文学とギリシア陶器

文学との関係でいえば、多くの場合神話とのつながりがあるので、ここでは悲劇や喜劇などとのつながりを考えてみたいと思います。ギリシア、特にアテネの陶器画家にとって同時代に上演された演劇は題材としては好材料であったようで、悲劇や喜劇、あるいはサテュロス劇に取材したと思われる陶器が数多く出土しています。その演劇が現存するものであれば陶器画家がその場面をどのように理解していたかを探ることが可能であるし、現存しないものであれば陶器画の内容からその演劇を復元することも不可能ではないのです。また特に南イタリアやシチリアの陶器には演劇の舞台を描いたものが数多く見られ、当時の演劇の舞台構成などを探る絶好の資料ともなっています。

また時にギリシア陶器はギリシアの文学がいつ広まったかを知る指標として用いられることがあります。これは特にホメロスのイリアスやオデュッセイアにおいて盛んで、ホメロスの語る神話の場面が描かれ始めた時期がホメロスの作品が伝わった時期だとされています。さらにあまりにその場面がホメロスの記述とそっくりだと、それを描いた陶器画家が手元にその作品を置いて読みながら描いたのではないかとされることさえあります。しかしストーリーがホメロスを介してではなく、民間伝承のような形で伝わった可能性もあり、また作品の全文ではなく一部のみが伝わったかもしれず、一概には言えないようです。