Workshop for Nipponianippon Communicative Language& Culture Studies


ポカポカ春庭のニッポニアニッポン語

ポカポカ春庭のワークショップ ニッポニアニッポン語
I・Ro・Ha Jrui Show Time(色葉字類抄待夢)
我がよ誰そ常ならむ
| 日付 |
・ |
(色葉字類抄待夢)我がよ誰そ常ならむ |
| 2008/06/16 |
わ |
『ワ』がありません!ハングル練習 |
| 2008/06/02 |
か |
か:かっか、くっく、野口さんはシインで笑う・有声音と無声音の話 |
| 2008/06/06 |
よ |
よ:よっ!ギョエテさんはボイン好きだが、ウォタナベさんは半ボイン、特殊拍の話 |
| 2008/06/08 |
た |
た:タタタン、タンゴと音節の話 |
| 2008/06/07 |
れ |
れ:レディとフィルム・片仮名で書く音節 |
| 2008/06/06 |
そ |
そのままに書く発音通りに書くとはいえ、「おうじはおおじをゆく」 |
| 2008/06/14 |
つ |
綱(つな)と絆(きずな)・四つ仮名問題 |
| 2008/06/21 |
ね |
熱烈歓迎!漢字伝来 |
| 2008/06/22 |
な |
ナミアムダブツでナニハツの和歌 |
| 2008/06/23 |
ら |
らラ良、ひらがな元漢字 |
| 2008/06/24 |
む |
むすめ、生娘、芝生で生ビール・訓読みの話 |

2008/08/16
日本語学習者にとって、ひらがなカタカナを覚えるのもたいへんなんですよ、ということを、日本語教師志望者に身にしみさせ、日本語との発音対照を考えるために、前期は「ハングル文字で自分の名前を書こう」後期は「タイ文字で自分の名前を書こう」という演習を行っています。
ハングルは、韓国語朝鮮語の発音に適した、たいへんすぐれた表音文字です。音素文字を組み合わせて語を表記します。「k」は「フ」です。 「a」は「ト」です。
子音と母音を組み合わせれば「ka」=「フト」です。音素文字を、二つ、三つ、四つまで組み合わせることができます。
今年、現代日本語論の授業には、日本語教師志望者の日本人学生に混じって、韓国からの留学生も出席しています。イさんがハングル表記の先生です。
日本人学生たち、ハングル表をみて、自分の名前を書いてみる。
すんなり表記できる学生もいるし、「ない、ない、みつからない」と、言う学生もでてくる。
渡辺さんは「ワとベがありません」と、困っている。
黒木さんは「クが2種類あります、どっちがいいんですか」と、悩んでいる。
厚木さんは、「アはみつかったけど、ツがありません。ギもありません。ぜんぜん書けません」と、大弱り。
「はい、どう書いたらいいか、わからない人、イさんに相談してね。書けた人は、それで正しいかどうか、イ先生に○をもらって」
ハングル表の一例
http://denchina.hp.infoseek.co.jp/hankiri.htm
この練習は、ハングル文字を覚えるためにしているのではありません。
他の母語の学習者の発音と日本語の発音を比べて、どこが間違いやすいか意識するために行うのです。
「ツ」や「ワ」にあたる発音と文字は、ハングルにはありません。
名前の文字をさがす日本人学生たち、土屋さんは、ハングル表には「チュ」はあるけれど、「ツ」がないことに気づきます。
すると、母語に「ツ」がない韓国の留学生にとって、「ツミキ」「ツクダニ」は、言いにくいことがわかります。
「th」という発音がない日本語母語話者にとって、thank youがsank youになってしまうのと同じで、zaという発音を持たないタイの日本語学習者は「おはようごじゃいます」と、なりがちです。
もちろん練習すればできるようになります。
でも、意識しないとついつい私たちのサンキューがthankでなくsankとなるように、おはようごじゃいます、になるのです。
ハングル練習をして、隣の国の言語でも、日本語と比較するといろんな違いがあることに、気づきます。
日本語母語話者にとって「ツ」は特別むずかしい発音に思えないとしても、この発音が母語になければ、なかなか習得できない人もいる、ということが、わかってきます。
日本語のタ行の音は、3種類の発音が入り交じってできています。
ta ti tu te to タ・ティ・トゥ・テ・ト、
cha chi chu che cho チャ・チ・チュ・チェ・チョ、
tsa tsi tsu tse tso ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォ
「ツ音」の行、「つ」以外は、日本語でも外来語にしか用いない発音です。
日本人にとって「ツァ」「ツェ」などが発音しにくいのと同じように、日本語学習者のなかで、「ツ」を苦手にしている人、多いです。
タイ語母語話者などが、「お疲れさま」を「おちゅかれさま」と、言うときがあります。バイトを終えて、疲れたときなど、ついつい日本語の発音に気が回らなくなって、お国なまりがでちゃうんですね。
「韓国語母語話者の発音誤用の特徴は〜」「タイ人の学習者はここをよく間違える」「中国語母語話者は〜」と、教師が箇条書きにして示してやるほうが、手っ取り早いのかもしれません。
でも、私は「自分で気づく」ことを優先するために、時間をかけてハングル表記練習をさせています。
自分や友達の名前の表記文字が、ハングルにないことに気づけば、韓国では自分の名前の発音をどうやって声に出し、文字にしていくのか、知りたくなるからです。
韓国からの留学生イさんは、「つ」の発音もじょうずでした。
ハングルの名前の書き方を、イさんはていねいに指導していました。
