『一本も撮らなかったけれど、「自分も一緒に映画を
撮れてるような錯覚」はあった。』(3)


三年目のささやかな昇給
ささやかな忘年会

__赤字の責任をどう取るか、ルールみたいなものはなかったの?

長谷川 うーん、そこが中途半端だったんだろうなあ、やっぱり。六ヶ月ぶりにムショから帰ってくると『人魚伝説』が二週間後にクランクインてところだった。予算表みると、まだ全然数字が合ってないんだ。しかも人件費やロケ費なんかはもう、削れる限界まで削ってある。予算合わせるためには、大幅に脚本いじらなきゃ無理なんだが、その意志も時間もないらしい。おい、ちょっと待てよ、と根岸と池田に会ったんだ。おい、ちょっと待てよ、と根岸と池田に会ったんだ。「このままインすれば、間違いなく赤字が出ると思うが、お前ら、そのリスクはどう負うつもりなんだ?」って聞くと「今頃ゴジにそんな事言われても困る。おいら金なんかないんだから。もし赤字出して、宮坂とか渡辺(敦・プロデューサー)に言われたら、罪滅ぼしに嫌な仕事でも何でもやるけどさ」と、必死で開き直るんだ。で、宮坂と話すと「ゴジさん、今この映画やめようと言う事は、ディレカンやめようと言うのと同じですよ」と言われてな。俺も監督だからそこまできてる映画をストップするのが、どんなに辛いかは分かるし、自分の不始末で、半年も会社を留守にした負い目もあるし……結局「頑張って撮れよ」になっちゃったんだ。

__延期して、仕切り直しはなかったの?

長谷川 季節感がなあ。夏から初秋くらいでないとつらい映画だったから。延期って事は一年延期だからなあ。

__流す事と同じになるか。

長谷川 で、その事に反省して『逆噴射〜』やる時には伴明、石井とキッチリきめたんだ。もしも赤字が出たら三人で三等分して責任を取る、そのかわり、もしヒットしたらパーセントでプロフィットを分配する。もちろん会社の利益の中の何パーセントかだけどな。結果 、赤字らしい赤は出さなかったけど、大ヒットもせんかったから……もし『逆噴射〜』が大ヒットして俺たち三人が大金持ちになってたら……

__ディレカンの歴史も変わってたか?(笑)

長谷川、いや、それだけじゃ駄目だな、残酷なようでも、『人魚〜』はしっかり赤なんだから、根岸と池田は翌年度の年俸大幅ダウンにするとか、ドライでビジナスライクなルールを確立する必要があったんだろう、この時期に。メンバー同士で貧富の差が出るくらい、キツイ事やっていこうという当初の理念は、すでにあの時壊れ始めてたんだな。

__年俸ダウンはしなかったんだ。

長谷川 しなかった、出来なかったなあ。本当に最低生活費くらいの額だからな。それカットしたら、どうやって生きていくんだ、という……。しかし、池田も偉かったんだ。約束どおり「罪滅ぼしだ」と言って渡辺が用意したアダルトビデオの仕事を、何本もこなしてたよ。もちろん、それですぐ赤が解消するほど、甘い仕事じゃないからなアダルトも。でも、精神としては、自分が出来る事は何でもやって「罪滅ぼし」してたんだ。

__赤を出した者、出さなかった者の間で、軋轢なんて起こらなかったの?

長谷川 それはなかったなあ、少なくともその頃は。「俺たちディレカン」という気分が強かったからね、共同体意識と言うとオーバーだが。湯布院映画祭に行った時かな、その前の年に『人魚伝説』は封切ってて、散々の不入りだったんだよ。池田は落ち込むし、俺なんか悔しくてさ、映画の出来や評価と客の入りがあんなに違うとな。その『人魚〜』をやたらに褒める若い映画人がいたんだよ、映画祭に。聞けばシネセゾンの社員だっていうじゃないか。この野郎って酔っぱらって絡んじまったんだ。「お前ら、評論家じゃないんだから、イイとかスゴイとか褒めてるだけで良いと思ってんのか。弱小資本の映画に少しは力貸したらどうなんだ!?」ってさ。

__市井だな。驚いてたろう、褒めてるのに絡まれたんじゃあ(笑)。

長谷川 そうそう、市井だ、市井。ところが映画祭から帰ってだいぶたって、彼から連絡があってさ「池田敏春特集をキネカ大森でやりたいけど、どうだ?」って言うんだ。嬉しかったよ、やっぱり。もう忘れてたからな、酔って絡んだ事も。で、池田と『人魚伝説』を芯にしてやったんだ『池田敏春特集』。一週間くらいだったけど。シンポジウムなんか、根岸とか俺も行ったよ、応援団で。

