初期古典時代のその他の彫刻

フリーズやメトープなどの神殿に付随するものを除けば、この時代のレリーフは浅いものが多いが、その制限の中でも奥行きの表現がより可能になっているのがアルカイック時代との違いといえる。また解剖学的な筋肉等の表現もリアルなものになりつつある。

奉納彫刻

スニオン岬のアテナ神殿から発掘された、自らに冠をささげる少年のレリーフ(Athens 3344; Odysseus)は前470年頃のものとされるが、わずか3cmという浅いレリーフの中で奥行きが見事に表現されている好例といえる。恐らく少年が何らかの競技に勝利したその感謝を込めて奉納したものであろう。

ほぼ同時代のアテナのレリーフ(図1; Athens Acr. 695; Odysseus) はアクロポリスからの出土で、さらに浅いレリーフながら衣文の表現などによってそれを感じさせない出来栄えとなっている。槍に寄りかかりうつむき加減に石碑を見つめるこの場面の解釈は分かれるが、ペルシア戦争で亡くなったアテナイ人の名前を記した石碑を見て悲しむ姿とするのが有力である。

図1 沈思のアテナ

ルドヴィシの玉座(図2; Rome, Terme 8570; HATII)はイタリアのローマから発見されたものだが、同じ遺跡から他にもギリシアの彫刻が発見されており、後の時代にローマへ運ばれたものと考えられている。様式的にはギリシア本土ではなくシチリアのものに近いが、同地でギリシアの大理石を用いたこのようなレリーフは例がない。 またともに出土した彫刻群の中にこれときわめて似通った、ボストンの玉座と呼ばれるものがあるが、明らかに年代の降るものであり、このルドヴィシの玉座を真似てローマ時代に作られたものではないかと考えられている。

図2 ルドヴィシの玉座

その通称とは異なり、これは玉座として作られたものではなく、恐らく祭壇の一部をなしていたと考えられている。レリーフの施された三面のうちの正面にはアフロディテの誕生と思われる場面が表されているが、中にはペルセフォネの冥界からの帰還の場面とする説もある。海から上がってくる女神を二人の女性が助ける姿をあらわしており、女神の海に濡れて肌にまとわりつく薄手のキトンが見事に表現されている。

両サイドには対照的な二人の女性があらわされており、右側にはクッションに座って香を焚く女性が表現され、頭からヴェールをかぶり、肌の大部分を隠していることから既婚の女性像と思われる。一方には同じくクッションに座っているが、笛を吹く裸の遊女が表され、陶器画などにはすでに見られるものの、彫刻に裸の女性が表現されたのはこれが最初の例である。

墓碑彫刻

初期古典時代の墓碑彫刻の特徴はなんと言ってもアルカイック時代や中期古典時代以降において墓碑制作の一大中心地であるアテナイからの出土例が極めて少ないことである。