『一本も撮らなかったけれど、「自分も一緒に映画を
撮れてるような錯覚」はあった。』(4)


「冒険」だった『台風クラブ』____
本格的な自転車操業の始まり

__どうして、その健全な時代が終わりを告げたんだろ?

長谷川 うーん、やっぱり、ターニングポイントは『台風クラブ』だったんだろうな。

__いよいよ、「諸悪の根元」、相米慎二の登場か。

長谷川 まあ、そう言うな。そう単純なことでもないんだよ、きっと。

__相米が『ラブホテル』撮ったのは『台風クラブ』の前だっけ?

長谷川 ああ、「ロマンポルノと落とし前つけてくるんだ」って撮ったんだ。あいつにしても、俺にしても、ロマンポルノには思いが深いからなあ。

__『ラブホテル』のプロデューサーは……

長谷川 これは海野(義幸)さんだよ。日活時代に相米がいちばん面 倒みてもらった先輩助監督でね。やっぱり、甘えやすかったんだろう。でも、現場はけっこう相米が自分でも仕切ってたようだ、あいつもやれば出来るんだよ。予算もなんとか合わせてるし、いい映画だったじゃないか。

__そうだな。徹夜、徹夜だったらしいけど。

長谷川 いいんだよ、ロマンポルノはそのほうが。あれは一気呵成にワーッと突っ走って撮るのものなんだ。

__で、そのやれば出来るはずの相米が撮った『台風クラブ』だけど、ディレカンの脚本公募の入選作だよね。

長谷川 準入選にしたんだ。評価は全員一致で一位 だったんだけど。

__どうして?

長谷川 いや、評論家とか偉いサンが選ぶ、権威づけのための脚本公募じゃないからな。自分たちの手で映画化できるリアリティのあるものを、優先的に選ぼうという基本姿勢が強かったんだ。『台風クラブ』は皆がそれぞれに撮ってみたいと言った。変なものだけど面 白い。しかし客観的に考えて、こんな変なものを今、配給したり提携制作してくれるところはATGくらいしかないだろう。しかしATGの制作費のマキシマムは4000から4500万だ。それでは「台風」を作って撮ることは不可能だ。「台風」そのものがしっかり映像化されなきゃ『台風クラブ』はないからな。だから、これは今すぐ誰かが撮るという映画にはならない。もう少し映画化出来るリアリティの強いものをという事で、『RUN』という脚本を、作るつもりで1位 にしたんだ。脚本評価自体はむしろ逆だったんだ。

__ふーん、予算の事まで考えて、審査してたのか。けっこう真面 目だったんじゃないか。

長谷川 夕方始めた審査会が、朝までかかったよ。「責任持って、4千万で俺が撮る」と誰が手を上げてもOK、そいつに撮らせよう、誰かいないのか?とやっても、皆、手を上げたり下げたりしてな。「扇風機一台いくらだから……」と呟いたりして(笑)。結局、誰も手を上げきらなかった。勿論、扇風機だけで悩んだわけじゃないだろうけど。

__ゴジはどうだったの?

長谷川 俺が一番信用されてないよ、そりゃ。それに、俺はガキが主役の映画、それほど撮りたいとは、今も昔も思わないしな。

__ま、他の映画でもそうだけど、別の『台風クラブ』もあり得たわけか。

長谷川 そりゃ、当たり前だよ。9人撮れば9つの違う作品が出来てたさ。でも、俺は、やっぱりあの脚本は相米が撮って良かったんだと思うし、相米映画としての『台風クラブ』も好きだしな。問題はそういう事じゃないんだ。

__赤字か?

長谷川 それ以前の問題だな。撮影に入った事を、皆ろくに知らなかったんだ。相米と宮坂で、ある種の独断専行をしちゃったんだ。しかも予算6千万で配給も決めずにインという……。それじゃ何のために皆で朝まで「ATGが」とか「4千万じゃ」とか手を上げたり下げたりして悩んだのか……意味ないじゃないか。

__どうして、そんな事になったの?

長谷川 分からん。未だによく分からん……ただその頃は、二人とも俺が煙たくて、相談するのが鬱陶しかったんだろうな、と思った。良くも悪くも俺は正論をいうからな。正論て、いつも鬱陶しいものじゃないか。それに、相米とはあいつが学生運動くずれのフーテンで、俺んちの冷蔵庫を漁ってる頃からの付き合いで、まあ弟分だわな、俺の助監督もやってるし。宮坂もまあ、俺が面 接して社長に決めたみたいな……鬱陶しがるのは分かるような気がするんだ、二人とも。

