考古学とギリシア陶器

考古学資料としてのギリシア陶器の重要性は、その他のどの文明にもいえることですが、陶器は腐食腐敗することなく残り、また最も多く出土する資料であり、時代によって様式の変化が見られるものであるため、年代を特定する資料としての役割にあるといえます。これによって陶器の出土した層に属する遺構や遺物の年代を特定することが可能になります。

陶器による年代には大きく二つがあります。一つは相対年代と呼ばれるもので、ある陶器と別のものとを比較し、様式や技法などの特徴からどちらが古いかを決定するという作業を繰り返すことで確立されたものです。もう一つは絶対年代とは呼ばれ、ある陶器を特定の年代に決定づけるもので、こちらはかなり困難を伴い、確実な資料は多くありません。例えばその年のアルコン(執政官)の名前を記した特別なアンフォラや、ペルシアとの戦いで敗れた戦士を弔ったマラトンの塚から出土した陶器などがこれにあたります。相対年代も絶対年代と併用することでかなり正確な年代付けが可能となり、誤差10年あるいは5年といった範囲での年代付けが可能な場合さえあります(もちろん異論もありますが)。
また陶器は年代特定のためだけでなく、交易や植民都市建設の証拠として用いられます。ある都市で製作された陶器が別の都市で発見されれば、それが直接的なものか間接的なものかは別として、両者に交易関係があったことが推測されます。またそれまでギリシア人の居住の痕跡がない場所にある時期から突然ギリシアの陶器が数多く出土するようになり、特にあまり交易されない生活雑器が発見されれば、そこに新たな都市が建設された可能性も考えられます。
また陶器は遺跡や遺構がどのような性格のものだったかを探る上でも重要となっています。簡素な貯蔵用の陶器ばかりが出土すればそこが倉庫や貯蔵庫であったことが推測されますし、奉納品としての銘文が刻まれているものが(特に複数)出土すればそこが神域であった可能性が高く、場合によってはそれがどの神の聖域だったかまで推定できます。
このようにギリシアの考古学において陶器は欠かせない資料であり、これを正しく解釈することによってのみその遺跡の本来の姿を理解することができるといっても過言ではありません。