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 4.2001年5月 イタリア総選挙ポスター(現地撮影)

  今回の総選挙はイタリア国内でも、日本のイタリア研究者の間でも中道・右派が勝つだろう
  といわれていました。もともと96年の総選挙も比例区でフォルツァ・イタリアが第1党だっ
  たように、特殊な選挙制度の影響もあり中道・左派「オリーヴの木」が辛うじて競り勝った
  というのが実状です。中道・左派政権は国民に犠牲を求めながらユーロ参加などかなり成果
  を挙げたと思われるのですが、連立内部の小政党が自らの存在を際だたせるためとも思える
  ようなつまらないミニ抗争を度々起こし、せっかく5年の任期を全うしたのに4つの内閣が
  でき印象を悪くしました。また、中核となる左翼民主党(PDS)はより広範な左翼勢力の
  連合を目指し「左翼民主主義者(DS)」と改称しましたが、党員数は増えず、伝統ある機
  関紙「ウニタ」も経営難で一時休刊するなど足下の組織がガタガタでした。
  私は99年の欧州議会選挙・統一地方選挙のときもイタリアにいましたが、比例区を廃止する
  制度改革の国民投票は賛成多数ながら有効投票率50%を割り不成立、欧州議会選挙ではこの
  国民投票に熱心だったDSも国民同盟も後退し、プローディが創設した「民主主義者」とE
  U委員として成功したボニーノ(急進党)のリストがそれぞれ7議席を獲得するという既存
  政党への飽きのなかで、フォルツァ・イタリアが制度改革の議論にコミットしすぎず、盛り
  返していました。同時期の地方選で中道左派が若い女性候補を立て、全国商業会長を立てた
  中道右派に負けたボローニャ市長選も、全国一の左派の牙城を失ったというより、中道左派
  の政策の内容の薄さに衝撃を受けました。結局、政策での相違が少なくベルルスコーニ個人
  の是非が争われた今回の選挙戦は中道・左派が個人批判を強めるだけ逆効果になったという
  印象です。
  
        総選挙結果(下院) 総選挙結果(上院) ベルルスコーニ内閣名簿
  
 ベルルスコーニ陣営はやはり資金が潤沢。このようなトレーラーはもちろん、ここにある
 「決定的な選択」というスローガンを書いた横断幕を引っ張るセスナも飛ばしていました。
 どう見ても小さくしか見えなかったのですが、効果はあったのだろうか。お金持ちの印象
 を薄めるためか、遊説ではセーターを愛用していました。ベルルスコーニは気前よく、
 どの家庭にも月100万リラ(約7万円)の年金を!といっていましたが、早くから左派支
 持者にもアピールする年金を取り上げていたことは事実です。
   
 (左)ベルルスコーニの「フォルツァ・イタリア」と連立を組む国民同盟のポスターで、
 「中道左派の『貧しさ』に反対、年金の価値を守りましょう」
 
 (右)今回、中道・右派の「自由の家」に参加した北部同盟は、連邦主義がイタリア政界全体
  に浸透した結果、争点として移民問題を強調するようになりました。よく日本では国民同盟
  が旧ファシストの流れを汲む「極右」だとして警戒されますが、現在の国民同盟はかなり
  保守政党化しており、北部同盟のようにあからさまな言辞は用いません。

   
  ルテッリの政策アピールのシリーズものポスター。24枚目のようですが、面白みや強さは
  感じられません。右はルテッリに代わりローマ市長選に立候補したヴェルトローニ「左翼
  民主主義者(DS)」書記長。機関紙「ウニタ」編集長時代、映画評論など文化的な場面
  で有名になった人ですが、プローディのもとでの「オリーヴ」政権副首相時代に比べ、党
  書記長になってから生彩を欠きます。国政選挙での敗北を取り返す形で地方選挙では彼を
  含め中道左派が勝ちましたが、ローマを「生活するにたる、より美しく、よりシンプルな
  街」にできるかどうか。また彼が国政から去った後のDSはどうなるのか、不安は多い。


     
  左はプローディ現EU委員長と今回の総選挙で中道・左派「オリーヴの木」首相候補として
  闘ったルテッリ前ローマ市長らが作った「民主主義者」(党章は米民主党と同じ「ロバ」)
  のポスター。オリーブ内の自由主義・中道勢力のグループ「マルゲリータ(マーガレット)」
  のマークがついている。
  中央は「民主主義者」同様、マルゲリータの構成政党「イタリア刷新」のポスター。首相、
  外相、国庫相(日本の財務相に相当)を歴任したエリート、ディーニ前外相の政党。
  文字は「我々はイタリアを改善しました。そしてさらに改善します」
  右はイタリア共産主義者党のポスターは分かる人には分かるちょっとした工夫がある。
  「今回はPdCI(イタリア共産主義者党)に投票するわ」前身のPCI(イタリア共産党)
  と見間違えるほどdの字が小さい。旧共産党系の3党のうち、党のシンボルマークが最も旧
  共産党に似ているのがこの党。ただし、実際は中道・左派を抜け出した「再建共産党」より
  も柔軟で「オリーヴの木」に留まっている。


   
  イタリアは左翼の方が文化的なのですが、著名な漫画家アルタンも一肌脱いでいます。
  「もし我々が負けてしまったら、彼らが勝ってしまうということさ。」
  「ベルルスコーニに反対する唯一の有効な票はオリーヴへの投票です」
  「多数の人々のイタリアに。少数の人々のでなく」
  結果論ですが、こうしたネガティヴな表現に逆に中道・左派の苦境が表れているような気
  がします。
  右は、中道・左派、中道・右派のどちらにも属さない第3極を目指して今回初めて選挙に
  参加した新党「ヨーロッパ民主党」の候補者のポスター。「政治は中道に。投票に戻って
  下さい」。旧キリスト教民主党(DC)は93年の解党後、四分五裂し中道・左派でも中道・
  右派でもそれぞれ複数の政党に分かれています。「ヨーロッパ民主党」は、旧DCの長老
  アンドレオッティ元首相やカトリック系労組組織CISL前書記長のダントーニが作った
  ものですが、結果は下院比例区で議席を獲得する4%の得票率には遠く及ばず惨敗。今後
  中道勢力をまとめるものとして期待されるのは、今回「オリーヴ」内部で旧DC系を中心
  に4政党が作った統一リスト「マルゲリータ」の方でしょう。


(付記)ポスターの撮影について
  ポスターにも著作権があり、特に商業的なポスターについては注意が必要です。しかし、通常
  政治家など公人には肖像権が主張されることはまれで、風刺漫画を見てもそれはわかります。
  政治ポスターは実際にメディアでどんどん紹介されているし、政党の側にもそれを禁じること
  はないでしょう。もっともイタリアの政党は日本人に対して説明責任も何も負っていませんが、
  このような遠い異国の個人的サイトで紹介しても特に問題が生じるとも思えません。イメージ
  重視の時代、その政党のセンスが感じられるポスターはやはり理解の一助になるはずです。


  総選挙結果(下院) 総選挙結果(上院) ベルルスコーニ内閣名簿

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