祭礼器
フィアレ / Phiale / ΦΙΑΛΗ

フィアレは浅い鉢状の陶器で、中央に出っ張りがあるのが特徴である。ワインを飲むためにも用いられたと考えられるが、陶器画にしばしば描かれるのはフィアレで神酒を捧げる場面であり、この陶器の用途を示しているものと思われる。またフィアレという名称も、文献などからこの形式のものに用いられていたことが明らかになっている。

黒像式でも赤像式でも製作されてはいるがその数は極めて少なく、銀製や青銅製のフィアレが見つかっていることから、陶器製のフィアレはこれらの代用品として製作されたものと考えられる。装飾は簡素なものが多く、像が描かれることはほとんどない。
Cf. Boston 97.371 (Perseus Project).

大きさ:幅およそ20−30cm前後。

ルトロフォロス / Loutrophoros / ΛΟΥΤΡΟΦΟΛΟΣ

ルトロフォロスは長い胴部に長い頚部、大きな口縁部、頚部に沿うように付いた把手が特徴で、入浴を意味する「ΛΟΥΤΡΟΝ」と運ぶを意味する「ΦΕΡΩ」からなる名称である。文献からこの陶器がこの名前で呼ばれたことは明らかである。その用途は本来婚礼の前に入浴する花嫁のために泉から水を運んでくるというものであったが、未婚のまま亡くなった女性の墓に副葬されることもあった。初めて現れたのは六世紀の中頃で、赤像式でも五世紀の末まで製作されているが、五世紀の終わり頃からは背面に垂直の把手を持つヒュドリア型のルトロフォロスも見られるようになる。また六世紀末から五世紀初頭にかけて、赤像式の画家が黒像式で描いたり、またその一部を黒像式で描いたりした例が存在する。

装飾は華やかなものが多く、頚部と胴部にそれぞれ画面が配され、胴部の画面はいくつものフリーズに分割されることもある。描かれる内容はその用途に対応して婚礼の場面を描いたものや葬儀の場面を描いたものが多い。年代的な違いは、後の時代のものほど単純な作りになっていて、成形が悪くしばしばゆがんだ形のものも見られる。
Cf. Philadelphia 30-4-1 (Perseus Project).

大きさ:黒像式ではおよそ50−60cm前後、赤像式では50cmから80cm以上のものまである。

レベス・ガミコス / Lebes Gamikos / ΛΕΒΗΣΓΑΜΙΚΟΣ

球形に近い胴部にM字型の把手、つまみの付いた蓋、円錐形の台を持つのが特徴で、婚礼用の大鉢といった意味を持つ。碑文の記述などからこの形式の容器がこの名称で呼ばれていた可能性が強いことがわかっている。  既に六世紀の中頃から存在しているが黒像式の例はあまり多くない。赤像式では五世紀の第二四半期から特に盛んに製作されるようになり、その末期まで製作され続けた。

画面は胴部のほか脚部に配されることも多く、装飾は後期のものほど派手になる傾向がある。また形式的にも、後期のものほど装飾的となる。
Cf. Rhode 28.020 (Perseus Project).

大きさ:およそ40−60cm前後。

ピナクス / Pinax / ΠΙΝΑΞ

平たい板状の陶器で、吊り下げたり、釘で打ちつけたりするための穴が空いていることが多い。ピナクスという名称はこうした陶板のほかプレートに対しても用いられたようだが、現在では陶板に対してこの用語が用いられている。

その用途はその画題から判断して二つに分かれる。一つは神域の奉納用として用いられたもので、アテナをはじめとする神々が描かれることが多い。もう一つは葬儀に用いられたもので、葬礼の準備の場面などが描かれる。
Cf. Paris, Louvre MNB 905 (Perseus Project).

大きさ:大きさは多様で、幅10cmから50cmのものまである。

ケルノス / Kernos / ΚΕΡΝΟΣ

儀式用の陶器で、大型の鉢の口縁部に小型の鉢がいくつも取り付けられている。アッティカでは、ドーナツ状の筒の上にスキュフォスがいくつも乗る形態を取り、スキュフォスの底には穴があいていて、ドーナツ状の部分と繋がっている。エレウシスでの宗教儀式に使用されたものと考えられている。

大きさ:幅15−20cm前後

パテラ / Patela

金属製の水盤をモデルにした南イタリアで製作された陶器で、婚礼や葬儀で体を清めるために使用したと考えられる。
Cf. Toledo 1967.137 (Perseus Project).

大きさ:幅20−30cm前後。

ネストリス / Nestoris

丸い胴部を持つ壷で、左右の把手は口縁部と肩をつなぎ、高く持ちあがった先端に円盤状の飾りを持つ。南イタリアを起源とする器形で、何らかの儀式に用いられたと考えられる。
Cf. Harverd 1960.367 (Perseus Project).

大きさ:20−30cm前後。

フォルミスコス / Phormiskos / ΦΟΡΜΙΣΚΟΣ

袋型、あるいはひょうたん型の水差しで、細長い頚部の先には穴があいている。儀式の際に水を撒くのに使用されたと考えられている。

大きさ:20cm前後。