60年代の広告

[少年マンガ雑誌編]

《家にいながら切手で買える通信デパート》
(『少年マガジン』1968年11月24日号)

 今年の5月31日以来、久しぶりの「60年代の広告」であります。
 今回、この《家にいながら切手で買える通信デパート》のページを作るに当たり、最後に「60年代の広告」をアップした時期を確認しようと、データ更新リストをさかのぼって見ていて、はじめて気がつきましたが、前回の「60年代の広告」は「少年漫画雑誌編/4枚タッタ200円〜1966年版・その1」ということでやらせていただいておりまして、調べてみたら、「少年漫画雑誌編/4枚タッタ200円〜1966年版・その2」は、まだアップされておりませんでした。
 この「60年代通信」のデータ更新作業が、いかに、いい加減に進められているかということを改めて自覚したわけでありまして、順序が前後することになってしまいますけれども、近々、「少年漫画雑誌編/4枚タッタ200円〜1966年版・その2」も作業を行いたいと思いますので、悪しからず、ご了承ください。
 ということで、いきなり情けない楽屋話から始まってしまいましたが、その約5カ月ぶりに登場してまいりました「60年代の広告」の今回のネタは、『週刊少年マガジン』の1963(昭和38)年11月24日号に掲載されておりました《家にいながら切手で買える通信デパート》という切手による通信販売の広告であります。
 現在も、一部の方面からは“物欲の権化”などという呼ばれ方をされている私でありますが、誤解を招かないように申し添えておきますと、私の場合、モノそのものが欲しいのではなく、ある目的を達成するために、結果としてモノが必要となってくるというだけでありまして、単なる新しモノ好きとか、成り金の買い物趣味とか、そういうものとは違うのだということを強調させていただきたいと思います。もちろん、貧乏人として、その分をわきまえなければいけないことは、言うまでもありませんが…。
 そういう話はともかくとして、とにかく、一部の方面から“物欲の権化”呼ばわりされている、目的達成の手段としてモノを必要とする私の習癖は、すでに、1960年代の幼少の頃より、その萌芽が現われていたようで、実は、小学生の頃から、私は、こういう通販の広告を見るのがとても好きな子供でありました。
 単に好きだっただけではなく、実際に、この広告の左下に載っているようなポケット・カメラを、こういう通販の形で購入した経験もあるほどであります。
 多分、ポケット・カメラを買ったのは、小学校の3〜4年の頃だったと思われますので、ひょっとすると、今回、取り上げさせていただく、『週刊少年マガジン』の1963(昭和38)年11月24日号に掲載されておりました《家にいながら切手で買える通信デパート》の広告を見てのことだったかもしれません。
 今では、もう、少年向けの週刊マンガ雑誌で、この手の怪しそうな通販の広告というのは、あまり見かけることがなくなってしまったような気がしますが、1960年代当時、駄菓子屋通いもそろそろ卒業しようかという小学校中学年から高学年くらいの子供たちにとって、こうした通販の広告というのは、貧しい家計からひねり出されたお小遣いの消費対象として、大いに、購買欲をそそるものがあったのでありました。
 それでは、懐かしい通販広告と、そこに掲載されたアブナそうで怪しい商品の数々を、検証していくことにいたしましょう。

 まず、《家にいながら切手で買える通信デパート》という見出しの下にある説明文です。
☆お手もちの切手を送ればこの広告の商品が買えます!
☆記念切手(未使用のもの)をおくればずッと安いおねだんで買えます!
☆品物は切手がつきしだいスグ発送しております(郵便屋さんが配達しますから注文品をハッキリ書いてください)
◎ご注文のあて先は→東京都××区××町21※SNH株式会社SM48切手係

 ということで、この通販では、代金を切手で支払うことになっておりまして、しかも、記念切手を使うと、通常の値段よりも安く買えるという仕掛けになっております。当時、切手の収集というのは、子供たちの間で大変なブームになっていましたから、この通販を扱っていたSNHという会社も、そうしたスタンプ・ビジネスをやっていて、記念切手などを低コストで仕入れる一つの手法として、こういう通販事業も行っていたのかもしれません。
 説明文の中にある「ずッと」とか「スグ」とかいったような部分的なカタカナ表記が、時代を感じさせると同時に、何とも、アブなそうで怪しそうな雰囲気をイヤが上にも盛り上げてくれているわけです。
 商品の説明記事の右横には、「あなたの注文品はどれにしますか??さあ…きめてください!!」という煽りのコピーが添えられており、子供たちは、そのコピーに促されるように、商品説明記事に見入っていくことになったのでありました。

◆ギターのネツケ ネツケとはサイフや定期入れ、カバンなどにつけるかわいらしいマスコットのことです! ウタの好きな方はぜひこのギターをサイフかカバンにつけましょう 10円切手19枚をフートーの中に入れて申込めばスグお送りします!(記念切手なら120円分でよい)
◆クマのネツケ 遠い北海道の山おくにいるアイヌのクマまつりで有名なクマのネツケ…10円切手28枚をフートーに入れて申込めばスグお送りします!!(記念切手なら180円分でよい)
◆東京タワーネツケ 世界一の高さをほこる東京タワーは世界中にしれわたって有名です 10円切手19枚をフートーに入れて申込めばスグお送りします!(記念切手なら120円分でよい)
◆あらふじぎ? テレビの画面が8ミリ映画の大きさに見える! 遠くを歩く人の顔のホクロやハナのアナまでよく見えて…アハハハこれはユカイユカイ…ハイキングや旅行にもち歩けばじつにオモシロク野球や映画や実演など…遠いケシキや人の顔がビックリするほど大きく見えてグンと楽しい高級オペラグラス発売!折タタミ式ですからポケットに入りとても便利!この高級オペラグラスは10円切手85枚で送る(記念切手なら560円分でよい)

