図像解釈の方法

図像を理解する最初の手段はそこに表現されている人物が誰かを理解することです。そのために最も確実な方法は人物に添えられた銘文を読みとることです。地域や時代によって綴りや文字の形に違いはありますが、アルファベットさえ読めれば、誰でも判別が可能です。ところがこうした銘が記されることは少ない上に、そのほとんどは六世紀の黒像式陶器に集中しているのです。

 銘がない場合、人物を特定するにはその描写の特徴を読みとることが必要になります。ギリシアの神々にはそれぞれ役割や性格があり、それを象徴する持ち物や衣服と共に表現されます。これらはアトリビュートと呼ばれ、ゼウスなら雷霆、ポセイドンなら三つ又の矛という感じです。それぞれのアトリビュートについては各人物の項目を参照して下さい。

 神々を読みとることができれば、そこに描かれているのは神話の場面という解釈ができますが、ヘラクレスなど視覚的な特徴を持つ一部の英雄をのぞけば、神話の人物なのか、現実の世界の人間なのかを区別するのは容易ではありません。この判断には、人物の動作や周りの環境、道具などから推測していく必要があります。

 例えばテセウスの場合、ペタソスと呼ばれるつばの広い帽子にマント、短いキトン、ブーツといった姿で表されることが多いのですが、これは日常の旅人や猟師の表現と全くおなじもので、外見だけでは両者を区別することはできません。しかしテセウスは神話の中の特定の場面に登場するので、周囲とのかね合いで描かれている主題を理解することができます。

 テセウスはトロイゼンからアテナイに向かう道中でスキロンという人物に出会います。彼は崖のそばで旅人を待ち、呼び止めて自分の脚を無理矢理洗わせます。そして旅人を蹴落として、崖の下で待ちかまえる大亀の餌にしてしまうのでした。ところがテセウスには立場を逆転させられ、スキロンは崖から蹴落とされてしまいます。

 陶器画には脚を洗う水盤、崖を表現した岩場、亀などが表現されています。逆にこうした要素の中に格闘したり、投げ飛ばしたりする二人の人物が登場すれば、そこに描かれているのがこの場面だと推測することが可能なのです。陶器画を理解する最も有効で頻繁に用いられているのがこうした手法です。

 とはいえ、すべての場面が正しく解釈できるわけではありません。劣った画家には他の画家が描いたものを正しい意味を理解せずに写し取るものが多くいたようで、間違った解釈で描いたり、複数の場面を混同して描いたりと混乱が生じ、場面の解釈を難しくしています。これを理解する方法の一つがその図像のモデルを探ることで、そのためにも図像の発展の研究が不可欠となってくるのです。

 図像は少なからず先人の表現に影響を受けているものです。その影響関係は、例えば陶器画家同士にとどまらず、彫刻や壁画など美術・工芸全体に及んでいます。図像の発展を探ることは、美術工芸の発展の解明にも重要な役割を果たし、また芸術家・工芸家同士の関係を探る手がかりの一つでもあるのです。