帰路についた。途中、若干危ない場面もあったが、無事ホテルまでたどり着き、ホテルの地下駐車場に車を停めて、日課になったパブに行き、これも定番の黒ビール(ギネス)とパブ飯で夕食を済ませ、興奮の4日目が終わった。





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