政治と陶器との関わりは他の分野ほどははっきりしていません。唯一検討が可能なのはアテネの陶器ですが、しばしば取り上げられるのは、偕主ペイシストラトスから民主派への移行とそれに伴う陶器画の変化です。ペイシストラトスはしばしば自らを英雄ヘラクレスと同一視したといわれ、実際彼の時代の陶器にはヘラクレスの活躍ぶりが頻繁に描かれています。一方の民主派は偕主のにおいの残るヘラクレスを嫌い、アテネ民主政治の象徴としてテセウスを偉大な英雄に仕立て上げました。陶器画を見ても、それ以前にはせいぜいミノタウロス退治が描かれる程度だったテセウスの様々な活躍がたくさん描かれるようになった一方で、ヘラクレスは極端に描かれなくなります。