『第四回ディレクターズ・カンパニー脚本公募報告
熱く勃起させてくれる才能を求めて』

 

キネマ旬報 1987年8月上旬号  p.158~159 

 

 未知なる才能、個性との出会いを願って始めたD・C脚本公募も、早いもので今年で第四回を迎えました。会社としての「ディレクターズ・カンパニー」もお蔭さまで、何とかツプレる事なく、間もなく満四歳になろうとしています。お世話になってきた各方面 の皆様方に心からの感謝の意を表したいと思います。『これからも面倒をおかげしますが、ヨロシク、お願いします。本当に有難うございました』

 さて昨年11月末に〆切った脚本募集、今国も総数286本の力作、快作、怪作の山 で、監督一同悲鳴にも似た吐息を吐きながら、やっと最終審査を終えました(『光る女』撮影中の相米監督を除く全員が参加)。286本の内訳は、オープン部門211本、監督指定部門75本、男225本、女61本。最年長76歳、最年少15歳で、20代の応募者が圧倒的に多いという傾向は例年通 りでした。既成のコンクールのように予備審査員をおかず、直接我々自身が全作品を読むという“正論”を貫徹した為に、殆ど六カ月という時間を費したことを応募された皆さんにお詫びします。

 結果、今回は入選作なし、別 表の四作品が佳作ということになりました。実に多様な作品群なので、全体的な作品傾向を云々する事にたいした意味は無いかも知れませんが……『自殺』を素材あるいはテーマにした脚本が多かったのは事実のようです。「『台風クラブ』の影響かな」「自殺カンパニだと思われてんじゃないか」等の感想も出ましたが、この一年、日本が史上最高の自殺者を出したという社会的な現象と、もちろん無関係ではないのでしょう。脚本が広い意味での人間の生と死を描くものである限り、その死の特殊なしかし誰もが実行可能な形態として『自殺』が脚本の主題に選ばれることも、至極当然と言えば当然な事なのでしょうが、「一人よがりな自分をしか思っていないんじゃないか。他人の事を考えてない人が多いんだ」(井筒監督)という批判にも、頷かざるを得ない実感がこもっていました。

 今ひとつの傾向としては、元気な老人、元気なローティーンは魅力的に描かれているが、その中間世代の人聞たちが、どうも影が薄い、頑張っていない、という事でしょうか。そのさ迷える大人たちの一員でもある私たち“若手監督”にも、これは決して他人事ではない<悩ましい現実>のようです。

 選ばれた佳作は、短評を読んでいただくとわかるように、全く異ったタイプの四篇てした。各々の作品に対する評価も八人八様で、「高踏的すぎて理解不能」「アイデアはユニークだが人間が描けていない」「いつかどこかで観た映画、オリジナリティが無さすぎる」等々、厳しい批判もありました。その事が八選作でなく佳作四本となった理由です。(ただ、『ミミカ』は石井監督が真剣に映画化の検討に入っており、今回の公募の最大の収獲となるかも知れません)

 審査終了後の反省会では、色々な意見が出ました。「もう公募はやめよう。労力に比して得るものが少なさすぎる」「いや持統すべきだ。結果 映画化できたのは『台風クラブ』だけでも、現在も数本がそのトライを続けているのだし、脚本を発見することだけでなく<新しい作家との出会い>も公募の目的の一つだった筈だ」「しかしこのままではマイナーな権威づけの為のイベントに終るのでは」etc。

 結局、別掲のよう次形で公募は続けることに決定しました。大きく変ったのは"応募は随時。とし3ヵ月ごとの審査で出会いの頻度を高め、“未知との遭遇”をより日常化するということです。そして新たに“企画シノプシス募集”も始めることにしました。脚本家だけでなく、フレッシュな企画プロデューサーとの出会いもまた不可欠と痛感するからです。しんどいけど映画はやっぱりなかなかの<夢>です。ともすれば怠惰で安易な夢を見がちの私たちに鉄槌を下し、熱く勃起させてくれる才能と個性に向けて、再度<この指とまれ>でアリマス。

 


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