| か:かっか、くっく、野口さんはシインで笑う・有声音と無声音の話 |
2008/06/02
日本語母語話者は、口音濁音の「が」と、鼻濁音「が」の音にちがいがあることを知っています。でも、「ががく が」と、助詞の「が」に鼻濁音を使っても、使わなくても「雅楽が」という意味は変わりません。異音ですから。
異音は、発音が異なっていても、ことばの意味を区別くない音のセットです。
日本語では「la」と「ra」は異音だから、英語のlightとrightは、同じライトになって、同音異義語になってしまう、とお話しましたね。
しかし最初の「が」を「か」に変えると、意味が変わってしまいます。
「かがく が」と、濁音と清音を変えると「化学が/科学が」へと、意味が変わります。清音の「か」と濁音の「が」は、日本語では「ことばの意味を区別する音」だからです。
ハングルでは、濁音と清音は異音です。語頭には清音を使います。語中には、濁音をつかいます。ハングルの「フト」は、「カ」「ガ」どちらにも読めるのです。
韓国語朝鮮語話者は、異音の濁音「ガ」と清音「カ」を無意識に使い分けています。
ハングル表ととひらがな表を比べて、韓国語にとって「カ」と「ガ」が異音であることを知ると、日本語の語頭の濁音は、韓国の学生にとって、間違いやすいことがわかります。学生は「カクセイ」となることもあるし、「赤い」は「あがい」になってしまうこともある。他の濁音も同じ。
ハングル文字で「か」と書いてみましょう。もう書けますね。「フト」でした。この書き方、似ているのがありますね。二つの文字、子音と母音を組み合わせる方法。
「か」をローマ字で書いてみましょう。そう、「ka」ですね。ではkaのなかの「a」だけ発音してみて。
学生たち「アー」
はい、よくできました。
のどに手をあててください。「あ〜」と言って。はい、いまのどがビリビリとふるえました。声帯を震わせたからです。この声帯がふるえる音を有声音といいます。
では次に「k」。aなしに、これだけ発音しましょう。
学生を指名すると。
「ケイ」
そうね、アルファベットの「文字の名前」はケイです。でも、ここでは、文字の名前を言うのではなくて、kaという発音のなかの前半分のkだけ発音してほしいのです。
「k」の発音をしてくださいと言って、学生何名かに発音させると「ku」と言う。つぎつぎにあてていく。「ku」、「ku」、「 ku」、、、、、中に「k」と発音できた学生がいると、拍手拍手。よくできました。
他の学生にもこの「k」だけの発音を伝授します。
「ちびまるこのクラスメート、のぐちさんを知ってますか」
学生たち、ちびまるこのアニメを見て育った世代なので、みな、のぐちさんをよく知っている。
はい、のぐちさんが笑います。kっkっkっ。これがkの発音です。はい、みなさんも、のぐちさんになってください。
k、k、k、、、、、
では、のどに手をあてて、もう一度「のぐちさん笑い」をします。「kっkっkっ」
こんどは、のどがふるえなかったでしょ?声帯をつかっていないからです。これを無声音といいます。
あら、「くっ」で、ふるえたの?それは「ku」です。[u]をつけちゃったから、声帯がふるえた。[u]は、母音で、有声音ですから。
普段、私たちはkaの音のkだけを分解して発音することがないので、kの音を発音しようとしても、どうしてもkuになります。
日本語母語話者がbook storeを発音すると bukku sutoa、ブックストアとなります。bookの[k]だけを発音することはむずかしい。
日本語ではkだけを音のまとまりとして使うことがないのです。アイウエオの音がkに組合わさった、ka、ki、ku、ke、koを、ことばを表現する最小単位として使っています。
この「ことばを組み立てている音の、ひとまとまりのくぎり」を音節といいます。

よ:よっ!ギョエテさんはボイン好きだが、ウォタナベさんは半ボイン、特殊拍の話
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2008/06/06
渡辺さんの「ワ」は、ハングルにはないので、ウォァoaで代用するしかないみたい。
ハングル文字表記では渡辺さんは「ウォアタナヘ」になる。
土田さんは「チュチタ」になる。
イギリスやアメリカのスミスさん。綴りはsmithさんです。最後のthは、日本語音節にはない音ですから、suで代用し、日本語発音ではsumisuスミスさんと呼ぶしかありません。
sumithさんをスミスさんと呼んでいるのですから、渡辺さんもウォアタナベさんで我慢してもらうよりほかありません。
名前の発音、他言語で表記するのはとてもむずかしい。
ドイツの文豪ゲーテ (Goethe) の日本語表記は、ゲーテのほか、「ギョエテ」「ゲョエテ」「ギョーツ」「グーテ」「ゲエテ」などが、ありました。苦心の表記だったのでしょうね。
ハングルで、ウォァと書いて「ワ」の代用にしてみると、日本語の「ワ」も、ウァまたはオァという半母音であることがわかってきます。
日本語の半母音は、「ワ行」と「ヤ行」です。
「や」はイァ、「ヨ」はイォという半母音です。
さて、母音、子音、半母音と並べてきましたが、ここで、日本語の音節(ことばを組み立てているひとまとまりの音)は、いくつ有るか、数えて見ましょう。
母音とは、のどから外まで息がどこにもじゃまされないで出てくる音をいいます。じゃまされなかった音が口から出ていくときと、鼻から出ていくときがあります。フランス語や東北弁では、鼻に息が抜けていく鼻母音が多用されます。
子音とは、歯や舌、唇などで音がいったんじゃまされてから外に出てくる音です。
[b]という音を出してみましょう。唇で息が止まり、唇の隙間から音が出ていくことがわかります。同じように唇で音をふさぎ、鼻から息をだしてやると[m]の音が出せます。
