対談 長谷川和彦VS相米慎二

東宝映画『翔んだカップル』をめぐる
うるさいおとなたちの映像美学




(4)結局、一作目で開花した相米演出のポリシーは何処にあるか

長谷川 最後のあたりの"モグラたたき"な、あれは感動的だよ、この間二回目みて、二回目の方が泣けた。一回目は余計なこと思ってみてたのかも知れない。いろいろ類推させられてな。ついに撮ったなという感慨もあったし。

相米 あのシーンは俺も依怙地になって残してるんだけど。

長谷川 そうだろう。文句あったらああいうふうに撮ってみろってんだ(俺が威張ることないか)。あれは、やはり日本の伝統的な悪しきメロドラマのスタイルを完全に捨ててる。悪しきメロドラマのスタイルというのは寄るんだよ、泣く人間に。だけど、相米のは、泣く人間に寄らずに、寄るよりも実は大きくみせるという、正に映画だよ、あれこそ。

相米 ツー・カットしかないからな、むこうむきと、こっちむきと。

長谷川 あれも充分やばい撮り方なんだよ。泣かせるにはどうしたってアップで撮る、田代も中山も、杉村さんも圭も泣いていると、それがベテランのプロだってぼろぽろやるチープテクニックなんだよ。それをなんだ、あれは。わずかツーカットで、ひいて撮って、あこぎなせりふを言うわけでもなく、あこぎな芝居をするわけでもない。そういう表現の冒険をしながら、自分の出したいあるシーン、あるシークェンスの気分なり意味なりを出しているのは、そりゃあ、あんた、これを新人というのよ。最近の学生あがりのおにいちゃんたちが可愛くないのはだな、五社映画のいただきやるだろう、マネをやるんだよな。固有名詞で言うと大森一樹しかり石井聰亙もしかりだよ。例えば石井のこんどの『サンダーロード狂い咲き』みると、五社映画のまねをして東映大泉撮影所で撮るわけよ。前半はいいんだよ。“何とか砦”って出ると、実物のガスタンクだったり実物の廃屋撮ってるから力あるんだけど、いざ“サンダーロード”ってジャジャーンってスーパー付きで出るのは、あの大泉の、せこい、もうちょいタッパもふつうに作ったらどうだっていうぐらいのな、セットなんだよ、冗談にもならないぜ(笑)。映画の中で一番嘘な部分が一番嘘な所で撮っちゃっている。それは火器を使わなきゃならないとかいろいろ制約があったんだと思うよ。だけど、それ以前のシーンの撮り方が出来た人間なら、ケツも川崎のガスタンク、原っぱで撮りゃあいいんだよ。ひきだけど、ながたまでつめりゃいいんだから。そういう仕掛けはあいつら俺よりよく知ってんだからな。それをやらずに大泉で撮っちゃったっていうのは、一つは具体的に方法がなかったとして、一つには憧れがあるんだよ、撮影所に。まねを悪いとはいわないよ。だけど本質的なところでは百パーセント違うんだと思って撮らないとしようがないだろ。それに石井のホンはひどいんだよ。考え直せって言ったんだけど、あいつはホンのひどさを撮影現場の空気で乗り越えたんだな。少なくとも前半三分の二はホンの荒さがみえないんだよ、要は何言っているのか分らないんだ(笑)。ドキュメンタリーみたいなもんで、スターがいないし絵も何かワーッとロックで走っとるなってなもんで。ところが、“サンダーロード”へ行くと何かつじつまが合ってくるんだ、話の。こうこう、こういう人物がいてある人物と葛藤があって、最後はこうやってやり合っとるんだというやくざ映画のパターンな。それが好きだっていうのは分るけど、俺としてはオールロケで貫徹して欲しかったと思うわけ。だけど、石井の映画、俺はマルよ。大森は今度が勝負スよ。大森も今度だめならホントだめなんだな、あいつは。この間ホン読んで、(俺は感想屋だな、全く、はやく自分の映画、撮りたいよ。)ホンの限りではダメだって言ったんだ、お前どうしてこんなに馬鹿なんだ、『アメリカン・グラフティ』のまねをしやがって、いまごろ何が恋しゅうて医学生グラフティかってさ。“そういわれれぱ、そうでまんなァ”とか言いやがる。オノレに恥はないのか!
 わしはくやしかったよ。学生で、これから前途有為なる人たちがだな、何で、撮影所映画のまねをな、こしゃくなまねをするのかというのがひじょうにくやしいわけ。撮影所育ちの、臨時雇いといっても撮影所育ちだわな、その俺らが、得たものは得たものとして、しょんべんぐらいかけたるぜと思ってやってるのにさ。東宝映画で相米慎二の作ったような青春映画が一本でもあったら言ってごらん!(かなり興奮)ところでお前、東宝の評判聞いたか?

相米 たぶん、よくないだろうな。

長谷川 東宝は『奥様は18歳』みたいなもの期待しているわけだ。その手の、わかり易い、小屋出たら忘れちゃう軽い映画あるでしょう。俺は、軽いのも好きだよ。テレビもだいたいそれやってくれるんだよな。だけどな、やっぱり映画しかできないものっていうのは、軽かろうが重かろうが、映画館出て角の横町曲がるまでは残るんだよ。残るものをお前は撮っちゃたからね。勇介のファイティングシーンなんか胸痛くなるしな。ケツの盛り上げ方なんてものはかなり壮厳なものだからなあ。

相米 ガキん子映画ったって色っぽい話なんですよ。四人の高校一年生たちの性と愛の物語だからね。四人のそれぞれの恋愛関係が入り乱れてね、セックスするかしないかの瀬戸際の話ですからね。原作のマンガもかなり情感過多だけど、映画は生身の人間がやるんだから、もっとなまなましくいきたいと思って撮ったんですけどね。

長谷川 子供版スワッピングだな、あれは。ひょっとしてロマンポルノの世界ですな。

(一九八〇年五月十一日新宿二丁目にて)


< prev.

 


TOP更新履歴・新規掲載ゴジ・ビブリオグラフィー/転載にあたって/リンク掲示板スタッフについて
管理者e-mail : fantaland@mac.com