俺は今、日本で一番の監督だと思ってるよ(2)


★やはり資本持っている奴は強い

 もう一つ話があるんだ、「愛のコリーダ」と逆の話。今度新しい会社作る仲間で、フリーのプロデューサーで山本ってのがいるんだよ。 小池一雄(原文ママ)のところの若衆頭だったんだけど、「高校生無頼控」とか「小連れ狼」(原文ママ)とか東宝でプロデュースしてんだな。二七と俺より若いけど、割とやり手なんだよ。で、所謂アートフィルム的な経験は全然ないんだけど、無いのが気に入って一緒にやろうと思っている。
 彼のやりたがっている企画ににね、「ベルサイユのバラ」て言うのがあるだろう、そう、「ベルバラ」。そいつをこっちで作っちゃう、て話がある。フランスの役者、監督で、資本は日本で奴が集めて出して、それを日本で配給し、そして日本以外の世界配給権はパーセンテージでと言う話なんだ。
 笑うなって、いや正直言って半分俺も苦笑して聞いてたけど(笑)、しかしそう言う事を余り馬鹿にしちゃあいけないんだな。そりゃあ、監督してくれと言われたら、俺も頭痛いけどさ、プロデューサー的にだったら別 の次元で動けるからね。ある種の冒険悲喜劇にすればいいと思うよ。多少中身的に俺達がサジェストすれば、宝塚のよりは面 白いものになると思うよ。
 それに、そう言う写真が一本あれば、俺達の作る写真と組んで行けるしね。例えば小屋と契約する時、東宝なら東宝の写 真とくっつけられたら、全部持っていかれんだよな、あがりは。向こうは金もかけずに作ったアホみたいな映画を、例えば「岸壁の母」なんて、それこそ「ベルバラ」をしのぐ写 真を(笑)、俺達が一年間メ一杯かけた映画にくっつけて、半分は持って行っちゃうからね。奴等の半分てのは八割だよ。そりゃあ、やはり資本持っているのは強いですよ。

★日本映画の配給感覚が十年前と同じ

 まあ、フランスとも、アメリカともこれからはそう言う話をして行きたいと思っている訳ですよ。取り敢えずこの二つの国だね、日本映画が組んで行けるのは。特にフランスは日本映画とチョボだと思っているから、ひどい時には日本映画より金がかかってないよ。アラン・ドロンの映画で日本に入ってくるのは、アラン・ドロンのギャラ除いたら、俺の映画より金かかってないからね。
 アメリカでは「タクシー・ドライバー」 のシナリオライターのポール・シュレイダーが、約三万ドルで俺の映画配給してくれる事がほぼ決まったんだけど、作家同志って言うのは国際的に、通 じ合えるし、助け合えるんだよな。今までの日本の監督で、自分でフィルム担いで世界中売りに回った奴なんか居なかっただろう。そう言う意味で俺は、今日本で一番の監督だと思っているよ。
 今度フランス来て驚いたのは、日本映画配給の感覚が十年前と変りがないんだな。十年前俺がついたイマヘイ(今村昌平)の「神々の深き欲望」が、二千ドルでフランスに売れたと聞いて、当時俺、六百万か、まあまあだななんて思って、と、待てよと計算しなおしたら、六十万なんだよ。コピー代にもならない額なんだな。信じられなかったぜ。
 「絞首刑」は千五百ドルだそうだし、最近一番高く売れたのは「田園に死す」で六千ドルらしいけど、売る側が買ってもらってますと卑屈すぎるんだよ。配給する方だって高く買ったら、当てよう、ヒットさせようと一生懸命になるけど、二束三文で買ったフィルムにはやはり一生懸命にはならないだろう。

★アメリカでは企業と結託しても有利

 さっきの、アメリカで仲良くなったシュレイダーだけどさ、奴等は、ポールとレーンの兄弟でやってんだけど、そう、「ザ・ヤクザ」なんかも奴等のホンだよ。で、「タクシー・ドライバー」で当てたので、今シュレイダー・カンパニーての作ってんだな。そしてユニバーサルと年間三本の契約結んでいる。で、その一本はシュレイダー・カンパニィで作り、後の二本はユニバーサルに作らせる。奴等がプロデューサーになってね。で、どう作ってもね、その「タクシー・ドライバー」なんてのは、一番最低の写 真なんだよ。三億ったら最低だよ。
 三億のやつ三本で焼く十億円、ユニバーサルなんかみなこけてもかまわないわけだ。十億位 何もしなくても戻ってくるからね。又奴等の名前だけでも客呼べるし、それに奴等がそんなに馬鹿なもの作る訳ないしな。で、もうかれば当然パーセンテージがあるわけだから、アメリカでは企業と結託しても、大きいわけですよ個人に帰ってくるものが。日本はだいたい十分の一だからね、七パーセントと思ってまちがいない。そうするとね、一億儲けた金で七百万しか入ってこないからね、七百万じゃ映画作れないでしょう、次の。だから、俺は日本では作家が小屋をと思うんだよ。

★観客の新しい見る目を育てたい

 又、この前アメリカへ行って、今フランス来て、思ったんだけど、面 白くても日本に入ってない映画がごまんとあるんだよな。ある時間たつとコピー代が安くなるはずだし、自分で小屋持ってたら、そう言う映画をどんどん輸入して、新しい観る目を育てたいよ、観客のね。
 俺みたいな映画好きでも、ウォルトミュラー(イタリアの女流監督、アメリカで今大人気)なんて今度初めて知ったんだし、俺なんかが面 白いと思うのはね、たいていの人が面白いと思うよ。いや本当、「ジョーズ」でも面 白えと思うんだ俺は。「キング・コング」は俺が撮ったらもっと面白いのにと思ったりするし。でも、やっぱ「ジョーズ」の方が、ジョーズ
に作っているね(笑)。
 (ゴロワーズを)一本いただけますか、こっちのタバコきついですねえ。

 

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