音節とは、母音と子音を組み合わせて、ひとまとまりの音となったものをいいます。
「子音+母音」の組み合わせを「開音節」といいます。
「子音+母音+子音」または、「母音+子音」
開音節と閉音節については、また、のちほど詳しく話します。
日本語は開音節を組み合わせてコトバを組み立てている、ということだけ覚えておいてください。

2008/06/08
「か(蚊)」は一音節の語です。「かめ(亀)」は二音節の語です。「カメラ」は、三音節の語です。「カメラ屋」は、四音節の語です。
これらの音節はすべて「母音+子音」でできています。
音節をつないで「単語」ができあがっています。
音節を「モーラ=拍」ということもあります。ことばを区別するひとまとまりの音を、音の長さからみたときの言い方を拍と呼びます。「おじさん」は4拍です。「おじいさん」は5拍です。「おじさん」と「おじいさん」の区別ができない人に、拍手しながら、おジさんは4つ手をうつ、おじいさんは5つ手をうつ、と教えて、拍手させながら発音させると、区別できるようになりますよ。
「タン、タン、タン、タン」と手を4つたたく。「お、じ、さ、ん」
「タン、タン、タン、タン、タン」と、手を5つたたく「お、じ、い、さ、ん」
また、「来て」と「切って」の区別ができない人はもっと多くいます。日本語は、母音が短いか長いか(長母音・短母音)、詰まる音(促音)をことばの意味を区別する音の単位として用いていますが、そうでない母語の人にとっては、「おじさん」「おじいさん」のちがいがよくわかりませんし、「まち」と「マッチ」の違いもわかりません。
そういうとき、拍感覚、手を三つ手をたたくのか、四つ手をたたくのか、という長さの単位を教えてやると区別がしやすくなります。
「タン、タン」と手をたたきながら「ま、ち」
「タン、タン、タン」と手を3つたたいて「マッチ」
日本語には、「母音だけ」「母音+子音」の音節のほかに「子音」だけの音節があります。「撥音ん=[n]」です。また、長音、促音、の区別も重要です。
子音だけの撥音、長音、促音の三つの音節を特殊拍と呼びます。
日本語のことばの意味を区別するひとまとまりの音=音節。
母音、母音+子音。
特殊拍=撥音(子音[n]だけ)、促音、長音。
この音節を組み合わせていけば、単語が作れます。
これらの音節の数が、日本語にいくつあるか、かぞえてください。
ヒントにはなりませんが、参考までに。中国語の音節数は、400〜500。英語の音節数は6000以上(学者によって数え方がことなるのですが)
日本語の音節はいくつあるか、という問題。考えた?これは、日本語の表記方法と密接な関係があります。
音節数と同時に、日本語の表音文字、ひらがなカタカナについて確認しておきましょう。
日本語のひらがなとカタカナは、音節ひとつにひとつの文字をあてはめています。音節文字といいます。
このような音節文字は、現在使用されている世界の文字の中では、少数派。
日本語のひらがなは、最初から母音と子音を含んだ文字になっています。
「かka」「さsa」と、ひとつの文字で、「母音+子音」を表しています。
このような音節文字によって表記している民族、多くありません。
大地震があった四川省に住む少数民族、イ族の「彝語」を表記する文字が、「音節文字」です。
「涼山規範彝文」は、声調も含めた異なる音節を、各々別の文字で表しています。
「彝文の文字」は、日本語のひらがなと同じく真正の音節文字。
文字の数は800あまり。つまり、音節が800あります。
イ族の800の文字、覚えるのがちょっとたいへんかもしれません。
でも、覚えてしまえば、イ族の人たち、自分たちの母語を、そのままに記録できます。
漢族の子供たちが覚えなければならない漢字の6千よりは文字数が少ない。
イ族の文字は、こんな字です。ウィキペディア画像より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Yiwen.jpg
「日本語の音節はいくつ」クイズ、答え合わせをしましょう。
ことばに用いる発音のひとまとまりが音節でした。
日本語のことばの発音の種類=音節がいくつあるかという答えは、音節文字の数を考えてみてね。
イ族の文字が800あり、音節文字が800あるっていうのが、ヒントです。
はい、いくつ?
日本語母語話者にとって、答えはかんたん。ひらがな表の数を思い出して。(五十音図を見せる)はい、これ、50音図です。
あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
や ゆ よ
らりるれろ
わ を
ん
「わかった、音節は50ある」と、学生の声。
え?音節の数、50だけ?
これは清音の表です。文字は50だけれど、発音は清音だけ?
そう、濁音もありますね。「は行」には半濁音(P音)もあるし、拗音もあります。拗音は、ひらがなを二つ組み合わせてひとつの音節を表しています。「きゃ、きゅ、きょ」のように、小さい「ゃ、ゅ、ょ」を組み合わせる音。
がぎぐげご きゃきゅきょ ぎゃぎゅぎょ
ざじずぜぞ しゃしゅしょ じゃじゅじょ
だぢづでど ちゃちゅちょ ぢゃぢゅぢょ
にゃにゅにょ
ばびぶべぼ ひゃひゅひょ ぴゃぴゅぴょ
ぱぴぷぺぽ ぴゃぴゅぴょ
みゃみゅみょ
りゃりゅりょ
清音濁音拗音を全部たします。
はい、これにプラス、カタカナの外来語の音があります。

2008/06/08
外来語に使うカタカナ表記の音。
たとえば、オフィスレディとかディナーっていうときの「ディ」、ひらがなの詞には、「でぃ」と表記する語はありません。
ツィゴイネルワイゼンのツィとか、レッドツェッペリンなどのツェ。「トゥルー・ラブ」なんてときの「トゥ」とか、」
さて、合計いくつになったかな?
