『一本も撮らなかったけれど、「自分も一緒に映画を
撮れてるような錯覚」はあった。』(10)


キチッと群れきらなかったから
負けたんだと思う

__ディレカン創立のとき、河原畑寧さんが「監督がいくら集まっても駄 目だ」とキネ旬に書いてたけど、パンクした今、群れるという事についてどう思う?

長谷川 負け惜しみに聞こえるかも知れないけど、キチッと群れきらなかったから、負けたんだと思うよ。
 まず、映画そのものが群れて作るものなんだろうよ。真っ当に群れて、皆が近い気分で元気に群れた時は、評論家がどう言おうが、入りがどうであろうが、自分たちの映画が出来てるんだよ。それが俺らが楽しい事なんだ。その楽しい事が必ずしもお金儲けに繋がらないから、乃至はスポンサーを儲けさせないから、謙虚に「俺らが楽しい」としか言いようがないけど。
 でも、もしもそこに、その映画を見る人間の楽しさもドッキング出来たりしたら、それが俺らの至福の場なんだろう。貧乏しても仕方ないかと思って、その群れる楽しさをやるわけじゃないか。

__映画は群れて作るもの、というのは分かるけど、その映画の、現場のトップであり「作家」でもある監督だけが群れるのは、駄 目だ。河原畑さんが言ったのは、そういう意味だと思うけど。

長谷川 勿論、監督というのは特殊なポジションで、群れてる時のガキ大将、リーダーでジャッジ権があるから、映画は監督だけのもののように思われがちだけど、それはその場を成立させるための、単なる約束ごとでさ、多数決でやってもしようがないんだから。そういう意味では、映画を作る現場は、戦後民主主義の過ちを踏襲してない唯一の場所なんだよ。多数決が絶対、というナンセンスな場所じゃないんだよ。

__唯一封建制が残ってる場所?

長谷川 封建制とは思わない。ユートピアなんだよ、照れずに言えば。別 の監督とだって、それをやるんだから。ヒットラーという独裁者がいる時だけ、それをやってるというのが、旧来のカリスマ監督主宰の独立プロだとすれば、それは封建制だろう。俺たちがやろうとした事はそれとは違うと思う。ガキ大将である監督が群れることで、より広くて楽しい遊び場をみつけようとしたんだよ。それは監督だけのための遊び場じゃないんだ。ロマンポルノ初期の日活が良い例じゃないか。偶然のように生まれた、束の間の遊び場だったけど。そこで俺たちは映画をつくらされてたんじゃない。好きで作ってたんだよ。誰それという監督に奉仕してたんでもない。映画を作る側の人間、すなわち映画そのものが主役であるような仕事場、それはイコール遊び場でもあったんだろう。俺らみたいな臨時雇いの助監督にも、それが実感出来たわけじゃないか。俺は今村プロにいた時より、ロマンポルノの日活にいた時の方が数等楽しかったもの。今日は西村昭五郎、明日は藤田敏八と渡り歩きながらだな、自分は面 白いことをしてる、自分も映画と一緒に走ってるという実感はあったよ。

__神代さんも「作る側が勝った幸福な時代」と言ってるけど。今、ゴジが言ったような事を味わってきた、根岸や相米や池田ーー会社、撮影所に対するノスタルジーというか執着を持っているような連中。助監督としては会社を知ってるけど、監督としては会社を楽しんでないというね。それと高橋や井筒のようにピンク出身で会社を知らない連中、また大森、石井、黒沢という自主映画出身の映画会社に対する憧れ、そういうものがないまぜになってスタートした感じがするんだな。その問題は未だにあると思うんだよ。群れきれなかったと言ったけど、群れきれるものなら、まだ可能性はあるのかな。

長谷川 群れ方にマニュアルはないんだろうよ。
 ただ、根っこで群れる気分はあっても、その具体的表現がーー伴明流に言えば「愛社精神」ということになるんだろうがーーそれぞれ模索段階で終わった、という事はあるんだと思う。例えば俺なんかは基本がキッチリ群れていれば、悪く言えば八方破れでアナーキーでも、アナーキーな株式会社だってあるはずだと。そういう意味じゃ、メリエスが株式会社だったのかと今更確認するのは、安全なら良いというものでもなかろうと……

