長谷川和彦×斉藤久志『助監督経験の意義』(3)



斎藤●30歳でデビューするまで、8年間のゴジさんの助監督生活で、一番苦しかった時期っていつなんですか?

長谷川●うーん、撮影中に苦しいと思ったことは無いなあ。いや、苦しいのは苦しいんだが、現場って必ず前に転がってるからね。映画なんて、クランクインすれば9割9分アップするから。やっぱり今村プロ時代の「準備期間中」は苦しかった。「準備」「調査」といったって、実質的には完全な「開店休業」状態でね。仕事がないんだよ。月2万の給料なんかモチロン出ないし。いや、給料はまあイイんだ。俺、麻雀でなんとかしてたし(笑)。今平さんて真面 目な人だからね、それでも「仕事」するんだ。朝、8時出発で、全社員で早稲田図書館に行くだろ。全社員といっても、俺入れて助監督2人、あと今平さんの3人。で、『ええじゃないか』(81)の資料を、コピー取る金を倹約して手書きで写 す。今平さん本人もやるから、ペーペーの俺もやらんわけにいかん。でも「こんなのマスターベーションじゃないか」と思ってたな。『神々〜』で大借金かかえて、とても映画が撮れる状況じゃないのは俺にもわかってたんだ。実際、その後10年間彼は映画撮れないのに、俺なんか永久に撮れるわけがない。やっぱり映画なんてヤメロってことか?」と、暗い気分で新聞の求人欄をながめたりしてた。「でも、大学中退だし……」とか(笑)……ともかく暗くて苦しかった。

斎藤●じゃ、1番楽しかったのは?

長谷川●そりゃもう、ロマンポルノ初期の2年間だな。本当に面 白かった。その後俺は、今村プロから「出向」してダイニチ映配末期の日活に「臨時雇いの助監督」で行ったんだけど。俺の上に立派な正社員の助監督さんが30人もいるんだけど、皆もういい歳でさ、助監督室で10円ポーカーやってばかりで、ロクに仕事なんかしない。いや仕事が無いんだよな、もう。皆もう助監督10年近くやってきたプロだからね。「今さらカチンコ叩けるかい」みたいな。「どうせこの会社も駄 目だし」みたいな顔して、暗いもんだった。「彼らはどうして作家たろうとしないのか?」と生意気に思ったりしたよ。おそらく、あのままじゃ、日活は駄 目だったね。それがロマンポルノになった途端に、月6本の量産に入ってその助監督さん達がみんな撮りだした。いやあ、バカ面 白かったね。昨日まで酔っぱらって、いつもスタッフに殴られてる曾根中生が、驚くべき面 白い映画を撮るわけで。田中登も神代さんだってそうだしね。プロ集団が急に自主映画やったような感じだよ。裸さえありゃ、あとは何してもいい。そうすると、裕次郎と小百合の青春映画みたいなコギレイなものよりは、当然面 白いわけだ。
 その頃は、よその組の0号を自分の仕事さぼってでも見に行くもんだった。「次は自分らも撮るんだぞ」という気分が強かったよ。ロマンポルノだから撮れそうだったんだ。なんせ月6本も作ってるんだから。臨時雇いでも「いつか自分にも順番まわってくるべ」みたいなさ(笑)。
 だから、現場でもそれまで以上に意見も言ってたな。勿論、意見言っても興味持たない監督さんもいるんだ。コンテだって隠す人もいる。こっちは、段取りのために見たいのに……。おそらく「自分1人の世界」で撮りたかったんだろうな。ロマンポルノってスケール小さくて自主映画みたいだから出来ちゃうんだよ、1人で。でもそういう組には、愛着持てなくなる。

斎藤●そこなんだと思うんです。8ミリは個人に入れるんです。極端に言うと、スタッフが誰も理解してなくても、その状態でついてきてくれる。その癖が僕にはちょっとあって、現場で悩みこんで、スタッフを動けなくさせてしまうんです。だから最近一番心がけるのは、どうせ自閉するなら外に向かって自閉しよう、わかんないと思ったら、わかんないってことを現場で言えれば、僕自身も楽になれるし、現場も何がわかんないかってことで動けるじゃないですか。それなのに、結局、どこかプライドが邪魔して……。
 
『フレンチドレッシング』には犬の出るシーンがあるんですけども、現場で犬がいうことを訊いてくれなくて、なかなかうまくいかずにサイズとか動きとかどんどん無理な方向へ進んでいってしまったんです。それでも、意地になって台本通 り撮ろうと粘ってた時、助監督からただ犬を散歩させて歩いてる画を撮りませんか、と提案されたんですよ。でも、これが撮れなきゃ俺はイヤだと思ってましたから、いや、いらんって言っちゃったんですよ。編集の時に粘って撮った画はやっぱり使いモノにならなくて、散歩の画を撮っときゃ良かったと思いましたね。だから、そういう点はわかります。

長谷川●今の斎藤のように、監督は現場でその瞬間は「これしかない」と思ってるんだけど、いざ編集となると「実は違ってた」ってことは多々あるわけでさ。いつもそのシーンが「見えきってる」ばかりじゃないからね。ま、これは能力の問題と、俺みたいに「欲張り」ってこともあるんだろうがノノ。俺はOKを出すのがツライ、下手なほうなんだよ。優柔不断の駄 目な監督だとスタッフが思ってる感じは、現場で自分にも伝わってくる。沈黙やざわざわの中に、監督はいつも何か感じてるわけで、それに負けまいとする自分と、いや、お前はただ意地になってるだけだ、ここは皆の意見を取り入れて、妥協案で行ってみたらどうだと思う自分と、何人かいるわな、自分の中に。助監督が役に立つのはそんな時なんだよ。「どうなんだ、お前ら?」と聞いて3つ4つ意見が出れば、苦し紛れでも「じゃ、こうしよう」と具体は出せる。でも「どうなんだ?」に「はっ?」という奴等ばっかだとさ。「映画の中味考えんのはアンタの仕事で、こっちは雑用やるのが仕事ですわ」というヤツは、やっぱり助監督じゃないよな。

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