特集/これは観たい!「巨匠たちの未完の大作」

Kazuhiko Hasegawa
『センチメンタル・ジャーニー』 『連合赤軍』
幻の監督デビュー作は、なんとピンク映画だった!

『BRUTUS』 1998年8月15日号 p.27


 「幻の映画」というよりも、今や「幻の映画監督」といった趣なのが、ご存知、ゴジこと長谷川和彦監督。79年の『太陽を盗んだ男』以来、その名前が監督クレジットとしてスクリーンに映し出されたことはない……。
「俺自身はこの20年間、いつも半年後のクランクイン目指して企画を転がしたり脚本作りをやってきたんだよ。カタチになっていないだけで……。だから、結果 的に幻で終った映画は自分でも呆れるほどあるわな」(笑)
『グッドバイ、ニッポン』『つっぱりトミーの死』『PSI−光を超えて』『禁煙法時代』『吉里吉里人』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』 (なんと主役は、松田優作の予定だったという!) ……。
 
その中でも極めつけが、『センチメンタル・ジャーニー』なる作品。『青春の殺人者』以前に撮影されながら、完成まで至らなかった幻の処女作、しかもピンク映画なのだ!
「日活の契約助監督になった25歳の頃かな。今もピンクを作っている国映の専務が何を間違ったのか声をかけてくれたんだ。この人は変わったものも作りたい人で、若松孝二や大和屋竺にもピンク映画を撮らせた人だった。
 依頼された企画は、「国産の洋ピン」。邦画よりフィルム貸し出し料が高い洋ものピンク映画を、いっそ海外から買うよりも安く国内で作ってしまおうという大胆なプランだった。
「だから当然、出演者も外人だけど、脱げる外人俳優はギャラが高い。そこで知り合いを騙してタダで使おうぜ、と集めたんだ。思えば、これが失敗の始まりだったな」(笑)
 主役の黒人は、立川基地の兵士。彼のオフに合わせた撮影は当初の予定から大幅に遅れ、10日 で終えるはずの撮影が2ヵ月たっても終らない。むろん、初の監督作に力の入るゴジの演出がピンク映画の枠を逸脱し、撮影遅延の原因となったのはいうまでもないだろう。 「それでも、台本の9割は撮影したんだよ。ただラッシュを見るとやっぱりピンクにはなっていない。 裸が出ても、エロじゃないんだ。追加の予算で裸のアップを入れるつもりが、競馬狂いのプロデューサ ーに預けてパア。倍に増やすつもりだったらしいが……」 (笑)
 この幻のデビュー作、今も未完のまま現像所の倉庫の片隅に眠っているという。
  現在は、20年越しの企画『連合赤軍』の脚本を執筆中だと語る長谷川監督。20世紀最後のこの大作だけは、幻で終ってほしくない。今度こそ、クランクインを!!

(持永)

★写真説明文

● 『連合赤軍』のクライマックスを飾る、浅間山荘付近のロケハン風景。ロングシノプシスは完成し、 あとは脚本の執筆を終えるだけ!

● 印刷されながら、実現しなかった脚本の数々。ここに込められた無念の思いが、『連合赤軍』に 凝縮されるのか?

● 関東村をジープで脱出した主人公が放浪を続けながら仲間たちに出会っていく……という物語 は、いわば日本版『イージー・ライダー』。「ほかが200万円で作っている頃の350万だから破 格の予算だったよ。若松孝二が、『ゴジ、それは大作だ!』と驚いていたからな」(笑)

● はせがわ・かずひこ/46年、胎内被爆児として広島に生まれながら頑健な少年・青年時代を 過ごし、東大ではアメフト部の主将を務める。68年、今村プロの公募で映画界入りして『神々の深き欲望』に参加。71年からは日活で藤田敏八、神代辰巳監督のもと名物助監督としてその 名を轟かせる。『青春の蹉跌』('74)、テレビ『悪魔のようなあいつ』('75)などの脚本執筆を 経て76年『青春の殺人者』で監督デビュー。骨太な演出力で、その年のベストワン作品として 高い評価を受ける。続く『太陽を盗んだ男』('79)もこれまでの日本映画になかったスケール のアクション大作として注目を集めるが、興行的には不振。その後、常に新作を熱望されながら も長い沈黙が続く。



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