社会学とギリシア陶器

神話や政治などは文学中の記述によってかなり詳しく現代まで伝わっていますが、民衆の生活となるとアリストファネスの喜劇などの一部を除けばこれを記述したものはわずかです。そこで重要となってくるのが陶器画なのです。陶器画には神話だけでなく多様な現実の生活の場面が描かれており、取りあげるときりがありませんが、例えば最も頻繁に描かれた宴の場面には、寝椅子に横たわる男たちにヘタイラ(遊女)たちが仕え、竪琴や笛、カスタネットなどで演奏する楽士たちを伴い、コッタボス遊び(ワインの残りかすを的に向けて飛ばす遊び)に興ずる様子が生き生きと描かれています。

このほかワイン作りの様子やオリーヴ拾い、彫刻家や陶芸家の工房の様子、魚や肉、香油を売る商人たち、靴屋や大工などまで描かれています。また近年ジェンダーの研究が盛んになってきていますが、やはり文献資料が少ないために陶器画がかなり重要な資料となっています。古典時代以降は市民階級の女性の生活を描いたものが多くなり(必ずしも女性の地位の向上を意味しているわけではありません)、特に好まれて描かれた婚礼準備の場面などはその実際の様子を探るのに役立っています。婚礼の場面とともに重要といえるのが葬儀の場面ですが、こちらは幾何学様式時代後期から描かれ続けており、その様子を復元する重要な資料となっています。