クレタ・ミュケナイ時代以前のテラコッタはいずれも手作りで、簡素な作りのものがほとんどですが、中にはアルゴス博物館所蔵の「レルナのアフロディテ」像のように優れたものも例外的に存在します。

クレタ時代では特に中期において人物や動物のテラコッタ像が作られ、聖域に奉納されたり墓に副葬されたりしました。しかし本格的なテラコッタ像の生産が始まったのはミュケナイ時代の後期になってからでした。これらのテラコッタ像は冠をかたどった円筒形の頭部、横から押しつぶされたような偏平な顔、逆に前後から押しつぶされたような平らな胴体を持つのが特徴です。これらの像はその手のポーズによって三つのタイプに分けられます。

最初に作られたのがΦ型(図1)と呼ばれるもので、手と体が一体化して円形の胴部を持つことから名づけられました。次に登場したのがΤ型(図2)で、ひじを張って腕を組んでいるように表現されています。最後に登場したのはΨ型(図3)で、両手は体から離れ、ばんざいをしているのがその特徴です。これらはいずれも手作りで、褐色の線による装飾が施されています。

このほかにも戦車や動物をかたどったテラコッタ像も見られます。これらはいずれも家や墓、聖域など様々な場所から発見されていることから、その用途を特定することは難しいようです。

ミュケナイ文明が崩壊した後のいわゆる暗黒時代のテラコッタ像は他の美術が急速に衰退したのと同じようにその数はきわめてわずかしか発見されていません。再びその生産が盛んになるのは幾何学様式の後期のことでした。この時代のテラコッタ像の特徴は、ろくろで作った筒状の胴体に手作りの頭と手足を取り付けて作られていることです。これらには当時の陶器と同じような装飾が施されています。人物像のほかにやはり円形の胴部を持つケンタウロス像なども作られました。

図1
図2
図3