長谷川和彦[パリ]特別インタビュー
俺は今、日本で一番の監督だと思ってるよ

インタビュアー 小松沢陽一

「ムービーマガジン」1977年月号 p.32〜35



★日本映画は音楽が一番遅れている

 カンヌ? 五分の一は血の場面で出て行ったな。アメリカでは無かった反応だよ。暴力礼讃かなんて質問も会ったしな。殺しの場面 が強すぎて、トータルに見れなかった人間もいたよ。
 構成が特殊だもんな、 血が頭だし。普通は「タクシー・ドライバー」みたいにケツなんだよ。でも俺の映画は殺した後が問題なんだしな。
 日本では、殺しの場面で笑いが起こったんだよ。安心したけど(それが)予想した以上だったな。どうしてそんなに笑うのかと。しかし深刻すぎるから、笑うんだな。リラックスさせようとして。アメリカでは、それが予想した位 の笑い。フランスでは血に圧倒されたのか笑いが少なかった。でも、トータルには支持してくれたよ。ドイツやスペインから、ぜひ俺の国で紹介してくれって話もあったし。
 うん? マックス・テシエがアメリカ映画みたいだって言ってたって(フランスで第一人者の日本映画研究者)六月から国際交流基金の招待で日本に行ってる(彼は「青春の殺人者」の批評を「酒とコカ・コーラの落し子」の題で書いている) 。 うん、でも日本自体がそう言う国だからね。例えば俺にとって、琴や尺八のピューて音の方がエトランゼな訳だ。ローリング・ストーンズの方が親しみ深いし。
 でも、音楽はアメリカで一番拒絶反応が大きかったな。どうして英語の歌使うのかと。まあ、やつらにしてみれば、俺が西部劇観た時、森進一がかかるみたいなものだからな (笑)。でもやつらは森進一を日常聞いてなくても、俺達は英語の歌をいつも聞いているもんな。で、日本のミュージシャンの作った曲だし、これが日本の音楽も井上陽水て言ったって、やっぱ世界じゃ通 用しないしな。

★簡単に言うと、儲けたい

 念願の第一作撮って、好調かって? そんな事ないよ。次にアホな映画撮れば、それでおしまいですよ。でも……、なんて言うのかな、こう、じっとしていたら負ける、て言う感じはあるよな。すがる物なんか何も無いんだしさ。キネ旬でベストワンとったと言うのも、たいした事じゃないんだよ。
 簡単に言うとね、儲けたいんですよ、僕は。 儲けないとね、次の映画が撮れないんだな。又、今の日本で俺みたいな奴が映画を作って行く為には、やはり、これからは作家自体が小屋持ってゆかなければだめだと思うんだ。今は三億位 かかるんだけど、本当に持とうと思っているんですよ。
 その……、食う為の金はね、一千万あっても百万あっても、そんなに違わないって言うのは、経験上わりと知っているんだよね。金あると、飲んでバクチで負ける位 ですよ。だから、てめえの家を買おうて言う事には、何んて言うのかなあ、こう、胸がおどらないんだけどね。それが自分の映画館を持つて言う事だったら、こう、非常に胸がわくわくする訳ですよ。その前でね、こう、呼び込みでも何でもやっちゃうぞ、て気持ねえ、そうやっていると、こう、楽しい感じがするね、うん。
 今度の映画もね、封切り一週間前に豊(水谷)を連れて、徹夜で新宿中の電柱にポスター貼って回ったんだよな。もちろん違法だけど、見つかりゃ逃げればいいと思って(笑)、やはり一本目だし、絶対勝ちたかったから、だから、そこまでやったんだけど、自分が儲かると思ったら、もっとやるよ。
 ああ言う、東宝資本のはじっこでやるのでは、当っても東宝が儲けるだけでしょう。今回もけっこう当って一億五千万位 行ったんだよ。でも最初から監督料なんてゼロなんだから、まあ、今回のは儲けようと思って作ったんではないし、それはそれでいいんだけど、二本、三本と、そう言う状態では続かないよね。何んて言うのかな、貧乏しながら、それでも撮り続けてます、て言うのは、まるで美談なんだけど。美談なんてのは絶対に嘘なんだよ。