若い人は新しい外来語の音、発音できますよね。
若い人が写真のフィルムという時の「フィ」もカタカナだけでつかう。お年寄りはこの音をつかいません。フイルムといいます。
「あ、そうそう、うちのおばあちゃん、フイルムって言うよ」と、平成生まれの日本人学生。
そういうのを全部加えると。はい、そうです。百前後。
115あります。音声学者によって、数え方はまちまちですが、ま、115前後と思ってください。
まちまちというわけは。学者によって「どの音を日本語の音韻として認めるか」という基準が異なるからです。
大多数の日本語母語話者が生まれたときからこの音を不自由なく使いこなせる、という基準にゆれがあります。
たとえば「ウィ」という音。機転機知などの「wit」
ウィットと発音する人とウイットと発音する人がいます。
この場合、「ウィ」を日本語の「標準的な音」と認めるかどうか、判断が分かれます。日本語母語話者大多数が「ウィ」という音を生まれたときから習得していれば、「日本語の音」と認めることができるのですが。
「ウェ」という音。まだ、日本語の音としては「ウエ」の発音が多数です。
結婚「wedding」を、ウエディングと発音する日本語母語話者が多い。ウエディングケーキ、ウエディングリングなど。
この場合、「ディ」という音は、おおかたの人が使っているけれど、「ウェディング」という人は少ない。「ウェ」という音は、標準的な発音になっていない。
イァ イェ イゥ イォ
ウァ ウィ ウェ ウォ
クヮ クィ クェ グェ グィ グェ
スァ スィ スェ スォ ズァ ズィ ズェ ズォ
ティ トゥ ディ ドゥ
ツァ ツィ ツェ ツォ ヅァ ヅィ ヅェ ヅォ
ファ フィ フェ フォ ヴァ ヴィ ヴ ヴェ ヴォ
これらの「片仮名表記外来語」にだけ用いる音節も含めると、115前後という音節の数が数え上げられます。
イ族の文字が800あり、音節文字が800あるというのから見ると、音節が115で音節文字の種類が50個というのは、少ないですよね。
音の種類の少なさからいうと、太平洋のハワイ諸島の現地語ハワイ語の次に、音の種類が少ない。
発音の種類が少ないからと言って、単語の数が少ないってことはありません。
この115の音節だけで森羅万象のことばを表現できます。同音異義語が多いことに関しては、漢字表記の説明のときにします。
世界中のことばの発音のなかで、日本語の発音の種類は少ない、ということを確認しました。たった50個の文字で、スペリングなど習わなくても、ある程度書けます。発音通りに書いていけばいいのですから。
ある程度というのは。
長音の書き方の規則がちょっと面倒。
「時計 とけえ」「お姉さん おねいさん」「大きい おうきい」などのひらがな表記の間違いは、日本語学習者だけでなく、日本語母語話者である日本人の子供にも、よく見る間違いです。
長音の書き方さえマスターすれば、あとは、だいたい問題ありません。
有声音(濁音)と無声音(清音)はセットで同じ文字を使います。
有声音(濁音)には、「清音」に「点々」を加える表記体系なので、文字数は50種類ほどです。50音と呼ばれています。
中世近世の日本の一般庶民は、識字率が世界で一番高かった。これは、最低限の50個さえ覚えれば、母語を話すとおりに記録でき、読むことができたからです。
音節文字の仮名は、たいへん簡単ですぐれた表記方法なのです。
世界の主流派表記システムでは、アルファベットやハングルのように、音素/単音文字がほとんどです。母音の文字と子音を組み合わせながら表記します。文字の数が少なくてすみます。
英語の文字。アルファベットは27個で少ないですが、この27個を覚えただけでは読み書きできません。
スペリングをおそわらない限り、英語圏の子供は、「ライト」という単語をlightとはつづれない。
「知ってるよ、それ、ライトだよ」と書きたくても、スペリングを教わっていなければ、「I
know it.It's light.」とは書けません。「I no it. It's liat」と書くと、「何、それ?」と言われてしまいます。
日本のこどもは、頭で考えたとおりに「ですのーとのらいと?ぼく、しらない」とそのまま書けばいいのです。

| そ:そのまま発音通りに書くとはいえ、「おうじは おおじをゆく」 |
2008/06/06
発音通りに書くのが現代仮名遣いの原則、とはいえ、日本語にも例外が三つだけあります。さて、発音と文字が一対一対応でないのは、何と何?
「は」と「へ」の文字は、ひとつの文字が2種類の発音を担っている。
この2種類の発音のちがいは、日本語母語話者も意識しています。小学生のとき、「わたしわ がっこうえ いきました」と、発音通りに書くと、先生に赤ペンで添削されたから。
「は」。
意味内容を担う「語/詞」に用いるときは「ha」と発音する。「はな」「はつおん」など。助詞として用いるとき「は=wa」と発音する。
「へ」。「へや」「へいわ」などのときは「he」と発音する。助詞のときは「へ=e」と発音する。
三つ目の例外は「ん」。
日本語母語話者は、「ん」はひとつの発音だと思っていますが、音声学からいうと、[n][m][ng]の三つの発音があります。
この三つの音は、異音(発音はちがっても、同じ音に聞こえる)ですから、その違いは、母語話者には意識されていません。
「ん」の発音については、春庭カフェコラム2007/10/05〜10/07をご覧ください。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200710A
話した通りにかけばよい日本語も、いくつか「覚えないと書けない」ことがあります。「じ/ぢ」「ず/づ」のかき分けと長音表記です。ちょっと、ややこしい点があります。
学習者が表記にとまどっているとき、「どうしてお姉さんをおねいさん、って、書くのよ」「大きいbigは、おうきいじゃなくて、おおきいって書くと教えたでしょ」と思わずに、ああ、私もりんごをappuruと書いたことがあったなあ、と自分自身の失敗を思い出すことにしています。
ひらがなひとつでも、学習者の疑問質問と、とまどい間違いを大切にしてくださいね。
ひらがなカタカナの教えかた、大切ですよ。
はい、ここでスペリングコンテストを行います。英語じゃありません。日本語の表記テスト。
正しい表記、aまたはbを選んでください。
A:
1)小遣いaこづかい・bこずかい
2)稲妻aいなずま・bいなづま
3)鼻血aはなぢ・bはなじ
4)地面aじめん・bぢめん
5)aこぢんまり・bこじんまり
B:
6)狼aおおかみbおうかみ
7)大凡aおおよそ・bおうよそ
8)公aおおやけ・bおうやけ
9)仰せaおおせ・bおうせ
10)氷aこおり・bこうり
簡単でしたか。「日本語なら、お手のものだ」ですよね。
10点満点。合格点に達したかな?
