
『死に顔を見ていないから、
パキさんも孟さんもオヒゲも
まだ、生きてるんだ』(7)
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最高の戦後左翼史を書いた 荒井 じゃ、仲直りして付き合いは続いたんだ。 長谷川 うん、映画にはなってないが、その後俺のホン2回付き合ってもらってるからね。東宝が健さんでやった『海峡』って映画あったろう。青函トンネルを掘るヤツ。あれ企画の段階では東映と競争だったんだよ。東映は文太さんでな。俺、孟さんと一緒に2ヵ月龍飛岬に行った。トンネル工事の飯場で土方のオッサンたちと生活したんだ。俺も孟さんも青函トンネル掘ってるからね、実際に削岩機持って。ま、1メートルくらいだけど(笑)。今思うと、なかなか楽しい調査合宿だったかなあ。飯場の連中といろんなことしたよ。夜中にカンテラ下げて、川にイワナ突きにいったり。孟さんも群馬の田舎で少年時代すごした人だから、けっこう楽しんでたよ。でも、俺も孟さんも「坊ちゃん」なんだなあ、とは思った。土方の兄ちゃんオッサンたちの中で生活するとね。軟弱なんだよ。 荒井 映画はどうなったんだよ? 長谷川 企画はしょせん「感動の大工事記録映画」だからね。それだけじゃ面 白くないだろう。結果、青函トンネルに、UFOが現れるようなストーリーになっちゃったんだよ(笑) 荒井 その頃からそれかよ。 長谷川 最果ての龍飛岬は、なかなか幻想的な場所でな。濃厚な霧がいつも立ちこめてるし。それに刺激されたんだよ。宇宙人のベムくんがトンネル掘ってたりして、ラストは、青函トンネルを飛び抜ける、UFOの主観なんだよ。孟さんはかなり嫌がったんだが、強引に書かせたんだ。ただ、俺は娯楽映画のつもりで言ってんだけど、彼は観念で書くからな。ストーリーを読んだ東映は立派だったね、ただちにやめたね。何の迷いもなくやめたよ(笑)。 荒井 でも「連合赤軍」は脚本まで書いたんだろう? 長谷川 浅間山荘が売りに出たんだよ。6,500万で。それを俺が3,800万まで値切っって、ディレカンで買おうとしたんだ。十分リアリティはあったんだ。どうせ連合赤軍やるんなら、浅間山荘は必要なんだし、オープンセット建てること、宣材としての付加価値を思えば安いもんだ。買って、作って、壊そうぜ、よしやるぞって気になって、孟さん連れて浅間山荘も見に行ったんだ。数日かけて・総括・が行われた榛名の山岳アジト跡を探したり、死体が埋められた杉林を歩き回ったりして、映画の構想を話した。「連合赤軍」に関してはそれ以前から孟さんと調査はしてたんだ。10何回は一緒に裁判も傍聴したし。集められるだけの資料は集めたりしてたんだが、具体にするきっかけが無くてな。浅間山荘を買うと決めて、急にリアルになったんだ。 荒井 今度は喧嘩しなかったのか? 長谷川 いやまあ、当然いろいろあったが......。まず映画の基本構想でずいぶん揉めた。俺は『連合赤軍』を単なる実録映画としてやる気はないと。じゃあ、何をやるんだ?というと、これが説明難しくてな。「孟さん、金属スプーンはなぜ曲がると思う?」から始まったんだ(笑)。 荒井 オカルト「連合赤軍」か? 長谷川 ほらな、おまえなんかもそうやって馬鹿にするだろう。孟さんはもっとシリアスな60年安保左翼で唯物論者だから、「長谷川、連赤をオカルトにするのか!」って大変だったよ。でも結果 、強引に説得したんだ。 荒井 よく田村孟が納得したな。 長谷川 そのシナハンは、高沢皓司さんというジャーナリストに同行してもらってたんだ。彼は赤軍派の救対をやってた人でね。今も日本赤軍関係の本を書いてる、いわば全共闘世代の当事者なんだ。この高沢氏が俺の話に乗ったんだな。「僕らとしても、事実はどうだったんだ?という映画より、長谷川さんが目指してる方向のほうが興味が持てる。夢があるじゃないですか」とね。孟さん、この高沢氏にはある種の畏敬の念を持ってたから、彼の言葉には心が動いた。「そうなんだよ。『人間て一体何なんだ?』という夢をやるんだよ」と俺がたたみこんで、やっと納得してもらった。まあ、丸3晩かかったけどね。 荒井 で、ついに脚本執筆か。今度は早かったの? 長谷川 いやいや。「このホンは浅間山が見える場所じゃないと書けない」って言うから、浅間にホテルとったりしたけど、えんえん書けなかった。何しろデータの量 が膨大だからな、どう切り取るか、確かに難しいんだ。で、今思うと俺が悪い提案をしたんだ。浅間山荘で始まって浅間山荘で終わる構成にしようと。そしてメ総括モを含めた必要不可欠な過去は、主人公たちが人質の牟田泰子に語るという形でやってみようと。誰が考えてもこれが一番短い構成には違いないんだ。浅間山荘そのもは、買うつもりだから、撮影現場として、リアルに存在するんだし。いつもは「あれを書け。これも欲しい」と欲張りな俺がそう言うもんだから、孟さんも「そうだな。