貯蔵器
アンフォラ / Amphora / ΑΜΦΟΡΕΥΣ

ワインや油などの液体や穀物などの貯蔵あるいは輸送に用いられた容器で、「両側」を意味する「ΑΜΦΙ」と「運ぶ」を意味する「ΦΕΡΩ」をその語源とする。

その名の通りに両側に把手が付き、肩の部分に最大径を持つ。アンフォラは大きく分けて頚部と胴部とが明確に区分されているネックアンフォラと口縁部から脚部まで滑らかな曲線を描くベリィアンフォラの二つに分類される。このほかにも頚部が滑らかに広がるノーラ型アンフォラや、パンアテナイア祭で行われた競技の勝者に送られたパンアテナイア型アンフォラ、陶工ニコステネスがエトルリアのアンフォラの器形を真似て作ったニコステネス式アンフォラ、底の尖った尖底アンフォラなどがある。

アンフォラは黒像式の登場以前から赤像式の終わりまで製作され続けたが、他の器形と同様に年代とともに細く縦長になる傾向が見られる。
ネックアンフォラ / Neck Amphora

アンフォラの中でも頚部と胴部が明確に区分されているもので、その始まりは古く、頚部に「SOS」の文字が装飾されたいわゆるSOSアンフォラを始め幾何学様式の時代から存在していた。黒像式では頚部にはロータス・パルメット文が描かれ、胴部に像装飾が施されるのが一般的であった。六世紀中頃のテュレニア式アンフォラは胴部が細長く、エクセキアスなど六世紀後半の画家によるアンフォラは肩の張った横幅のあるものであったが、その後は両者の中間的な形式に落ちついた。
Cf. Rhode 25.083 (Perseus Project).

赤像式が生まれて数十年の間はほとんど描かれず、五世紀に入ってその変種であるノーラ型アンフォラが流行したがこれも後半には廃れてしまった。これと入れ替わるようにして全体的に細長く、ねじれた把手を持つネックアンフォラが現れた。しかしこれもまた五世紀の末頃には姿を消してしまった。
Cf. Rhode 15.005 (Perseus Project).

大きさ:黒像式の場合高さ40cm前後のものが多いが、後期に好まれた小型のものは25cm前後。赤像式も40cm前後が多いが、四世紀半ばには長大化し、60cm前後のものも多い。
ノーラ型アンフォラ / Nolan Amphora

ネックアンフォラの一変種であり、頚部から口縁部に向かって滑らかに広がっているのが特徴である。その名前はこの形式の陶器が大量に発見されたイタリアのノーラという地名に由来している。この形式を最初に用いたのは恐らくベルリンの画家をはじめとする五世紀初頭の画家であり、その後継者たちによって数多く装飾されたが、五世紀の後半には全く姿を消してしまった。

その装飾は概して簡素であり、地平面を表すメアンダー文が配されるのみで、一人か二人の人物像による構成がほとんどである。
Cf. Rhode 23.323 (Perseus Project).

大きさ:サイズにそれほど違いがなく、30−35cmぐらいのものが多い。
パンアテナイア型アンフォラ / Panathenaic Amphora

アテネで四年に一度行われた大パンアテナイア祭での競技の勝者に賞品として送られたもので、その中にはアクロポリスにある聖なるオリーヴから植樹したアカデメイア付近のオリーヴ畑から取れた油が入れられていた。  口縁部と脚部が小さく胴部が大きいのが特徴で、装飾には片面には二本の円柱の間に武装した女神アテナが前へ脚を踏み出した姿が描かれ、反対側には戦車競技やレスリングなどそれぞれの競技が描かれるのが通例であった。
Cf. Tampa 86.24 (Perseus Project)

現存する最古の例は560年頃のもので、赤像式の時代になっても黒像式で描かれ続け、赤像式の消滅後のヘレニズム時代に入っても製作され続けた。また四世紀頃からはその年の筆頭アルコン(執政官)の名前が記されるようになり、絶対年代の設定において重要な資料となっている。

なお実際に賞品として用いられたものの他にこれを模倣した、土産物的なアンフォラも多数製作されている。またこの形式は赤像式の画家たちに取り入れられ、特に五世紀前半に流行した。
Cf. Philadelphia 31-36-11 (Perseus Project).

大きさ:六世紀から五世紀は60cm前後だが、四世紀には長大化し、80cm前後になる。なお同形式を模した赤像式の例は40−50cmほど。

尖底アンフォラ / Pointed Amphora

形式的にはパンアテナイア型アンフォラに近いが、脚部がなく底が尖っているのが特徴で、小さな台とともに使用されたと考えられる。黒像式、赤像式ともに描かれてはいるがその数はきわめて少なく、五世紀前半に限られている。

装飾の仕方はそれぞれ異なることが多いが、いずれも丁寧な描写によって描かれている。
Cf. Toledo 1958.69A (Perseus Project).