日本語学習者は、一生懸命この表記を勉強するんですよ。
以上のクイズは、日本語教師をめざす人のための「日本語教育能力検定試験」の過去問と、日本語学習者のための「日本語能力試験」の過去問からえらびました。
クイズの正解。全部「a」
日本語学習者が、「オの長音long vowelはウと書きます。王子はおうじ。でも、大路はおおじです。なぜですか」と質問してきたとします。あなたには、どう解説していいかわかりません。どうしますか。
そのときは、「では、来週答えます」と言っていいですから、翌週、説明してやってください。
答えは、日本語現代仮名遣いの本に載っていますよ。
現代仮名遣いは1946年制定、1986年に改定されました。
「お」の長音表記について。
王は、オーと長音long vowelで発音します。「お」の長音は「う」とかきます。「おうじ」です。
「おとおさん」ではなくて「おとうさん」、「とおだい灯台」ではなく「とうだい」
古代日本語の発音では、大きいは「おほきい」でした。千年の間に、発音が変化して、「おほきい→ オーキー」と発音するようになりました。
60年ほど前までの、日本語の書き方では。
大きい=おほきい、大路=おほじ、と書きました。古代の発音通りに書いていたのです。
現代仮名遣いでは「ほ→お」と書くのが決まりです。ライティングルールです。
「大おお」がつくことばは、おお〜と書いてください。だから「大路」は「おおじ」です。「王子おうじ」も「大路おおじ」も発音は「オージ」ですが、書き方はちがいます。
春庭の「ひらがな長音表記の主張」をもう一度。
カタカナと同じように、長音記号「ー」をつかって、おかーさん、おとーさん、おばーさん、おーじ」と、書けばよい。
ひらがな表記の例外。
稲妻は、もともとの意味は「稲の妻」。稲を育てる水をもたらす稲光=稲妻いなづま、でした。しかし、現代人の意識には「妻」という意識がなく、「いなずま」として一語に理解されているから「いなずま」と書く。(ただし、許容範囲として、いなづまでもOK」
ややこしい例外表記について、解説。
じめん、きずな、さかずき、など、私には納得できないカナ表記がいろいろあります。
「ぢ・じ」「ず・づ」のかき分け。
原則、元の語の通りに書く。三日月は、「月つき」の濁音だから「三日月みかづき」と書く。元の語が「血ち」だから、「鼻血」は、「はなぢ」
日本語学習者が「ぢとじは同じ発音ですね」「ぢかん、どうしてダメですか」「みかずきはいいですか」と質問してきたとき、どうしますか。
「時間はじかん、三日月はみかづき。なんでもいいから、覚えろ」という人もいます。それもひとつの教授法だといえます。理屈よりとにかく暗記。
でも、理屈で納得できないと先に進めない学生もいるんですよ。
2008/06/14
つ:綱(つな)と絆(きずな)・四つ仮名問題
手綱は、「綱」という語が意識され、「手(た)プラス綱」という意識が残っているから「たづな」と書く。
しかし、絆は「きずな」。
きずな(絆)の元の語は、「きプラス綱」です。
しかし、現代人にとって「気+綱」という語構成の意識がなくて、一語のまとまった単語であると、みなされているから「きずな」になる。
「高坏たかつき」は、清音のまま「つ」と書きます。しかし、杯は、「酒+ツキ」であるにもかかわらず、「さかずき」になるのは矛盾しているように、私は思います。
「杯」は「ひとつのまとまった語であって、分解する意識が現代人にない」と見なされ、「さかずき」になりました。う〜ん、どうだろう?
現代仮名遣いを決めた人たちにとって、「現代人には酒+ツキとは意識されていない」と判断できるものであったのでしょうが、私は、「語源を残す」という意味で「さかづき」「いなづま」のほうがいいと思います。
許容範囲として、「きづな、さかづき」も、認められてはいますが。
「じめん」は「地ち」の「面」であるが、現代語では「じめん」の一語で理解されているから「じめん」と書く。こちらははっきりと「ぢめんは誤記」とされ、「ぢめん」は、許容範囲にも入っていません。
語頭の表記として「ぢ」と「ず」は出来る限りさける、という表記基準により、「ぢめん」がさけられた。
「陣屋」も「ぢん」+「や」であるのに、「ぢんや」と表記できません。「じんや」です。
「頭づ」+「痛」も、「ずつう」ですし、図画も「づが」だと、漢字表記されません。「ずが」になります。
現代語で「ヅ」を語頭に表記するのは「ヅラ(かつら)の略語」くらいでしょう。
「おお」と書く「おの長音」は、少ないですから、覚えてしまいましょう。
日本語初級で扱う語は、「大おお」がつくことばのほかは、「狼、氷、通り、多い」。中級から扱う語「公、覆う、仰せ」。上級から扱う語「概ね(おおむね)、大凡(おおよそ)」これくらいのものです。
2008/06/21
古代中国『後漢書』に記された倭国。
紀元後57年、光武帝は、倭国からの使者に金印を授けた。金印には「漢委奴国王」と、刻まれていた。金印を授与されたということは、光武帝から「オマエの国を、漢の支配下に入ったと認めてやろう」という意味。
奴国の大王は、周辺の国に対してこの漢字の入った金印を掲げることで、文明国漢の勢力を誇示することができました。
8世紀後半に成立した日本最古の歴史書である『日本書紀』は、漢文で書かれています。
応神記には、
十五年秋八月壬戌朔丁卯、百濟王遣阿直岐。(中略)阿直岐亦能讀經典。
即太子 菟道稚郎子師焉。於是天皇問阿直岐曰、「如勝汝博士亦有耶。」
對曰、「有王仁者、 是秀也。」(中略)
十六年春二月、王仁來之。則太子菟道稚郎子師之。
習諸典籍 於王仁。莫不通達。
現代語訳
(応神天皇)15年(西暦284年)の8月6日、百済王が阿直岐を(倭国へ)遣わした。(中略)
阿直岐は(儒教の)経典も読むことができた。
そこで、皇太子である菟道稚郎子 の先生にした。
ここにおいて、天皇は阿直岐に「お前に勝るような博士はまだい るか」と訊ねた。
(阿直岐は)「王仁という者がいます。この者は秀でています」 と答えた。(中略)
(応神天皇)16年(西暦285年)の2月、王仁が来た。
ただちに王仁を皇太子 である菟道稚郎子の先生にした。
(皇太子は)諸々の典籍を王仁に習い、理解し ないものはなかった。
この『日本書紀』の記述は、歴史的に証明された記述ではありません。しかし、3〜7世紀の倭国に、どのように漢字が入ってきたかを示唆しています。
多様な技術をもった渡来人が、漢字文書とともに大陸や半島から島国倭国にやってきたことは事実でしょう。
3〜7世紀、倭国の人々は、熱烈歓迎で漢字を迎え入れました。
漢文を習い、しだいに「訓読」の方法を身につけていきました。
2008/06/19
日本語は、ひらがなの創案、そして「いろは歌」の普及で、一般庶民でも文字が手軽に読み書きできるようになりました。
ひらがな、カタカナの成立について復習しておきましょう。
今から1300年前、文字を持たなかった祖先は、漢字を知ったあと、母語に適した表記システムを改良しました。ひらがなカタカナの成立は、日本語と日本文化にとって最大の出来事でした。
8世紀の日本。太安万侶らは、苦心して「万葉仮名」を利用した日本語表記のシステムを考案しました。
もともと、中国に、発音を漢字で説明する方法がありました。
サンスクリット語(梵語)から漢語への翻訳のさいに方法化されていたシステムです。
それを手本に、漢字を発音記号として日本語の音節を表せるようになったのです。
サンスクリット語で、「ナーム」というのは、名詞では「名前」という意味であり、動詞では「名を呼ぶ、名を唱える」という意味です。
サンスクリット語のナームは、同じ印欧語族の英語では「nameネィム」です。日本語外来語としてはネームです。
漢語に翻訳すれば「名を唱える」は、「称名」です。
でも、翻訳せずに、音訳(音をそのまま漢字に当てはめる)すれば、「南無ナム」です。
サンスクリット語の「アミータ」は、aが否定辞。英語に当てはめれば、「un」です。mitaは、「量る」です。「アミータ=量れない」という意味。
サンスクリット語mitaを英語にあてはめるとmeter。日本語外来語ではメーターです。
漢語に翻訳すれば「無量」。音訳なら「阿弥陀」です。
サンスクリット語のbuddha(ブッダ)、意味は「目覚めた人」「悟った人」。
漢字音訳では「仏陀」。意訳は「覚醒者」
サンスクリット語の「ナームアミータブッダ」
漢字音訳すれば、「南無阿弥陀仏」
漢語意訳すれば「称名無量仏」となります。
日本語では「ナムアミダブツ=阿弥陀仏のお名前を唱えたてまつる」略して早く言うと「ナンマンダブ」
「ナンマンダブ」と、死ぬ前にひとことつぶやけば、極楽往生。量り知れない慈悲心を持つ阿弥陀様は、衆生をお救いくださるのです。
日本仏教、コンビニエント便利至極ですね!