それぐらいの覚悟決めないと、これは映画になんかならないよな」と書き始めたんだ。それからは結構早かった。2ヵ月強で脱稿したんだが、ホン読んで「しまった」と思った。 荒井 出来が悪いのか? 長谷川 いや、全ては俺の提案が間違いだったんだ。マスコミ報道のダイジェスト版みたいな印象になってしまった。連合赤軍事件て、俺たちまずTVで浅間山荘見てその後メ総括モのこと知ったじゃないか。孟さんの脚本は、結果 あのまんまの順番で展開していくんだ。おかげで印象が変わらないんだよ、報道と。何か新しいモノを見た感じがまるで希薄なんだ。映画における回想形式の弱さがモロ出たとも言える。「牟田泰子に語る」といっても、所詮は回想だからさ。どうしても詠嘆的になる。何か自分たちの犯した過ちを反省してるような感じになるんだ。現在も獄中にいる永田、植垣、坂口たちがそれぞれ書いた手記がある。それが事実のデータだと思って俺たちは読むが、それは絶対嘘でさ。やつらは、懺悔し、回想しててこれを書いてる。しかし、実際の行為の最中に、懺悔したり回想しながら行為する人間はいないわけだ。ましてや、やつらのボルテージ、時代のボルテージはメチャクチャ高かったんだ。その高いボルテージの果 てに行われた「同士殺し」なんて行為の中には、快感もあれば正義もあったに違いない。それを映画でまるごと描けば、必ず可笑しいはずでね。可笑しくて、哀しいはずなんだ。それこそが、俺のやりたいことなんだが......。そのためには、苦しくても正々堂々と現在進行形で描くべきだった。回想という形式に逃げたのが大敗因だったんだよ。 荒井 オカルトのほうはどうだったんだ? 長谷川 打ち合わせの時、仮にミスターXと呼ぶ架空の人物を作ってたんだ。オカルティックな試行錯誤を本音でやる人間としてね。この人間に新道寺という名前を付けて、孟さん書いたんだが、要はね、総括されて死にかけてる奴の、泣き言めいた妄想に見えるわけだな。「人間って死んでも死なないのかもしれないぞ」みたいなことを、孟さん自身が信じてないから。というか、本当の興味を持ってないから。長谷川もああ言うしと、一生懸命書いてくれてはいるんだが......。 荒井 連合赤軍事件て、世代的な意識としては、孟さんとゴジのあいだにギャップは無かったの? 長谷川 それはあったんだろうなあ。俺はやつらと同世代ではあっても、アッパラパーのノンポリ人間だし、孟さんは60年安保世代のクソ真面 目な左翼だし。全共闘世代に対して、孟さんはある種の畏敬の念が強かった。「おまえたちは、俺たちが出来なかったことをよく頑張ってやった。しかし、沢山の大きな過ちを犯してしまった」みたいなさ。それは俺にとっては当時の朝日新聞の論調とまったく同じなんだよ。だから、マスコミ報道のダイジェスト版みたいだと感じたんだろうな。それと、永田たちの手記が持つ反省ゆえの暗さから、どうしても抜け出せてなかった。「突き放してまるごと描く」というのが、こういう暗く重い事実をベースにドラマを書く時の基本だと思うけど、孟さんは実在のモデル人物たちに対して、畏敬の念が強いぶん、突き放せないんだよ。 荒井 ホン直しの話はしたのか? 長谷川 もちろんやったよ。今話したようなことは全部言った上で、「もっとディテールで書いて下さい。『青春の殺人者』の母親殺しが力があったのは、ディテールが観念と競り合ってたからだと思う。このままじゃ、事実データを詠嘆的にダイジェストして、あなた流の観念言語でまとめただけじゃありませんか」みたいに。 そしたら孟さん、怒ったね。「ゴジね、俺は、最高の戦後左翼史を書いたつもりだ」と。「戦後左翼史をこれ以上に書いた表現は、小説も映画も含めて、日本中にない。僕はやるだけやりました、これで駄 目なら勝手にやって下さい」とまた例の如く突っぱねられた。まあ、これはいつものことだから、またじっくり話し合ってやり直そう、と思ってた矢先に、相米の馬鹿が『光る女』の現場で、2億近い大赤字を出しやがった。とても「ディレカンで浅間山荘を買う」なんて状況じゃ無くなったんだよ。今にして思えば、経営的にはディレカンはあの時すでにパンクしてたわけでね。「連合赤軍」撮るのはディレカンを潰す覚悟した時だ、とおもってたら、覚悟する前にディレカンが潰れてしまった。 荒井 田村さんにギャラなんか、払ってないよな? 長谷川 製作資金が集まって、クランクインの目途が立つまで、ノーギャラで付き合ってくれますか?」と頼みこんだのがスタートだからな。孟さん、そのことは気持ちよくオーケーしてくれてた。感謝してるよ。 荒井 台本は印刷しなかったの? 長谷川 黒地に朱色で「連合赤軍」、100部刷ったよ。直すつもりだから外には一切出さなかったがね。今、10何年ぶりに連赤の脚本、自分で書いてて、孟さんとの試行錯誤は役に立ってるよ。あの人が苦しかったのも、よくわかる。 |
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