「鞍馬」 闇と光の恐るべき霊地 (京都) .

鞍馬山から遥か西、比叡山を望む。
京の都を邪気から守るために、かつてこの山々は「結界」を形作っていた…

恐るべき霊地…

一度だけこの地に足を運んだことがありました。
真夏なのに風が吹くと一瞬ひやっとするほど、涼しげな場所、鞍馬…

鞍馬は本当に尋常な霊地ではありません。
かつてこの地には、都にたびたび大洪水を引き起こした鴨川の水を一手に支配する恐るべき神「タカオカミ」が棲む場所でもありました。そばには「丑の刻参り」で有名な、あの「貴船神社」が。そして「僧正ヶ谷」ではたびたび天狗が出没する…
平安京の北に位置し、比叡山から鞍馬を結ぶ北山の稜線は、北から押し寄せてくる邪気を防ぐ「結界」を形作っていたのでした。比叡山に延暦寺、鞍馬に鞍馬寺が建立されたのも平安京を守るため、つまり国家鎮護のためでもありました。
平安京の人々が畏怖する山、それが鞍馬山なのです。
「鞍馬」と呼ばれた本義も謎のまま。
藤原伊勢人(いせと)が夢に出てきた貴船の神のお告げ通り、京の北にある霊地に向かい鞍を置いた白馬に導かれて探し当てたため、「鞍馬」と呼ばれた説。暗くそして魑魅魍魎がうごめくかのような、畏怖されたイメージから「暗魔(くらま)」と呼ばれた説等々…
本当に謎が多く、恐るべき霊地「鞍馬」。


光の本尊「毘沙門天」

この地にある鞍馬寺の本尊は「毘沙門天」。
北方の守り神で、勇ましい姿をしている。古代インド「ラーマーヤナ」という叙事詩では、毘沙門天は神々の王である梵天から北方世界の守護神に任ぜられているとともに、財宝の主として「プシュバカ」という天車を与えられている。中国から伝わる「七福神」では財宝の神として有名です。
そして我が国では、財宝の主以外に戦いにご利益がある「戦勝神」として、坂上田村麻呂が帰依したり、聖徳太子が物部氏との戦いで信貴山に詣で、毘沙門天を感得し、自らその像を彫って安置したことは有名な話。
つまり光明世界の支配者(鞍馬寺では「大光明」あるいは「尊天」と呼んでいる)と言えるのではないだろうか…
それをもっともよく表しているのが、私は本尊である秘仏の「毘沙門天立像」ではなく、霊宝殿に安置されている「兜跋毘沙門天」ではないだろうかと思う。
彼の足もとには「尼藍婆(にらんば)」「毘藍婆(びらんば)」という二鬼を従えた天女に足を支えられている。
彼は邪気を退けるだけではなく、この世の魑魅魍魎や悪鬼な者全てを光の世界に引きずり出し、そしてたいらげ、その力を我がものにして人間界を守ろうとしている。そのように思えてなりません…


闇の本尊「魔王尊」

現在の鞍馬寺には、もう一つ本尊といえる存在がある。それが「魔王尊」。
奥の院、牛若丸が天狗たちとともに修行したと言われる僧正ヶ谷にある「不動堂」。そして最奥にある「魔王殿」。
深夜、一人あるいは徒党を組んで参籠する人々がいるという。彼らは堂内に蝋燭を灯し、読経し、宗教的陶酔に身を任せ、祈り続けるという。いわゆる「魔王信仰」である。
あるものは「魔王」をわが身に降臨させて「われは魔王なるぞ」と叫び、信者の悩みに答えようとする。あるものはただひたすら闇の中で修行に励み、「魔王」の力を我がものとしようとしている…思い思いのスタイルで魔王信仰が繰り広げられる深夜の鞍馬山。
鞍馬寺は本来、真言宗でありましたが中世に天台宗に改められ、戦後に独立して「鞍馬弘教」を設立。一気に「オカルト色」を高めて、いわゆる「精神世界系」の人々を強烈に引き寄せてきたといわれています。
「魔王尊」は鞍馬寺によると、なんと650万年前(!)に金星から地球に降り立った神で、「地球の霊王」、「護法魔王尊」であるという。そして「天狗」はその魔王の使者であるという…(すごいスケール感!)
この「魔王殿」の周りにはあちこちで貝の化石が見つかるという。つまり以前ここが海であったことを物語っているのですが、これはいわゆる大地の神である「魔王」が海底を隆起させて、ここに自分を祭る(あるいは人間に自分を祀らせる)霊地を作ったのかとさえ思わせる鞍馬の地です…


光の信仰・闇の信仰

したがって現在の鞍馬寺は光の信仰と闇の信仰、この二つの信仰によって成り立っていると言っていいと思います。

光あってこそ闇は深くなり、闇があってこそ光がますます明るくなる…

まさに四六時中、霊的パワーに満ちている恐るべき霊地「鞍馬」。

私はかつて一度だけ足を運んだことがありますがそれは「霊宝館」までで、奥の院までは行ったことがありません。

だから一度奥の院に立って、大地の中から湧き出てくる言われるパワー、すなわち牛若丸が魔王から授かったという「霊的パワー」というものを感じてみたい…


「鞍馬」、再び行ってみたい。

「丑の刻参り」で有名な貴船神社。
夕暮れ以降に一人では恐くて行けません…

重文の「兜跋毘沙門天像」。
二鬼を従え、邪気を退ける。怒らせると本当に怖いお方。

奥の院「魔王殿」。
深夜には修行者が集まるという。魔王の力を我がものとしようとしているのか…まさに「現代の牛若丸」と言えなくもなくもない…

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※ここに掲載する写真はパンフレットや雑誌等からスキャンしたものです。まずかったら訴えずにまずご一報を。                                

鞍馬山に広がる欝蒼とした森。
夜になると「真の闇」が待ち構えている…




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