さて、ナンマンダブの御利益、「発音記号としての漢字」が、日本語ひらがなに応用されました。
日本語の漢字利用は、3つの方法がとられました。古代中国語の発音をそのまま取り入れる「音読み」と、日本語の意味にあてはめて、漢字を日本語通りに読む「訓読み」。
それから、日本語の音節ひとつに漢字をひとつ当てる「万葉仮名」の方法。
1)万葉仮名の方法。
古代中国の仏典翻訳で、サンスクリット語の「ナーム」の「ナー」の発音に漢字の「南」を当て字し、「ム」の発音に「無」の字をあてる、という方法で、「音訳」をおこなった方法が、日本語にも応用されました。
日本語の「は」という音節に中国語の漢字の音にあてはめて「波」、「な」を「奈」と表記しました。
万葉仮名は、「な」という発音に対し、「奈」「那」「難」「南」「名」「菜」などの漢字のあてて表記しています。これらの漢字を崩した草書文字「崩し字」の表記は、「変体仮名」として、江戸時代まで使われていました。
文字を知らなかった日本語が、「はな」という発音を「波奈」と書けるようになったのです。
日本語音節ひとつに漢字ひとつをあてはめる万葉仮名が成立したあと、草書体の「くずした形」の書き方がひろまり、「草仮名」と呼ばれました。
草仮名から「ひらがな」が形成されます。
2)音読みの方法
「花」は、現代中国語での発音は[hua(-)]です。
古代中国語(中国南部地方)では[khua]という発音だったと思われます。四声はわかりません。(おそらく1声)
古代中国語の「花」、有気音(息を強く出す音)で、「クファ」と聞こえたでしょう。
日本語では、古代中国語の発音をまねて「カ」と発音しました。音読みで漢字を輸入したのです。
3)また、「花」は、日本語の「はな」と同じものを指し示しているから、「花」を「はな」と読むことにしました。漢字訓読み(翻訳読み)の成立です。
「海」は現代中国語では[hai(v)]です。古代中国語では[khai]。日本語では「カイ」という発音として取り入れました。
日本語の「うみ」と中国語の「海」は同じものを指し示しているから「海」を翻訳して「ウミ」と読むことにしました。
「万葉集」は、このような漢字の音読みと訓読み、万葉仮名を混ぜ合わせて、工夫した表記がなされています。
万葉集の冒頭。(万葉集成立は7世紀末〜8世紀初)
雄略天皇の御製とされる万葉集冒頭の歌は、大君が求婚するときの伝承歌だったと推測されます。
万葉仮名とひらがなを対照してみてください。
籠毛与 美籠母乳 布久思毛与 美夫君志持
此岳爾 菜採須児 家吉閑 名告紗根
虚見津 山跡乃国者 押奈戸手 吾許曾居
師吉名倍手 吾己曾座
我許背歯告目 家呼毛名雄母
こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち
このおかに なつますこ いえきかな なのらさね
そらみつ やまとのくには おしなべて われこそをれ
しきなべて われこそませ
われこそは のらめ いえをも なをも
(万葉集冒頭部分の春庭現代語)
かご、美しい籠を持って、土を掘り起こす串、美しい串を持って
この岡に 菜を摘んでいる乙女よ 家を聞こう 名を告げてください
そらみつ 大和の国は おしなべて わたしのもとにある
ひろく敷き渡ってわたしが支配している
わたしこそは あなたに告げよう 家をも名をも
求婚の意志を示すために自分の名を告げ相手の名を聞いています。
自分の名前は、親と配偶者以外に知られてはならない大切なものでした。本名を告げることは、本名に伴う自分自身のすべてを相手にゆだねることになります。
日本語音節発音に一字をあてている表記。籠毛与の「毛与」は、現代ひらがなにすると「もよ」です。
日本語の発音、音節ひとつに漢字ひとつがあてられています。これが万葉仮名です。
また、「籠こ」「岳おか」「家いへ」「吾われ」「山やま」などの名詞、持(もつ)告(のる)など、動詞に、同じ意味の漢字をあてて「訓読み」がなされている部分もあります。
現在残されているもっとも古い写本でも、「万葉集写本」は1000年代以後のものです。
このころの写本だと、日本語の文法構造がきちんと意識されていることがわかります。
すなわち、名詞や動詞など、意味概念を表す語と、助詞などの文法機能を表す部分が区別されて表記されているのです。
万葉集が編纂された当時の書き方はどうであったのか、推察の手がかりが発掘されました。
先月、5月22日に発表された「万葉の和歌木簡」は、日本語言語文化にとって、大変重要なものです。
聖武天皇の都跡といわれる紫香楽宮(しがらきのみや)から出土した木簡に、二首の歌が記されていました。
この木簡の年代は、他の木簡に記されていた年代から740年前後のものと推測されます。
万葉集16巻の成立年代は、750年前後(編者大友家持は785年没)。最終成立時期は800年前後)
木簡に記された2首の歌は、紀貫之が書いた古今和歌集の仮名序(905年)に、初心者が最初に習う「歌の父母」である、と紹介した歌そのものです。
貫之が、和歌を習うにも、お習字するにも手本とすべき「歌の父母」としたのは、次の二首。
「難波津(なにはつ)に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」
