会いたかったよ、ミスター・スピールバーグ

バラエティー1978年4月号 巻頭特集
MY CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND
「未知との遭遇」が日本列島を襲った日!

 

アメリカ映画界の若手チャンピオンの超話題作ですが、日本映画若手監督代表として、どうでした?

「映画を見る時は演出者というより、わりと素直に客として見るんだよ。率直に言って面 白かったし、マイったぜという感じもあるな。とにかく“映画は見世物”という本道でかなり頑張ってるシロモノだ。制作費は50億か、うらやましいね、まったく。ま、その金以上の“映画的な力”が出ているな。観念的な映画にせず、ショーとして見せきった手腕は凄かった。エキサイトしたよ」

「激突!」「続・激突!カージャック」「ジョーズ」そして「未知との遭遇」と展開した彼の世界をどう考え ます。

「第2作はちょっと違うが、パターンは同じだな。要は、彼はマシーンが好きなんだ。『激突!』のトラック も、『ジョーズ』もそうだし、UFOもマシーンだ。なぜマシーンなのかというと、現代の映画は昔のドラマに あった強大な対立関係、神と悪魔とか善と悪とかが希薄になり、ストレートに話が組み立てにくい。誰も価値観が明快じゃないしさ。じゃあスーパーな力を持つものは何かというと、スピールバーグにとってそれは強大なマシーンだったわけだな、不可知なものを内包した。そして誰でもスーパーな力に対する憧れ、好奇心を持ってる。で、彼はそれを観念的映像にせず、いかにスリリングに見せるか、に目いっぱいの知恵を注ぐ。それ自体が“映画の力”として出てくる」

彼の作品にもルーカスの映画にも、以前のアメリカ映画とはちょっと違ったHAPPYな感覚があるが。

「ルーカスの『スター・ウオーズ』はまだ予告編しか見てないけど。とにかくスピールバーグの本音はといえば、わりと善良なるアメリカ中産階級特有のものという感じがするわな。この映画でもUFO場面 は別として、中盤のドレイファスの家族を描くシーンあたりにそれが出ているよ。食卓に出されたポテトでデビルスタワーを形作ろうとする親父を見て、パパは狂っとると涙ぐむ子供のショットなんか、さりげないが、かなり感情移入して撮ってる。それに対して政府が動くシークエンス。タワーに集まるUFO目撃者らを追い散らそうと画策することとかヘリで毒ガスをまくシーンなんて、発想も陳腐だし演出もヘタだ。映画全体でもここらが一番タルむんだが、それは彼が政府の陰謀がどうのなんてことに興味を持ってないからなんだな。それに見世物映画としてはラスト30分のクライマックス前に、それにより衝撃的にするために、UFOがまるで姿を現さない退屈な“間”が必要だったんだな、ほら『ジョーズ』でもそうだったように。ただその計算ずくの“間”も今回は少し長すぎるように感じたけどね」

SFなんていっても、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」あたりとはかなり違う。

「キューブリックはもともと人間が好きじゃなくて、ヒューマニズムとはいっさい無縁の地点に彼の本音をおいて作ってるよね。スピールバーグは非常にノーマルで善良な人間なんだ。だから、その人間の描き方、愛し方というのはとてもオーソドックスだよ、時に退屈なくらいに。ただマシーンを、怪物をいかに面 白く描くかにかけては、彼は異常な執念を見せる。そして何よりの強味は、彼の見せたいものが、みんなが見たがるものと的確にクロスしあってるということだよ、絶妙のタイミングをもってさ。これは商業映画監督の資質の最大のポイントだからね」

誰よりも自分自身が面白がって撮っていることがそのまま“映画の力”になってるんですよね。

「うらやましいのはワールド・マーケットだ。ドカンと当たれば天文学的数字になる。実は、スピールバーグはこの映画と一緒に来日する予定で、彼と会う話がきまってた。重症のソ連風邪で中止になったんだが、いろいろ喋りたいことがあったんだ。アンタが大将!と誉めるしかないかとも思ったけどね。同世代作家として、ひと言はカマしてやりたかったよな、立場上(笑)」

例えばどんな話をかんがえてました。

「うん、一つは彼の映画の『安全さ』ということかな。どんなに金と知恵をかけて巨大な怪物マシーンを作っても、それはそれだけのことさ。やはり一番面 白くて恐いのは“人間”そのものさ。“人間”を描くのが一番危険でヤバイんだ。彼はそれを意識的に避けて通 ろうとするきらいがある。盟友のコッポラ監督あたりは逆に本気で“人間”を描こうと突っこんでってる。そして、それにからんだヒット・メイクの話だ。例えば、 映画は商売になるんだ、ということを再認識させた角川映画『人間の証明』の力には正当な評価が必要だ。でも、宣伝CF活動のほうが映画よりスリリングだったというのも問題だ(笑)。いまの映画の作り手に厳しく求められる、ヒットさせるということと映画の質の確保という問題をじっくりと語りあいたかったな。 日本映画の活路も、その二つの間隙をきちんと通りぬけないと開けてこない、と思うからなんだ」

 


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