サブリナの休日トップページミニシアター3/ミニシアター1/ミニシアター2

『once ダブリンの街角で』
【感想】 ★★★★ H22.2.14

once ダブリンの街角で アメリカで公開時わずか2館での上映が、その後口コミで話題となり最終的には140館にまで拡大し、大ヒットとなった話題の『once ダブリンの街角で』を観る。第80回のアカデミー賞歌曲賞(Falling Slowly)をはじめ、世界の各映画賞を受賞し、評論家も絶賛の作品だったので、これは見ておかないと。

 ダブリンの街角、使い込んで穴の開いてしまったギターを弾き鳴らし歌っている男。道行く人達が通り過ぎていく中、一人の女性が男の前に立ち、話しかける。「それはあなたのオリジナルの曲?」

 実際にバンドで活躍している主人公のグレン・ハンサードと、シンガーソングライターのマルケタ・イルグロヴァ二人の、ただ話をしているという何気ないシーンがとても自然で、遠くからハンディカメラで映し出される映像のドキュメントっぽさと共に、ほんとに偶然街角で出会った二人が、音楽によってプラトニックな愛を育んでいくという姿を、そばで見てるっていう感覚に。さらにどちらも本当のミュージシャンなので当たり前なんだけど、次第に曲が出来上がっていく過程がリアルで、まるで曲が生まれる瞬間に立ち会ってるような快感が生まれる。そして音楽によって、二人の止まっていた時間が動き出していく感じが、実に心地いい。

 タイトルの“once”を人生でたった一度の出会い・・・みたいな解釈をコピーでも使っているが、ほんとはそういう意味の“once”じゃないと、グレン・ハンサードが特典映像で語っていた。当初の脚本に一度だけキスをするという設定があり、それがタイトルに残っただけで、実際にタイトルにこめられた意味は、「一度(once)デモテープを作ったら恋人を取り戻そう」とかの、何かを先延ばしにするという意味とのこと。なるほど、この映画は主人公が希望を胸にロンドンに旅立つきっかけとなった、街角での何気ない出会いを、音楽にのせて描いた物語。人生でたった一度の特別な出会いって構えて見るより、どこか街角の片隅で、どこにでもある出会いとして見るほうが、この映画の雰囲気にあってるし、その方がなにか身近に感じられて、かえってロマンチックかな。人は誰でも自分の才能が認められることを渇望し、認めてくれる人との出会いに感謝する。そんな二人の出会いはまさに必然的であり、思わず自分の過去の出会いに想いを馳せずにはいられず、その想いを共有することの喜びにいつしか浸っていた。


 この映画は、約半分以上を占めるグレン・ハンサードの歌が、気に入るか気に入らないかがすべて。実は私は最初に見たとき、残念ながらあのシャウトはあまり心に響かなかったので、「ああ〜、凄い評判の作品と聞いてたけど、そうでもないなあ」なんて思ってしまった。その後iTuneで最初に楽器店で初めてセッションした歌と、最後のスタジオで歌った歌を発見して、聞いてみるとこれが実に良くて、すぐにダウンロードしてしまった。そして約1年ぶりにこの映画を見たら、自分でも驚くくらいまったく印象が変わってた。オープニングのストリートライブの歌から、すべてが熱く胸に響いてきた。あれから何度も曲を聞く内に、彼の歌が好きになってたんだろうな。そうなれば、もうこっちのもの(笑)。言い換えれば見れば見るほど、好きになっていくという映画なんだろうなあ、この映画は。

▼公式サイト:映画『once ダブリンの街角で』公式サイト