__50万ずつ出しあって株を等分に持つ、ということから始めて、ライターのギャラの2割を納めて維持していたんだけど。だから、リスクを最小限に抑えようと。給料も社長とデスクの女の子だけ。しかし、ライターの連絡事務所のつもりで始めたわけじゃない。しかし映画を作る自己資金はない。
 監督と違ってライターという職業のせいもあるのかな、予算を考えたホンなんか書かないくせに、赤が出ると問題だとなる。ディレカンみたいになったらどうするんだ。みんな赤を背負えるのかと。だから守りなんだな。『私をスキーに連れてって』と『バカヤロー!』のおかげで飲み代ぐらいの配当が出たり、守りの社長山田でなんとかやってきたんだけど、いろいろあって小林(壽夫)が社長になった。小林は攻めなんだ。儲けよう、儲かる会社にしようと。ある映画の撮影中に金がなくなった。青くなって鳩首対策を練ってたら、ずっと黙ってた小林が、意見じゃなくて金が欲しいんだと。みんな黙ってしまった。小林は親からもう1千万出してもらってたんだ。やりたい映画をやって儲けるなんて図々しいことは思わないけど、赤を背負う覚悟なんてもっとないんだよ。現実的に自分が食うのにやっとだしね。でも、スタッフのギャラを払わなくちゃ働いてくれなくなっちゃう、マズイという時に、出せる範囲で出してたよ、みんな。俺は出せなかったけれど。攻めなきゃ駄 目だと思うけれど、リスクが伴うなんてどころじゃなくて、まるまる赤背負うシステムだろ、今。もしヒットしても、資本出してないから、下請けプロには還元されない。

長谷川 他所では企画として通らないものが、自分たちの群れで作れれば、まずは勝ちだと。俺の映画がないから俺は寂しいが、そういう映画はディレカンの前半にメインにあって、後半にもポツポツとはあるわけだよ。その事は良かった事なんだよ。良かったと思わなければしようがない。この程度のつもりじゃなかったけど、という事はあってもだ。イントロのつもりだったが、イントロだと思っていた時期が一番良かったのかという事は、それは時間が経ってみて初めて分かる事でね。
 ここで、このまま潰れなければ、あの頃が最悪の時期であったが、こういうふうに方法論を持ち直して、スタート15年後には第2期黄金時代を迎えて、長谷川もやっと撮れたそうなとかさ。そういう事をこの数年は思いながらやってきたわけだよ。ただ、何より辛いのは、その会社の臨終の場に、俺を含めた監督たちが立ち入る状況すらなかったという事だ。もちろん悪いのは俺たちであり、俺なんだと頭を垂れるしかないんだが……。
 最後まで頑張ったデスクの女の子たちを呼んで、一応お疲れさん会をやったんだ。彼女たちも突然な、4月の末に明日からこなくていいと言われたままでな。失業保険は3ヶ月しかないと言うしさ。そういう時は俺も幹事としてよくやるんだよ。何を餞別 にしようかと。金はたいしてないし……しかし、残るものがいいと思って、割りと豪華なアルバムを買ったんだ。その1頁目に集まった監督、皆で寄せ書きをしようと。伴明が字が綺麗だから、真ん中にお前が書けと。あいつが書いたのは「感謝」だよ。そして「夢はまだ終わっていない」とか書くわけだ。根岸がね「元凶はこいつだと思うが……」と書いて矢印を相米のところにやるとかな(笑)。いろいろやってな。最後には撮影中の大森から届いた花束贈呈をしたり……さよならの潰れる日も楽しかったんだよな。なんで、こうでなかったのかなと思ったよ。日常はそうじゃなかったんだ。俺なんかも、ここ2、3年は行きたくなかったもの、会社に。行きたくないというのは、自分が撮っていないからじゃないんだよ。やってる事がもう違ってたんだ。……うん、やっぱり間違いだったんだよ。監督が作った会社は、監督が輪番ででも社長をやらなければいけなかったんだ。いくらしんどくてもな。本人と喧嘩してでも、宮坂に一人のプロデューサーとしての自由な状況をあげるべきだったんだ。自分たちが選んだ社長を、自分たちで殺すな、と思いながら、結果 一番きつい所へ、宮坂を追いやったんだ。

__この間、ディレカンのパンクの後に大島(渚)さんと話す機会があって、創造社の解散とディレカンのパンクは時代とその形は違うけど、大きな事件だと。ひとつの夢の結末ということでね。映画は徒党だと創造社を見て思ってきて、自分たちが映画をやり始めた時もどこかにそれが残ってて、会社を作ったんだと思う。しかも我々は戦後民主主義の子だから、縦型じゃなくて横型、みんな同列が当たり前の会社をイメージした。それが原因でパンクしたとは思わないけれど、ディレカンのパンクどう思いますかって聞いたら、大島さんが、作った当初は田村(孟)も石堂(淑朗)も、次々に監督をやっていくんだといういうことで始めたんだけど無理なんだ。誰かの為に、というんじゃないと回っていかないんだと。

長谷川 俺はやっぱりそうは思わないんだ。創造社や今村プロの良いところも見てきた上で、それを超える何かをやってやろうと思ってたんだ。結果 、言い出しっぺであった俺が大島さんと真逆になったけどね。もともとの資質もあるんだろうが。