「安積香山(あさかやま)影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに」
奈良時代、下級官吏が筆を手に「手習い」をして、懸命に文字の習得につとめているようすがわかる木簡も出土しており、この時代、人々にとって文字を読み書きすることは、「人生」がかかった大切なことだったことがわかっています。
徳島県の観音寺遺跡から、7世紀のもの(689年以前と推察できる)と思われる習書木簡(お習字のための木簡)が出土しています。万葉仮名で「奈尓波ツ尓昨久矢己乃波奈なにはつにさくやこのはな」と記されていました。
紀貫之が古今集仮名序に「歌の父母」として示した二首の和歌を、人々は口にだしてそらんじ、文字を習ったことでしょう。
聖武天皇の紫香楽宮(しがらきのみや)跡から発掘された木簡。
日本語の音節ひとつに漢字1字あてる万葉仮名で「奈迩波ツ尓(なにはつに)」「夜己能波(やこのは)」「由己(ゆご)」という文字が、木簡に書かれていました。
古今和歌集仮名序に、紀貫之が引用した「難波津(なにはつ)に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」の一部とみられます。
この歌の作者とされているのは、日本に漢字を伝えたという伝承がある王仁。
大雀命(おほささきのみかど・後世につけられた名は仁徳天皇)が即位したとき、治世の繁栄を願った祝いの歌。
冬ごもりをおえて咲き誇る花。年ごとに咲く花に、大王の繁栄を重ねた歌なので、王仁個人の歌というよりも、「おほささきのみかどをそへたてまつれるうた」として、伝承されてきた和歌なのだと思います。
もう一首。
木簡の裏側には、「阿佐可夜(あさかや)」、下部には「流夜真(るやま)」と書かれていました。万葉集16巻に載っている、「安積香山(あさかやま)影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに」という歌が読みとれます。
大和の国から九州へ東北へと勢力を広げたヤマトの大王。大王から陸奥国に派遣された葛城王をもてなす宴会で、采女(うねめ)として大和朝廷に仕えていた女性が詠んだとされている歌です。
地方の首長たちは、自分の娘や姉妹をヤマトの大王のもとに采女(うねめ=宮廷の女官)として差し出すことになっていました。采女のつとめを終えてふるさと陸奥の国へ戻っていた女性が、葛城王の前に召し出されて、歌を詠んだ。
アサカヤ(マ)という日本語発音に「阿佐可夜(?)」という漢字が一字一音であてられています。万葉集成立以前に、広く「万葉仮名」が使われていたことがわかる、貴重な木簡です。
万葉仮名の表記方法で記載されているもうひとつの書。
古事記(成立712年)の冒頭。
「天地初發之時於高天原成神名天之御中主神【訓高下天云阿麻下效此】次高御産巣日神次神産巣日神 此三柱神者並獨神成坐而隱身也次國稚如浮脂而久羅下那洲多陀用幣流 ...」
と、太安万侶らは、記しました。
「くらげ」ということばには、音節ひとつに漢字ひとつを「当て字」して「久羅下」と書き表し、「くらげなすただよへる=久羅下那洲多陀用幣流」と、音節文字の原型があらわれています。
古事記本文は、漢字だけを用いて「変体漢文(日本風漢文)」で書かれていますが、古語や固有名詞のように漢文では表記できない部分は、一字一音表記で記す、すなわち音節文字の万葉仮名で記録するという表記スタイルを取っています。
「花」は万葉仮名で書くと「波奈」,「クラゲ」は「久羅下」と書き表したのです。
この表記方法を読み解いたのが、本居宣長です。(宣長の息子、本居春庭も国学者です。春庭が名前を借りています)
この古事記万葉集の万葉仮名から200年ちょっとたったとき。紀貫之がひらがなの文章として、土佐日記を書きました。(成立935年)
当時、男は漢字を書き、ひらがなは「女手」と呼ばれました。
それで、紀貫之は「ひらがな表記」をするにあたって、わざわざ「男も書くという日記というものを、女も書いてみます」と、冒頭に記しました。
万葉仮名の表記方法で古事記や万葉集が記録されて以来、草仮名(ひらがな)が改良され、ひらがなの普及が、土佐日記を生み、源氏物語を生み枕草子を生んだのです。ひらがなは、漢字と組み合わせると自在に日本語を書き表せるからです。
音節文字ひらがなができ、さらに「いろは歌」の普及によって一般庶民の間にも文字が使われるようになり、中世近世の高い識字率を生みました。世界中で、近代教育普及以前に、日本ほど一般庶民が高い識字率を示していた国は、ほかにありません。
漢字にもアルファベットにもできなかったことを、ひらがなが成し遂げたのです。
これは、日本文化のおおいに誇るべき点です。日本日本文化の根幹に「仮名文字」があります。

2008/06/14
漢字をくずした形のひらがなができあがったこと。もとの漢字、全部わかって、いますか。日本語学習者、漢字を覚えた後、ひらがなの元の漢字について質問してくる人がいますよ。
クイズをしてみましょう。
クイズ(1)「あ」の元になった漢字は「安」です。
では、「え」の元の漢字は何でしょうか。
え た は に も み な し ら む の元の漢字を推測してください。
クイズ(2)「世」は、ひらがなの「せ」の元字です。
では、 以 寸 不 仁 也 尤 奴 遠 部 与 ひらがなの何の元字?