__で、怒ったのか?

長谷川 それが違うんだ。ただ、悲しいんだ、これが。いや、自分の性格的な秘密を告白するようだけどな、俺はかなり怒ってもいいくらいの事をされても、怒る前に悲しいと思う、特異性格なんだ。特に、年下の者に対してな。

__末っ子だろう、ゴジ。

長谷川 そうなんだ、それが、理由のひとつには違いない。昔から、年上の者には、怒ったり反抗したり、平気で出来るんだが、どうも年下には弱いんだ。そのくせ、お兄ちゃん役をやりたがる、困った性格なんだ。だから「相米組がパンクしそうです。なんとか一週間以内に三千万用意出来ませんか?」と宮坂が泣きついてくると、「自分らで勝手にインしといて、今頃何言ってるんだ」なんて言えないんだ。「そうだろう。よーし、俺がなんとかしてやる」と、いそいそ走りまわって借金してきたりしたんだ。阿呆だな、俺も。

__いや、それだけ聞いてりゃ、『一杯のかけそば』だ。

長谷川 そうじゃないんだ。そういう意味で話してるんじゃないんだ。ディレカンが、世間に迷惑かけたままパンクしたことの総括をしようって時にな、宮坂は雲隠れしたまま、相米は「どうせ悪いのは、全部僕です」と言うだけじゃ、済まんだろう。俺を含めたこの三人に、やっぱり大きく問題があったんだから。会社だって有機体なんだから、人間がやるものなんだから。俺は俺で、自分という人間の性格の欠陥と、ディレカンという会社の関係を……駄 目だ、自分で何言ってるのか、分からなくなった……ちょっと、トイレ……

(中断)

長谷川 ……しかし、総括とは言いながら、こういう繰り言みたいな話を延々やってて、誰かの、何かの役に立つのかね?

__そりゃ、立つさ、反面教師としてな。これからは、誰もディレカンのような馬鹿なというか無謀な真似は、しなくなる。

長谷川 ……荒井、表へ出るか、やっぱり。

__よせよ、冗談だよ。マジで怒るなよ。

長谷川 うーん、どうも昔の話をしてると、感傷的になっていかん。よし。冷静に、真面 目にやろう。

__冷静に言って『台風クラブ』の功罪ってあるよな。

長谷川 もちろん、功は大きいよ。脚本公募から生まれた、最もディレカンらしい映画だったと思うし。ただ、罪も負けず劣らず大きいわな。配給も決まらないまま、6千万という、なんら回収の根拠のない予算でクランクインして、なおかつ9千万もかかった。ま、金利も入れての話だがね。そりゃ、会社の資金能力をはるかに超えた「冒険」だったんだよ。この時点から本格的な自転車操業が始まっちゃったわけだし……。

__どうして社長宮坂はそこまでの「冒険」をしたんだろう?だって、結果 苦しいのは自分だろうに。

長谷川 いや、本質的に彼は大冒険者なんだよ。徹底的に「攻め」のタイプの人間なんだ。あの外見、物腰だから、俺なんかも、なかなかそうは思わなかったけど。それが、最初の3年くらいは我慢して「守り」に回ってたんだ。「攻め」には監督たちがプロデューサーやったりして回ってたしね。しかし、彼だって、「PRやCMの仕事取ってくるために、博報堂やめたわけじゃないぞ」って思いがあったんだよ。彼が片腕として連れてきた渡辺は、プロデューサー見習いみたいにして、どんどん映画の現場を覚えていくしね。彼なりに焦ってもいたんだと思うよ、今にしてみれば。

__映画を作る会社だから、きたんだものな。

長谷川 最初の頃、企画会議なんかでも、殆ど発言しないから、企画にはあんまり興味がない人なのかな、と思ってた。そうじゃないんだ。凄くプライドの高い男だから、キッチリ勉強してから、と思ってたんだな。実際、猛烈な勢いで映画も見まくっていたらしいし。

__で、相米と組んで走ったわけで。とうして相米だったんだろう。

長谷川 うーん、相性なのかねえ、やっぱり。悪く言えば、秘密主義ではあるわな、二人とも、俺とか伴明は、とてもあの独断専行はやれん。まあ相米もややこしい監督だから、俺たちがプロデューサーやり合ったりしてる関係からは、ちょっと外にいたし……

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