
『死に顔を見ていないから、
パキさんも孟さんもオヒゲも
まだ、生きてるんだ』(10)
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「好きな画」を撮ることを貫徹させた 荒井 結局、監督とキャメラマンとしての仕事は無いままか? 長谷川 1回だけCMの仕事で、一緒にニューヨークに行った。電通 に俺のこと嫌いじゃないプロデューサーがいて、「ゴジさん、ポール・ニューマンがレーサーやったり、ボート漕いだりするのを、フォーシーズン分撮るんだよ。ポール・ニューマンは俺、大ファンだったし、ギャラ貰えるんだし、断る理由のない良い仕事だよ。だから、俺だけ喜んじゃいけないなと思って、オヒゲのこと思い出したんだ。キャメラマンは俺が選べることになってたから。少し前に「おまえ何やってんだよ、会社なんか作らないで映画作れ」みたいなことを、言われてたから、オヒゲに。ま、親孝行みたいな気分で声かけたんだ。映画はいつ撮れるかわからんしな。で、一つ条件つけたんだ「オトウサンはきっと嫌がるだろうが、ビデオタップというものを使わせてくれ」と。モニターだな。俺も自分が気に入るかどうかわからんが、貧乏な映画ばかりで使ったことないから、1回試してみたかったんだ。案の定、オヒゲは凄く嫌がったけど「ま、本編じゃないからな。今回だけだぞ」と呑んでくれたよ。 で、ニューヨークの撮影だ。セットでポール・ニューマンがボートを漕いでる。イントレ3段くらい組んで俯瞰にして、こっちがいいかあっちがいいか、もう1段上げるかなんてやってる時に、「ゴジ、ここだよ、決まったよ、上がってこいよ」ってオヒゲがイントレの上から怒鳴るんだ。「わかってるよ、もうちょいキャメラ右に振ろうか」俺はもうずっとモニターで、オヒゲと同じ画を見てるんだから。「そうか、おまえも見てるんだよな」と、もの凄く悲しそうな顔したなあ。オヒゲにとっては初体験なんだよ。ファインダーをさ、監督にそういうふうにコントロールされることなんか。自分が最初に見て、自分が見せてやらないと監督も見れないモノだったわけだよ、何十年も。約束だから文句は言わないけど、本当にガックリしてたなあ。俺も親孝行してんのか、親不孝なのか、わからなくて辛かったよ。でもポール・ニューマンがビデオタップを知らないのには驚いたなあ。監督も何本もやってるヤツなのに。まあ、ハリウッドじゃなくてニューヨーク派だからな。「見ろゴジ、本物の映画人は、そんなモノ使わないんだ」とオヒゲは大喜びだったよ。 荒井 姫田真左久のキャメラマンとしての魅力は何だったのかな? 長谷川 俺にとっては、タマが長い、使用する標準レンズが長い、望遠レンズを標準レンズのように駆使する、これに尽きるな。『赤い殺意』の時なんか、引き尻が無いからって、借りたロケセットの壁ぶち抜いて、道路の向こうから引いたっていうんだからな。これはなかなか出来そうで出来ない。もちろん監督が誰かにもよるが。俺は人間を箱庭のように撮った、短いタマの画は嫌いなんだ。なんだか人間が矮小に見える。小津映画の市井の人間たちが、大きく感じるのは、ローアングルと長いタマのせいだよ。もちろん長いタマを多用するのは、凄く贅沢なことなんだ。日活撮影所でも長タマを貫徹してたのはオヒゲだけじゃないかな。オヒゲは「いや、俺は好きだからな」って言ってたけど、あの「好き」はふつう通
らないんだよ。オヒゲはアーティスト意識の強い人だったから、やっぱり自分が観たいものを撮りたいわけだ。ただ、かなり力がないと、それは通
らない。だから、今平さんを含めて彼が一緒にやった若い監督たちが力を持つことで、彼は力を持ったんだ。それは、出会いの問題でもあるだろうけど、誰と出会わなくてもそうしてだろうな、と感じさせる人だった。根っこからの表現者だったんだろう。ふつう所詮は技術者なんだよ、キャメラマンって。映画の製作状況が悪くなるほど、長タマを使えるキャメラマンは消えていくんだろうな。そういう意味でも、一本はオヒゲと映画作りたかったなあ。 |
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