__結果、自分だけ撮ったというのと、自分だけ撮らなかったというのと……。

長谷川 結果として、自分だけ撮らなかったのを卑下もしないし、美化も出来ないが……どっちかというと本人が一番辛いわな。辛いが、それは人を責められないというのがあるよ。
 俺はプロデューサーに愛されないからな。俺も半端なプロデューサーなんか要らないと思ってるから。金のリスクを負ってないんなら、あなたは何をしてるんですかと、つい思っちゃう。悪いけど俺はこのネタを見つけて、脚本書いて役者つかまえてスタッフを編成して、俺にないのは金だけなんだよと思うじゃないか。

__一番プロデューサーの言って欲しくない事を言うんだよな。

長谷川 思っていて言わないのは失礼だからね。いざという時にリスクを負ってくれないんじゃしようがない。それでディレカンを作ったわけだ。俺ひとりじゃ無理だが、俺たちがリスクを負おうと。それで潰して人に迷惑かけてたら、何もないんだよな。

__今日、言ってたじゃないか、人が死ぬたび撮らなければいけないと思うと。まして今日はデビュー作の原作者である中上(健次)の告別 式の日……最後はそれで纏めよう。

長谷川 いや、長谷川個人の問題に回帰出来る事じゃないんだ、この総括は。俺の事をどうこう言って済むんなら話は簡単だよ。しかも、これは金が絡んでいるからな

__そうだよな。

長谷川 現像所とか撮影所とかメジャーな所の借金というのは、まだな……ここは誰か個人が首を吊らなければという事ではないからな。だけど個人のスタッフは、額は100万でも「冗談じゃない」だよな。うちの経理の子なんか、最後に何が辛かったかというと、そういうスタッフから電話があるじゃないか。経理の子が電話で謝るわけだ。と、やはり3人にひとりくらいは「だけどおまえらは給料をもらってるんだろ。俺らも仕事したのにもらってないんだよ。もう半年前のギャラのことだぞ」と。電話してくるスタッフもきついだろうが、それに耐えるのも大変だよ。うちの子だって、そんなたいした給料をもらってるわけでもないんだしな。それを言われてなおかつ「すいません」をやっていくのは……な。最後の2人はよく逃げずに最後までやってくれたよ。
 結局、個人でしかないものが、夢ふくらませて集合体を持ったりしたのが傲慢だったのかねぇ。
 いや、こうやって詠嘆してるだけじゃ、世間に対するキチンとした総括になんかなってないのは分かってるんだ。ただ、正直なとこ、宮坂が全ての負債状況を自分の中に抱え込んだまま、雲隠れしてる現在、詠嘆以上に何が出来るかって事もあるんだ。あいつの、頑張り屋故の秘密主義は、残念ながら未だに健在なんだよ。それだけ、俺たちを当てに出来ないやつらだと思ってるのかも知らんが。

__そうかなあ?

長谷川 総括、総括言いながら、ずーっとこんな話してると、連合赤軍を思い出したよ。俺たちも同志殺しこそしなかったが、事故とはいえ『東方見聞録』じゃ人も死んだしな。一体、俺自身は誰なんだろうと。自己批判して獄中で首を吊った、森恒夫なのか。アラブへ飛んだ坂東国男なのか。獄中歌人してる坂口弘なのか。脳腫瘍で苦しんでいる永田洋子なのか。
 ……キツイなあ、人が群れて走って敗北すると。
 しかしな、俺らは革命なんて立派な事してるんじゃないんだから。たかが映画なんかを作りたいんだから。監督は群れても仕方ないと言うが、やっぱり活動屋は群れてナンボのもんなんだよ。そのことを体感してるんだよ、俺らは。ただ群れればいいとは言わない。ベストに群れた時に、一人でものをしてる奴より面 白いことをしてるという事なんだよ。頭がポッとなって、人と群れて走った時ってガキの頃からあるじゃないか。
 でも、そうやって作ったディレカンが……負けたんだよなあ。

__ともかく……映画撮らなくちゃ、ゴジ。

長谷川 ああ。

__飲みに行こう、もう。

長谷川 よーし。死ぬほど飲んでやる。

__暴れるなよなあ。

長谷川 大丈夫だよ。今日は……静かに泣くよ。


「映画芸術」バックナンバーのお知らせ
ご希望の方は

160-0004
東京都新宿区四谷4の30黒坂ビル3F
(有)編集プロダクション映芸「映画芸術」BN係

まで、ナンバー・冊数・住所・氏名・電話番号を明記して、代金・送料を同封の上、必ず現金書留もしくは「映画芸術」綴じ込みの払込取扱票でお申し込み下さい。送料は1冊・210円、2冊・340円、3冊以上は無料。定価はずべて税込み。その他のバックナンバーについては最新の「映芸」をご覧下さい。

prev.


TOP更新履歴・新規掲載ゴジ・ビブリオグラフィー/転載にあたって/リンク掲示板スタッフについて
管理者e-mail : fantaland@mac.com