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『ロスト・イン・トランスレーション』
【感想】 ★★★★☆ H21.10.12

ロスト・イン・トランスレーション ソフィア・コッポラの監督第2作目で、アカデミー賞最優秀脚本賞やゴールデンフローブ賞ほか、数々の映画賞を受賞した『ロスト・イン・トランスレーション』を観る。

 ウイスキーのCM撮影のために東京へやってきたハリウッドスターのボブ(ビル・マーレイ)。宿泊するホテルへ向かうタクシーの中から見える、見慣れぬ景色に不安を募らせていた。言葉も通じず戸惑いながらもCM撮影の仕事をこなすボブだったが、ホテルへ戻ると一人孤独を感じていた。一方夫の仕事に同行して、同じホテルに宿泊していた若妻のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は、仕事に追われる夫にかまって貰えず、言い知れぬ不安と孤独を感じ、眠れぬ夜を過ごしていた・・・。

 何も起こらない退屈な脚本と批判する声もあるようだけど、「バージン・スーサイズ」でもみせた透明感に溢れた映像に、東京の喧騒の真っ只中にありながら、どこか夢の中にいるような静かな空間は、見る者に不思議な安らぎを感じさせる。そしてセリフを極力廃し、まるで心で会話しているような陶酔感は、まさしくソフィア・コッポラの真骨頂であり、私の大好きな作品なのだ。
キャスティングについても、見る前は一見ミスマッチのような組み合わせの二人だったけど、異国で孤独と閉塞感を抱えた二人に共感しながら、少しづつ交わされるほのかな愛の行くへを見ている間の心地よさは、ソフィアが強く出演を希望したビル・マーレイのスマートな立ち居振る舞いであり、スカーレット・ヨハンソンの透き通るようなまなざしという、主役二人の貢献度が大きい。

私の好きなシーンは、二人がベッドに並んで横たわり語り合うシーン。シャーロットがつま先だけをボブに当てると、そのつま先をボブが優しくなでている。それ以上は超えられない二人の心の葛藤が、心に迫ってくるなんとも切ないシーン。
それからやっぱりラストシーン。 ラストで二人が交わす聞き取れない言葉、これこそがタイトルである“トランスレーション”であり、観ている人それぞれが感じるままに翻訳してくださいという、ソフィア・コッポラからの最後のメッセージだったんでしょうね。とっても素敵なラストシーンだった。私はこの聞き取れなかった言葉は、たぶん愛を告白するような言葉じゃなかったように思う。例えば「向こうへ帰ったら、今度は二人で家においで。ディナーに招待するよ、いいね」なんてね。結構いい感じでしょ(^^)
しかしこのたまらなく切ないラスト、激しく私の大好きな「ローマの休日」を連想させます。

 あとこのDVDの特典がとっても充実してた。特に東京ロケのドキュメント・メイキングは、さらにこの作品を好きにさせてくれた。ビル・マーレイのお気に入りの日本語も必見です。その特典映像の中でプロデューサーがこの作品のテーマは「関係」であり、「短い期間での関係も記憶となって、ずっと心に残り続けるものだ」というコメントがある。本作を見ているときに感じるなにか懐かしい感情は、見ている人達それぞれが、遠い記憶の中に残っているいろんな出逢と別れに想いをはせてしまうところにもあるんじゃないかなあ。素敵な作品でした。