大きさ:50−60cm前後のものが多い。

ニコステネス式アンフォラ / Nikosthenic Amphora

本来エトルリアのブッケロ陶器に用いられていた器形であり、口縁部と胴部に接続する平坦で幅広い把手が特徴である。これは530年頃の有力な陶工(あるいは工房のオーナー)であるニコステネスがエトルリアの市場向けに取り入れたもので、赤像式の時代に入っても彼の後継者の陶工パンファイオスによって製作された。しかしこれを他の工房が取り入れることはなかったようで、その数は少なく、五世紀に入るとともに姿を消してしまった。

装飾の方法は多様であり、頚部と胴部を別の画面として扱うのが一般的だが、特に黒像式には胴部をさらにいくつものフリーズに分割した例も多い。また多くの場合幅広い把手の部分にも装飾が施される。
Cf. Rhode 23.303 (Perseus Project).

大きさ:黒像式は30cm前後、赤像式はやや大きい。

ベリィアンフォラ / belly Amphora

頚部と胴部がくびれることなく曲線的な輪郭を描くアンフォラで、口縁部や把手の形式によってA型・B型・C型の三つに分類される。A型は角張った口縁部を持ち、把手の断面が方形になっているものである。Cf. Philadelphia MS3442 (Perseus Project)。B型も同じく角張った口縁部を持つが、把手の断面が円形になっている。Cf. Harvard 1972.42 (Perseus Project)。C型は丸い口縁部を持ち、把手の断面が円形になっている。 これらの中ではB型が最も古く、既に六世紀前半に現れている。A型は六世紀半ば頃に現れ、C型はその後半になって出現し、黒像式よりも赤像式の例のほうが多い。三形式とも生産され続けたが、いずれも五世紀の半ば過ぎには姿を消してしまった。

装飾は黒像式の時代においては胴部にパネル状の画面を配し、脚部近くの光線文を除けばすべて黒で塗りつぶすのが一般的で、A型の把手には蔦の文様が描かれた。また初期の例を除けば、パネルの上部には多くの場合ロータス・パルメット文が描かれた。赤像式も六世紀の間は黒像式と同じような構成で装飾されたが、五世紀にはいるとパネルを廃止し、装飾も描かれるとしても地平面を表すメアンダー文などに限って、真黒な画面に一人か二人の人物像が浮かび上がるような構成が一般的になった。

大きさ:A型は例外もあるもののだいたい60cm前後で、B・C型よりも大きい。B型は40−50cmのものが多いが、20cm台のものも多い。C型はおおよそ40cm前後。

ペリケ / Pelike / ΠΕΛΙΚΗ

用途はアンフォラと同様と考えられるが、陶器画に香油入れとして描かれている例も多い。ペリケという名称は本来キュリクスオイノコエレカネなどに対して用いられていたものであって、この器形にペリケという名前を与えたのは現代の学者である。

C型アンフォラをもとにして生まれたもので、断面の丸い口縁部と把手を持つが、ペリケの場合は最大径が胴部の下半に移っているのが特徴である。ペリケが現れたのは赤像式の出現後の六世紀末のことで、その後も末期の赤像式まで製作され続けた。装飾は黒像式の場合はパネル状の画面を配置する場合が多く、ベリィアンフォラと似通った構成のものがほとんどだが、ペリケを扱ったのは一部の画家に限られている。赤像式の場合もベリィアンフォラとほぼ同様の構成によって描かれるが、描写の質が劣る場合が多い。
Cf. Harvard 1925.30.46 (Perseus Project).

大きさ:30−40cmぐらいだが、赤像式の中期あたりから多様化し、20cm台のものや50cmを越えるものもある。

スタムノス / Stamnos / ΣΤΑΜΝΟΣ

スタムノスは大きな胴部とベルクラテルのような把手、短い頚部と広い口縁部が特徴で、混酒器とされることもあるが、蓋を伴う例も見られるので貯蔵用と考えられる。スタムノスという名前はこの形式のものだけでなくアンフォラペリケなどに対しても用いられていたようである。

スタムノスが最初に製作されたのは六世紀の終わり頃の赤像式であり、一部の黒像式の画家もこれに描いてはいるが数は多くない。赤像式では盛んに生産されたが五世紀の半ばをすぎると消滅してしまった。

装飾はそれほど派手ではないが、把手の上下には複雑なパルメットと渦巻の複合文が描かれることが多い。ほとんどの場合両面を別個の画面として扱い、パネル状にすることも少ない。 形式的には年代的な違いはほとんどないが、やはり多少縦長になる傾向は見られる。
Cf. Harvard 1925.30.40 (Perseus Project).

大きさ:おおよそ30−40cmぐらいだが、赤像式の中には60cmを越えるものもある。

アンフォラ(輸出用) / Transport Amphora

主にワインの輸出に使用された大型のアンフォラ。全体的に細長く、底が尖っているのが特徴で、これは船に積む際に大きく頑丈な脚を付けて立てておくよりも、斜めに積み重ねたほうがスペースを有効に使えるためだとされている。購入された後は地面に突き刺したり、丸い穴を開けた台に刺し込んだり、横に倒したりして保管した。その器形は地域によって異なり、制作地の同定を可能にしている。また年代が降ると把手の上面に産地と収穫した年代を記したスタンプが押されるようになる。
Cf. Rhodian Amphora from Paphos (University of Sydney).

大きさ:おおよそ50−70cm

ピトス / Pithos / ΠΙΘΟΣ

大型の貯蔵甕で、半ば地面に埋めて使用することもあった。レリーフ状の装飾が施されたものも多く、小型のものはピタリオンと呼ばれることもある。
Cf. Sparta (Laconian Professionals ).

大きさ:1m程度が多いが、2m近いものもある。