クイズ(3)カタカナは漢字の一部分をとって作られています。次の漢字は、どのカタカナの元字でしょうか。
畿 散 川 奴 八 女 礼 乎 三 己
さて、15点満点。何点でしたか。
クイズの答えは、以下のひらがなカタカナの元漢字表を見て、みつけてください。
ひらがなの元漢字表(漢字の草書体から)
安 以 宇 衣 於 あいうえお
加 畿 久 計 己 かきくけこ
左 之 寸 世 曽 さしすせそ
太 知 川 天 止 たちつてと
奈 仁 奴 称 乃 なにぬねの
波 比 不 部 保 はひふへほ
末 美 武 女 毛 まみむめも
也・・由・・与 や ゆ よ
良 利 留 礼 呂 らりるれろ
和 為・・恵 遠 わゐ ゑを
尤
ウィキペディア ひらがな表
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Hiragana_origin.svg
カタカナの元漢字表(漢字の一部分をつかう)
阿 伊 宇 江 於 アイウエオ
加 畿 久 ケ 己 カキクケコ
散 之 須 世 曽 サシスセソ
多 千 川 天 止 タチツテト
奈 二 奴 称 乃 ナニヌネノ
八 比 不 部 保 ハヒフヘホ
末 三 牟 女 毛 マミムメモ
也・・由・・与 ヤ ユ ヨ
良 利 流 礼 呂 ラリルレロ
和 井・・恵 乎 ワヰウヱオ
(ウィキペディア カタカナ表)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A

2008/06/24
音節文字は、ひとまとまりの発音「子音と母音の組み合わせ」を含んでいるでいること。
ひらがなひとつで、日本語音節ひとつの発音を表していること。(だだし、後世に記述するようになった拗音は、音節ひとつをひらがなふたつで表す。きゃ、きゅ、きょ、など)
漢字から新しい文字が作られたこと。
以上、日本語のひらがなカタカナについて確認しました。
漢字ならお得意だろうと思われる中国語話者にとっても、日本の表記システムにむずかしい点があります。音読みも訓読みも覚えなければならないので。
中国語標準語(北京官話=マンダリン)の漢字の読みは、原則ひとつの漢字に読み方(発音)はひとつだけです。
「行」の発音は[xing(/)]だけ。
日本語の漢字は、ひとつの漢字に読み方は音読みが最大3種類。
漢字輸入時期の違いによります。奈良時代以前の発音=呉音。奈良時代以後の発音=漢音。鎌倉室町時代以後の発音=唐宋音。
行の読みは
呉音ギョウ「一行」「修行」、
漢音コウ「一行」「旅行」、
唐音アン「行灯」「行脚」
「一行」でも、文脈により、「上からいちぎょう目」「芭蕉師弟いっこうは、宿に着いた」など、読み分けなければなりません。
日本の漢字の訓読みは、ひとつの漢字に最大10種類。
クイズです。
「生」のよみかた、12通り。音読みの2種類はだいじょうぶでしょう。
さて、10通りの読み方がある訓読みは?
「生」の訓読み、全部言えますか。辞書を見ないで、幾つ思い出せるかな?
音読みは2種類
A)呉音読みの「ショウ」一生、生涯、生滅、生国、生者必滅、生姜(ショウガ)
B)漢音読みの「セイ」 学生、先生、生活、生殺与奪
訓読みの確認。(覚え方:言う翁、なりわい生麩あいさんさん)
1)い 生きる、生かす、生ける
2)う 生まれる、生む
3)お 生う、生い立ち
4)き 生娘、生一本、生粋、生地、生真面目、生絹(きぎぬ/すずし)
5)な 生る 生り物、生り年、
6)なり 生業(なりわい)
7)なま 生ビール、生足、生兵法、生返事、生半可
8)ふ 芝生
9)あい 生憎(あいにく)
10)常用漢字表外の特殊な読み方 生飯(さば/さんぱん) (生方=うぶかた、その他、人名訓よみはさまざま)
同級生に生方さんがいたから「うぶかた」は、知っていましたが、「生飯」を「さんぱん」と読むとは、私も知りませんでした。「生飯」は「さば」という読みもあります。
「さんぱん」は、常用漢字としての読み方ではないし、散飯という書き方もあるので、覚えなくてもかまいません。
でも、「生ビール」はナマだけれど「生娘」を「ナマ娘」と読んではいけない、ということは、留学生も覚えなければなりません。
ナマ娘だと、なんだか生々しい。
靴下やストッキングを履いていない足を「ナマ足」と呼ぶようになって以来、ナマ娘は、下着も上着も身につけていない、すなわち「スッポンポン」で人前にでているって気がしてなりません。
リスは、「リス」「りす」「栗鼠」と、三種類の文字で書くことができ、どれをつかっても理解してもらえる。現代仮名遣いでは動植物は原則としてカタカナで書くことになっていますけど。
あら、栗鼠が読めなかったの?
現代中国語(北京語)ではリスは「松鼠son(-)shu(v)」です。現代中国語で「栗の実」は「栗子lizi」です。
古代中国語南部地方では、リスは、栗の実を食べる動物、「栗鼠lishu」という語だったのだと推測されます。日本語の和語にはラリルレロを語頭にする語はなかったから、栗鼠は中国語から入った語と推測できます。
古代日本語では、狩りをして肉として食べられる動物は全部「しし」でした。中国語漢字が入ってから「鹿」や「猪」「獣」などの文字を使うようになりましたが、発音は全部「しし」でした。最初はね。
肉を利用しない栗鼠の場合、中国語の「リス」という読み方がそのまま動物名になりました。
一方、ニスは、ふつうはカタカナで書き、ひらがなや漢字の表記は使いません。外来語という意識があるからです。ニスの語源はオランダ語のvernis(英語のvarnishにあたる)だとお話しましたね。
でも、ニスという語を耳で聞いたときに、それが外来語なのかどうか、どうやって区別しますか?私たちは、カタカナで書いているから外来語だと思っているだけです。
留学生にとって、カタカナのことばの表記を覚えるのは、なかなかたいへんです。
英語圏の学生は、英語由来の語だと、どうしても英語の発音通りに書こうとしてしまうし、英語圏以外の留学生にとっては、どれがカタカナで書けばいいのかわからないから、一語一語、書いて覚えます。
<ういのおくやま へ続く>

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