ジュリー 沢田研二
アイツのためなら何でもやってあげたいね
―――長谷川和彦

掲載誌不明


歌手・沢田研二のめくるめく変身はエポックでさえある。ジュリー――― 映画『太陽を盗んだ男』でまた新しい魅力を爆発させた。 「あんなにがんばると思わなかった。アイツ思われている以上にずっと 硬派の男だね」 役者・沢田研二を演出した長谷川監督が“ほれた男・ジュリー”を熱く 語る。

■みかけよりずっと硬派な男だよ、アイツは

 今、『太陽を盗んだ男』の撮影が終わって、まだあまりたってないんだけどね。気持ちとしては (ジュリーに)メロメロだね。アイツ(ジュリー)のためになら何でもしてあげたいね(笑い)。自分の子ども以外でそういう気持ちになったのは、『青春の殺人者』の豊(水谷豊)以来だね。ぼくがジュリーに70点ぐらい期待してたら120点ぐらいがんばったんじゃないかな。うまいへたじゃなくてね。うまいへたも、その辺の大根役者、まあ、それしかいないんだろうけど、その辺と比べればプロの域に達しているね。とにかくあんなにがんばると思わなかったよ。大した男だよ。主演男優賞は絶対とらしてやりたいよ。
  アイツは、今度の映画でひとつの新しいキャラクターをつくったよね、自分の肉体を通 じて『タクシー・ドライバー』のデニーロよりがんばったと思うね。それは同じライターのシュレイダーが言ってんだからまちがいないよ。たとえば、ふうせんガムをかむなんていうアイディアを入れたわけだ。そういう演技ともいえないものがいちばん難しいんだな、どういう顔してかむとかね。それを自分のものにしてしまうんだなアイツは。ものをかむっていうのは意志を現わして顔を知的にするんだよ。アイツの顔っていうのは、一般 的な印象はスイートだからね。だから意志じゃなくて、わりとセンチメンタルな感情が伝わりがちなんだよ。だけど今回、充分いわゆるジュリーのきれいな顔じゃない、本音の顔を見せているもんね。そういうのって度胸がいることだと思うよ自分の肉体で商売してる人には。だから、歌手・ジュリーを自分の中であれだけすてて、新しいキャラクターをつくるというのは大変なことだと思うね。

 アイツの魅力は、正直なところにあるんじゃないかな。おもしろけりゃおもしろいって言うし、つまんなきゃつまんない顔するしね。本気に怒るしね。ただ怒り方は非常に大人になったよ。撮影 中もあったよ。ある商店街で撮影やっててね、へんくつなじじいがいて邪魔するわけで。撮影終えて帰りかけてもまだ言うわけよ。二人で歩いてて、オレはほっとけほっとけと言ってたのよ。そしたら “なにがジュリーだ!” って背中に聞こえたからね。パアーッて振り向いて……オレまた頭突き食らわすんじゃないかとヤバイと思ったんだ。そしたら 「沢田研二です。どうも迷惑かけてすいませんでした。また来るかも知れませんけど、よろしくっ!」ってね、そのオヤジにらみつけて言うわけだよ。オヤジ、しゅんとしてたね。そういうなんていうんだろう、アイツには、“野球部あがりの硬派の兄ちゃん”っていうとこあるよね。見かけより、かなり硬派だよアイツは。
  ファンに対しても本気で怒ってたね。ジュリー軍団的な人がね、どうやってかぎつけるのか、現場に来るんだよ。「おめえら、カエレー!」って。これは、こっちがもうちょいやさしく言ってやったら
どうだって思うほどきついことばでどなるのね。“自分は本気でやってるんだから邪魔するな”ってことだろうけどね。

 

■とてつもない変身でもウソにならないヤツだ

 アイツはオレより大人だね。オレのほうが、二つか三つ歳上なだろうけど、アイツのほうが大き い人間だよ。へんに図太いところもあるしね。非常に男らしいね、そういう意味で。たとえばショーケンなんかと比べてみると、ショーケンは気がちっちゃいところあるね、だからつっぱったかっこうになるんだろうけど、沢田っていうのは気が大きいんだろうね。逆に気がちっちゃいって自覚しているから、もうちっちゃくないっていうか、だから、へたにつっぱったり、どなったり、いばったりしないね。わりと普通 にしてるよ。それと、どこかおっとりしてるね。あんまりせかせかいらつかないしね。やっぱり人間どこか大きいんだろうね。

 変身ね、映画も、アイツだから妊婦に変身した国会議事堂入るなんて思いついたんだろうね、オレも。あれ、実際、国会議事堂でジュリーだってことバレなかったよ。気の変な女がウロウロしてるってことだったろうね。アイツもああいう変装の部分なんか非常にていねいにやってたね。気に入らないといつまでもやったし、きらいじゃないみたいね、アイツも変身は。だけどアイツはなんかああいうバカなことやってもあんまりウソにならないね。そういうキャラクター持ってるんだろうね。

 アイツにはこだわりがないのね。ボケーッとできるのね。スターっていうのはボケーッとするのはかなりむずかしいもんですよ。他人が今自分をどう見てるとかね。その辺がかなりないね、アイツは。町中でもズボン脱いで平気ではきかえるからね。そういうときって必ずいたずらっぽく笑うけどね。「おいおい、天下のジュリーが、こんなところでパンツいっちょうになっていいのか?」っていうと、アイツ、「まあまあ、これくらいは」って……。(笑い) やっぱり大きな男だよ。とにかく映画でがんばったなアイツは。正直なところ、今の気持ちとしては、アイツのためなら何でもしてあげたいって思うね。レコード大賞とったアイツに、今度は主演男優賞をとらしたい。

 

映画『太陽を盗んだ男』
★ジュリーが新しい魅力をいっぱいみせてくれた映画『太陽を盗んだ男』は、現在、東宝系で絶賛公開中。ジュリーのピンと張りつめた迫真の演技が、手に汗にぎるスリリングなストーリーで展開し、見せ場もたくさんあって実に楽しめる映画に仕上がっている。
  監督はいうまでもなくここでジュリーの魅力を熱っぽく語ってくれている長谷川和彦監督。水谷豊主演『青春の殺人者』で、日本のニューシネマのホープとして、一躍その名を轟かせた若手監 督だ。脚本も、あの『タクシー・ドライバー』のロバート・シュレイダーと共同執筆。 (下線部原文ママ)


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