__池田も嬉しかったろうな。

長谷川 照れ臭そうにしてたよ。スクリーンの前に座って。でも「自分の映画を、始めて大勢のお客さんが入った映画館で見れて、嬉しい」くらいは言ってたぜ。なあに狭い映画館だから、簡単に満員にはなるんだけど、市井さん、あの時は本当にありがとう(笑)。

__で、少しは金になったの?

長谷川 それは言うなよ。本当に小さな、ささやかなイベントなんだからさ。でも思ったよ「あの時、クランクインにストップかけなくて良かった」って。赤字は出たけど、それでディレカンの屋台骨が傾くというほどの致命傷じゃなかったし、池田も、あんなに我慢して撮った、二度と見たくない映画、と思ってるわけでもないしな。「ディレカン作って良かった」って思ったよ。

__しかし、キツイ言い方をするようだけど、やっぱり甘かったんじゃないかなあ。精神主義に過ぎるって言うか、会社なんだからさ。そういう赤字が積み重なって、結局パンクしちゃったんだろう。今ゴジがした話だって、所詮はウェットな自己満足じゃないのか?

長谷川 うん、そりゃまったく荒井の言うとおりだ。ウェットなんだな、どうしてもドライにはなりきれない。日本人なんだよ。アメリカの、ハリウッドの映画人のようにドライでビジネスライクにはいかない。まあ、国民性に責任転嫁するつもりはないけど……。 でも、その頃はまだ会社としては健全だったんだ。映画以外の仕事もずいぶんやってたし。PRとかCMとかイメージビデオとか、カラオケビデオもやったな。宮坂(社長)が博報堂からきた人だから。「宮さんの知ってるコネ全部使ってさ、バンバン仕事取ってきてよ。俺らは何でもするから」と。

__そういえば池田や根岸もシチズンのコマーシャルやってた。

長谷川 CMはギャラもいいし、贅沢な仕事の方だよ。大森(一樹)、黒沢、根岸、俺とやった資生堂のPRビデオがあって、これが地味だけど会社にとっての利益率は一番良かったらしい。俺らのギャラはたいした事はなかったがね。

__ゴジが凝ってオーバーしたと聞いたけどな。

長谷川 よせよ、そうやってすぐ人を悪者にするのは。オーバーはしないさ、少し真面 目に丁寧にやり過ぎたかもしらんが……。それはそれぞれ立派に仕上げてね。資生堂の社員やチェーン店が見るものなんだ。

__社内教育映画みたいなものか。

長谷川 シリーズでね、イの一番にやったのは大森なんだ。『業種から業態へ』。次に黒沢がやって、根岸は『ラッピング』。商品を如何に包むかとな。俺がやったのは『店舗の改装』。皆なかなかのもんだよ。

__見てみたいな。

長谷川 真面目にやったよ。それにツマラン仕事をしてるって気はあまりしなかった。スタッフも一緒に映画をやってきた連中だしね。PR映画は俺『青春の殺人者』撮る前に何本かやってたんだ、シノギでね。建設省のダム工事記録映画とか。それに比べりゃずいぶん楽しかったよ。テーマがあるからな、ディレカンという。ただ照明の水野だったかな、撮影中に言われた。「ゴジ、何こんな仕事、眼の色変えてやってるの。映画は撮らないのかよ?」って。「馬鹿野郎、映画は撮るさ。もちろん撮るけど……今は『店舗の改装』一生懸命に撮るんだ」と。

__そうだ。そろそろゴジが映画撮らなかった話をしよう。

長谷川 待てよ。ともかくひととおりディレカンの総括させろよ。俺個人の総括は後でいいよ。

__ま、そうするか。で?

長谷川 うん、その当時の宮坂の営業力は大変なものだったからな。資生堂の仕事だって、それぞれの監督のネームで取ったというより、宮坂の営業力で取れたもんだから。で、リスクの大きい映画の仕事と、地味でこまめな非映画の仕事が辛うじてプラスのバランスを保ってたんだ。3年目には、ささやかながら全員一律の昇給だってしたんだから。伊豆の温泉旅館で忘年会だってやったんだ。コネで馬鹿安い勘定にしてもらって……おお、あの頃は健全な会社だったんだなあ。

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