 「ネツケ」は、その通り「ネツケ」と読むのか、それとも、「ネッケ」と詰まって読むのか、よく分かりませんが、何れにしても、私は、この「ネツケ」というものを知りません。ペンダントやキーホルダーのような感じのものなのでしょうか。
 「オペラグラス」の説明文は、かなりノーテンキな内容になっておりまして、その無責任さ、いい加減さは、ほとんど、商品説明というよりは、ボケてみせてのウケ狙いとしか思えないほど、危ない内容になっております。



★俳優バックル この俳優バックルはまん中のキラキラ光るステンレスのフタがパッと開き、中に美しい映画女優の写真や大好きな人の写真などこっそり入れてパチンとしまる!とてもスマートな新製品!あなたのバンドにつけると胸がワクワクするうれしさでいっぱいです!今スグフートーに10円切手58枚入れて申込めば送る(記念切手なら380円分でよい)
★ピストルペンダント ペンダントは首につけるものです◎これはスゴイ!!黒イブシでホンモノそっくりのテキサスのカウボーイが首につけるいさましさ!!10円切手58枚送ればスグ送る!!(記念切手なら380円分でよい)
★ダリンペンダント◎このダリンは船のカジをあらわしたもので中にとても正確なジシャク付!海や山へ行っても方角がスグわかりとてもべんり!映画俳優も愛用しているので男女とも大流行です!フートーに10円切手58枚入れて申込めば送る(記念切手なら380円分でよい)

 「ペンダントは首につけるものです」という説明が哀れを誘います。
 「まん中のキラキラ光るステンレス」は、結構、キメのフレーズだったようで、下の「俳優ライター」の説明文でも、まったく同じフレーズが出てきます。

★イカリペンダント!!◎海国日本男子のあこがれは海!いさましい海の男マドロスの夢をよぶイカリにドクロ付のすばらしい品!!10円切手58枚で送る(記念切手なら380円分でよい)
★ポケットラジオ!! この最新型新品ラジオはポケットにも入り、落としてもこわれず、ゲルマニュームですから電池もいらず停電でも聞けるステキな豆ラジオです!! ダイナミックなすばらしいムードで流行歌やのどじまんやスポーツニュースなど…あらゆる放送が聞けるポケット型です!10円切手78枚入れて申込めば送る(記念切手なら480円分でよい)
★文化2色万年筆 この文化2色万年筆は1本で青と赤の二とおりに使えますから、これ一本あれば、学校でも会社でもじつにべんりです! ペン先はキラキラ光るすばらしい書き心地で、どんな字のヘタな人でもスラスラと細く美しい字が書けますから皆ビックリします!まったくすばらしい2色万年筆です!! フートーに10円切手68枚入れて申込めばスグ一本お送りします(記念切手なら420円分でよい)
★俳優ライター これはまたじつにすばらしい!ライターのまん中のキラキラ光るステンレスのフタがパッと開き、中に写真を入れてパチンとしまる!あなたの大好きな写真が自由に入れられます!(記念切手なら420円分でよい)フートーに10円切手85枚を入れて申込めば美しい女優写真を一枚入れてスグお送りします(記念切手なら560円分でよい)
★ポケットカメラ!! このポケットカメラは手の中にもポケットにもかくれてしまう特別超小型でいつでもポケットへ入れて持ち歩くことができ、レンズのピントがするどいためどんなケシキも肉眼で見たようにハッキリ写ります!◎野で!山で!海辺で!学校で!お勤め先で!好きな風景人物会合記念写真等パチパチと手早く写せるからとてもべんりです!はじめての方にもスグ写せるくわしい図解入りの説明書がついておりますから受取ったその日からどなたでもスグ使用できる優秀品です!! 10円切手68枚入れて申込めば送る(記念切手なら420円分でよい)

 1960年代には、「海国日本男子のあこがれ」などという時代がかったフレーズが許されていたわけです。
 「ポケットラジオ」の「電池もいらず停電でも聞ける」というのはゲルマニウム・ラジオですから、当然といえば当然としても、「落してもこわれず」というのは絶対にウソだと思います。
 「文化2色万年筆」も、「俳優バックル」「俳優ライター」と同じように「キラキラ光る」がキーワードになっておりますが、「どんな字のヘタな人でもスラスラと細く美しい字が書けます」というのも、やっぱり、ウソではないかと思います。「スラスラと細く」まではいいとして、「美しい字が書けます」というのが本当なら、私も、是非、欲しいものであります。
 「俳優ライター」では、再び、「まん中のキラキラ光るステンレス」がポイントになっているようです。
 さて、私も持っていたポケットカメラは、「レンズのピントがするどいためどんなケシキも肉眼で見たようにハッキリ」写ることが強調されております。そういうポケットカメラを使っていた私の少年時代の経験が、現在の、絶望的にヘタクソな私の写真技術の原点だったのだと、深く悲しんでいるわけです。







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