★撤退不能のところまで追い込みたい

 角川? うん、若くしてやり手で、評価する部分もあるよ。だけど、奴は商売としての映画が好きなんで、映画自体が好きなんではないんだよな。作家の選び方でもそれが判るし、イエスマンとは言わないまでも、奴はプロになりきっている人間としか組まないだろう。あれが」のさばりすぎても困るよな。いや、あれはあれで頑張ればいいけど、しかしああ言う映画作るしかないんだとなったら、金の無い奴は本当に困るからな。だから奴が次の映画で宣伝費五億かけるなら、こっちは一億しかかけられなくても、作品としてそれに勝つものにしょうて気持はあるよ。
 奴なんかはっきりと映画からいつでも撤退する気でいるのは、ぜったい小屋持とうとしないので判るよ。一緒に飲んだ時「お前金持ってんだから、小屋作れ、映画やるんだったらその方がぜったい儲かる」と言ったら、奴は、そんなヤバい事はしないと言ったな、ヤバイ事はと。小屋持つと撤回しづらいから。
 俺は撤退するにも何も、何も無いから、本屋やってないし(笑)、当分これしかやってないんだから、逆に撤退不能の所まで自分を追い込みたい、て気持があるよ。そうしたら人間、苔の一念何かやるでしょう(笑)。

★映画は下からやれなきゃだめ

 で、新しい会社今作っているんだ。ポリドールで、井上陽水とか小椋佳発掘して当てた奴で、売れたから、今自分でキティレコードて会社作った奴なんだけど、まだ三四と若いんだ、で昔から映画やりたかった奴で、例えば、陽水の最初のレコードは、東宝映画の劇伴なんだな。俺も音楽とは昔から組みたいと思ってたし、そいつと、それから小説書いているので村上龍て若いのがいるだろう、芥川とった。そいつ等と会社作ってんだよ。
 基本的にはね、次の映画作るのに、一億五千万はあるんだ。キティの方で用意して。ただ俺は、もう少し力つけてからって気持、今でも無くはないし、あったんだけど、やっぱしどんどんやらなきゃ、やばいぞって気持も同時にあるんだな。小屋持つ金はこの写 真が当らなきゃあきついんだけどね。村上が今ホン書いているよ。
 いや、「ニューヨーク・シティ・マラソン」とは違う。オリジナルでね「コイン・ロッカー・ベービィ」
てんだ。ちょっとしたSFでね、十年位 前から、日本じゃあコイン・ロッカーに赤んぼ棄てんの流行りはじめたけど、それらの中に生きてんのが大分いるんだよね、本当に。まあ、野坂みたいな戦争経験した世代と、赤んぼを棄てる世代。俺達なんだけどさ、原田(芳雄)でも使おうかと思ってるんだ。そして、成長したコイン・ロッカー・ベビィの三つの世代を描こうと思ってるんだよ。ロックの似合う写 真にしてね。
 村上と合うかって? うん、奴はともかく若いからね。生活経験的にネタが多い方じゃないよな、又、ストーリーテラーでもないし。大分傍からサジェストして行かなければいけないんだけど、あの感受性はやっぱ鋭いからね。かなりいいホンになると思うよ。それに、あいつ本気で映画やる気あるからね。俺は本気でやる奴としか組まないよ。今度も一番下の助監につけるつもりでいるんだ。例えば奴は「限りなく透明に近いブルー」を、金出すから監督しないかって言う話、それこそゴマンとある
んだよ。でも俺は、本気で映画やる気ならよした方がいいと言ったんだ。(映画は)下からやれなきゃあだめだよ。
 まあ、最初の出会いは、奴が芥川賞とって、有名なって、何の事はない、俺とのテレビの対談だったんだけど、無名でも力があったら、やはり俺は組織して行きたいね。そう言う事が出来る為にも、俺は自分の常設館が欲しいと思うんだ。

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