『死に顔を見ていないから、
パキさんも孟さんもオヒゲも
まだ、生きてるんだ』
(6)



怒ってホンを書くことが出来る強さ

荒井 ゴジが自分でホン直しはしなかったのか?

長谷川 ある方向の提案はしたんだ。スナックに暴走族来てたじゃないか、あれをもっと膨らませて、映画の後半をアクションにしようと。浜辺のディスカッションより、俺にはその方が分かるんだと言ったら、孟さんまたまた大激怒したんだ。「僕は暴走族映画なんか書くつもりはない」「長谷川はなんか自信を失って、馬鹿な風俗映画を撮ろうとしている、僕はもうこの映画とは付き合わない」とまったく逆効果 でさ。俺が馬鹿な提案をしたんで、彼も開き直る理由が出来たんだな。「シナリオの構成は君も一緒に考えたわけだから、君にも使う権利はあるが、僕の書いた台詞は一言一句使わないでくれたまえ。これは著作権法で決められたことだから、破ると君は法律を犯すことになります」と宣言されちまった。インの2、3日前だぜ。大喧嘩だよ。ま、今平さんがなだめたけど、結果 、決定稿と本人が言う台本が現場に届いたのは、インして20日後だからね。間に合わないよ。

荒井 ディスカッション版でインしたわけね。

長谷川 ディスカッション版と決定稿の間があったんだよ。でもやっぱり駄 目だったね。ディスカッションの要素が半端に残りながら、芯になるモノがない感じの脚本だった。まあ、それは出来上がった映画もそうなんだよ。ディスカッションに代わるものを俺が発見したわけじゃないんだ。ただまあ、孟さんが家族帝国主義という観念でとらえようとしてたものを、もうちょい「炎と情念」というか「道行き気分」に寄せただけでね。だから、後半の撮影はもっぱら台本の観念的な台詞を切る作業だったな。

荒井 前半は台本通り撮ったのか?

長谷川 これは逆に意地みたいにそうした。市原(悦子)さん殺すところまではね。役者にも一言一句変えずにやってもらった。本来それがやりたかったんだからね、現場監督が。

荒井 『青春の殺人者』というタイトルは誰がつけたの?

長谷川 俺だよ。文句あるか?(笑)。タイトルは悩んだんだ。『蛇淫』はさすがに映画のタイトルじゃないだろうって。孟さんは「映画のタイトルはストレートなほど良いんだ」という持論でね、それには俺も賛成だった。で、彼から出たのは、『親殺しの岸辺』だった。それならズバリ『親殺し』だけで行こうよ、と言うと、配給興行が絶対ノーだと。俺は最初『殺人者』どうだ、と言ってたんだが、いまいち殺し屋の映画みたいでな。やけで『青春の』って付ければ青春映画だろうと言ったら、大塚プロデューサーが「それは良いかも知れんぞ」と乗ったんだ。孟さん、「軽薄な風俗映画のタイトルだ」と最後まで嫌がってたけど、封切ってからは評価が変わった。「青春を殺した者と捉えれば、あれは正しいタイトルなんだ」と。一時が万事ムヅカシイ人だったよ(笑)
 ただまあ、感心はしたなあ、あの人には。あんなふうに怒ってホン書くことが出来るんだなって。それと作家の自意識というかプライドみたいなものの強さね。俺なんかあんまり持ったことが無いわけだよ。助監督籍でホン書いてると、渡す時には、どう直してくれても結構ってだいたい渡してるよね。当然のことのように。

荒井 それはやっぱり違うんだよ、本職と。

長谷川 そうなんだろうな。逆に言うとね、直してくれないとつまんなかったよ。まんま撮られてると、まんまなら俺が撮れるってことじゃないか。そうじゃない、俺が思いもしなかった直しがあると、なるほど、やっぱり監督というのはエライものなんだな、というふうに思えるわけで。あくまでホンは設計図だというふうに思ってた。それはまあ、自分が監督やろうとしてたからもあるんだろうが。

荒井 でもあれ、「キネマ旬報」の脚本賞もらわなかった?

長谷川 もらったもらった。

荒井 ゴジが監督賞で。

長谷川 そうそう。だからまあ、良かったなとは思ったよ。もう一生この人と会うことはないだろうと思うくらい喧嘩したわけだから。

荒井 で、出来上がりを観て、田村さん、どうだったの?

長谷川 そう文句は言わなかった気がするね。ただ、俺がもうそっぽを向いてたかもしれんな。試写 会6つくらい飛ばして、封切り前日までダビングやって、封切ってもずーっとチケット売ってたから。俺の周辺だけで5,000枚売ったんだからな。

荒井 すごいねえ。

長谷川 確かに現場はアカ出したんだから、やれるのはチケット売るしかない、みたいなさ。

荒井 田村さんは映画に満足したのかな。

長谷川 「キネ旬」の授賞式の日に久しぶりに会ったんだよ。2次会に朝までご機嫌で居たからなあ。その程度には納得してくれたんじゃないかな。ま、最初から俺も「観念は撮れん」と言ってたんだし、「暴走族映画」にもしなかったしね。まして前半は台本通 りだし。そうそう、その前半部分について「俺の脚本を長谷川がゴリゴリ肉体的に撮ると、妙に可笑しくて良い。大島だともっとスマートにやってしまう。やっぱり長谷川はイマヘイ系だな」なんて言ってた。彼としてはあれは誉めてたんだろう。確かに俺も、母親殺しのシーンで観客が思わず笑うのにホッとした記憶があるんだ。

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