化粧品・小物容器
ピュクシス / Pyxis / ΠΥΞΙΣ

蓋を伴った箱形の容器で、宝飾品や化粧品などを入れるのに用いられた。ピュクシスという名称はローマ時代の箱形の容器に用いられていたもので、古典時代にこの名前で呼ばれていたという証拠はない。

ピュクシスは黒像式の初期から見られ、側面が内湾した底の深いA型と呼ばれるものと、底が浅く、三つの脚が付いた三脚型が見られる。前者は赤像式でも盛んに製作されたが、後者は赤像式の例は見られない。六世紀の後半を過ぎるとニコステネス式と呼ばれるやや大型で逆三角形に近い形式を持つものが現れるが、六世紀の末までには姿を消し、赤像式の例は僅かである。胴部が円筒形で平坦な蓋が胴部の内側に入る形のものはB型と呼ばれ、黒像式で描かれたほか、赤像式でも五世紀の中頃に製作された。B型に近いがドーム型の蓋を持つのがC型で、五世紀の中頃の赤像式に限られている。また円筒形だが小型で蓋が胴部にかぶさる形式のものはD型と呼ばれ、黒像式には見られないが、赤像式では六世紀末から五世紀にかけて製作された。  装飾は器形によって異なる。三脚式はそれぞれの脚の部分にパネル状の画面を持つことが多く、A型、B型、C型、ニコステネス式はフリーズ状の画面が多い。D型は蓋のみに装飾されることが多く、B型も蓋に画面を持つことが多い。

大きさ:幅およそ20−30cm前後。

ピュクシス(三脚型) / Tripod Pyxis

ピュクシスのうち、底の浅い椀型の胴部に三つの脚が付いたもので、つまみの付いた蓋を持つ。

黒像式の初期から存在するが五世紀には生産されず、赤像式の例も存在しない。画面はそれぞれの脚部にパネル状に配置され、蓋にも簡単な像が描かれることが多い。
Cf. Tripod pyxis in Erlangen (Antikensammlung Erlangen Internet Archive)

大きさ:10cm前後。

ピュクシス(ニコステネス式) / Nikosthenic Pyxis

ピュクシスのうち、やや大型で逆三角形に近い形式を持ち、裾の広がる脚部とつまみの付いた蓋を持つものがニコステネス式ピュクシスで、陶工ニコステネスによって製作されたことからこの名前が付けられた。

六世紀の半ばをすぎてから製作されたこのピュクシスは黒像式によって描かれているがその数は少なく、赤像式の例はさらに少ない。ニコステネスの工房以外では生産されなかったのか、五世紀にはいると姿を消してしまった。装飾は胴部の幅の広い画面にフリーズ状に描かれることが多く、蓋の部分にもフリーズ状の画面を持つことがある。

大きさ:20cm前後。

ピュクシス(A型) / Pyxis type A

ピュクシスのうち、側面が内湾した底の深いもので、つまみの付いた蓋を持ち、脚部はいくつかに分かれていることが多い。

既に黒像式の初期に現れ、赤像式でも五世紀の後半近くまで生産され、五世紀半ばには白地の例も見られる。画面は胴部にフリーズ状に配置されることが多く、その上部や蓋の部分にパルメットなどの文様が描かれることが多い。細かな形式は年代だけでなく工房によっても異なるが、後の時代のものほど装飾的で、特に脚部やつまみの部分が長くなる傾向が見られる。
Cf. toledo1963.29 (Perseus Project)

大きさ:10−15cm前後。

ピュクシス(B型) / Pyxis type B

ピュクシスのうち、蓋と本体がほぼ同じ高さの円筒形で、本体に蓋が覆いかぶさる形式のものはB型と呼ばれ、黒像式で描かれたものも存在するがいずれも似通った装飾を持つもので、同じ工房で製作されたものである。赤像式では五世紀の中頃を中心に製作されたが、それ以降はほとんど姿を消してしまった。

画面は胴部にフリーズ状に描かれるほか、蓋の上面にも円形の画面を持ち、女性の頭部などが描かれた。
Cf. Pyxis from Athens (Youth Concern).

大きさ:5−10cm前後。

ピュクシス(C型) / Pyxis type C

ピュクシスのうち、浅くやや内湾する胴部を持ち、ドーム型の蓋を持つのがC型で、蓋のつまみは粘土でできたものもあるが、青銅製のリングが取り付けられたものが多い。  黒像式の例は存在せず、赤像式でも五世紀の中頃に限られている。またまれには白地の例も存在する。

胴部の幅が狭いため像が描かれることはほとんどなく、ローレルやパルメットなどの植物文が描かれることが多い。像が描かれるのは蓋の上面であり、フリーズ状の画面を持つが、植物文のみのものも数多く存在している。
Cf. Missisipi 1977.3.243 (Perseus Project).

大きさ:5−10cm前後。

ピュクシス(D型) / Pyxis type D

ピュクシスのうち、胴部は円筒形だが蓋は薄く、胴部にかぶさる形式のものはD型と呼ばれ、黒像式には見られないが、赤像式では六世紀末から五世紀にかけて製作された。

胴部に装飾されることは少なく、蓋の上面に配置された円形の画面に人物の頭部が描かれたものが多い。
Cf. Melbourne 1929.0006 (Melbourne Univ.).

大きさ:5−10cm前後。

レカニス / Lekanis / ΛΕΚΑΝΙΣ

浅い鉢型の胴部に水平の大きな把手がつき、つまみの付いた蓋を持つ。その用途についてはまだ明らかになっていない点が多いが、婚礼の場面の中に描かれることが多く、ピュクシスのように小物入れとして用いられたとも考えられる。レカネという名称が浅い鉢状の容器全般に用いられていたのに対し、レカニスは特定の目的に用いられた容器を表したようで、この形式の陶器がレカニスと呼ばれていた可能性は高い。

既に黒像式の初期から存在し、赤像式でも導入されてその末期まで存在していたが、黒像式では六世紀前半、赤像式では五世紀の後半に盛んに製作された。画面は黒像式では胴部にフリーズ状に配置されることが多いが、赤像式では胴部は装飾のみで、画面は蓋の部分にフリーズ状に配置されることが多かった。
Cf. Missisipi 1977.3.243 (Perseus Project).

大きさ:10−20cm前後。