十月随想


十月二十九日(月)

書と心と

偶然得た休暇を奇貨として、極々久々に筆を執り、紙に向かう。隷書で一気に長楽老馮道の詩『天道』を書き上げる。腕が大幅に落ちているが、この際気にしない。細波だった心を静めるには、書が最も相応しい。心の乱れは字に映り、その乱れが字をも乱すが、書き進めるうちに次第に心が落ち着き始める。落款の際には心水鏡の如く、一陣の涼風心中を吹くが如し。忘れていた何かを取り戻したように感じた刹那であった。そう、長楽老が詩の初句に記したように、心静かに。

窮達は皆命に由る 何ぞ嘆声を発するを労さんや (天道・初二句)


十月二十七日(土)

悲歌貫胸

あの日もう二度とこの手に剣を握らぬと誓ってから幾星霜、時の流れは江水の如し、戒めは江水に耐える堤の如し、其れ能く奔流となるに至らず。しかし、天は再び我に剣の柄に手をかけさせようというのであろうか。嗚呼、天よ、蒼天よ、願わくばこれ以上の惨禍の至らざらんことを。


十月二十二日(月)

正義と真実と

一体何が本当の正義なのであろうか。否、正義は凡そ人の心に依拠するもの、真の正義など決められよう筈はない。ある人にとっては正義でも他の人にとっては義の通らぬことであることなど多々あるのだから。目に見えるものだけが真実とは限らない。耳で聞こえるものだけが全てとは限らない。明らかに正と思われることが正しいとは限らない。懐疑的になれ、とまでは言わない。ただ、目で見るのではなく、耳で聞くのではなく、頭で考えるのではなく、心で感じて欲しい。真実は蒼天のみが知り、人が物事を知った瞬間、雑念が入りそれは真実でなくなる。何が真実で、何が偽りか、その見切りの何と深遠なることか。


十月二十日(土)

始まりの終わり

一年前から、今日まで、ただ我武者羅に走り続けてきた。己の信ずる道を歩めたかどうかは汗青に托すしかないが、今、悔いはない。この一年、多くのものを得た。そう、数え切れないほどの。我が人生で久々に熱い風に吹かれる、充実した日々であった。値千金、万言を費やそうとも語り尽くすことの出来ないほどの日々。そして、その日々は今日で終焉を迎えた。しかし、これは始まりの終わりに過ぎない。これからの日々も、熱く、永い戦いの日々となることであろう。しかし、一歩も退くことはできない。日輪をこの手に掴む日まで。方寸に抱いた志を、鉄の意志と一握りの勇気で。前へ。


十月十二日(金)

大義と小義

一体何を以って大義とするのか・・・。否、これは愚問哉。何が大義か、何が小義か、結局は分からぬもの、それは蒼天のみが知る。迷うことなく、ただひたすら己が義と信ずる道を歩むのみ。
我は蒼天を飛翔する鵬に非ず、蒼天の下、地を行くもの也。


十月八日(月)

軍事攻撃

ついに始まった。力と力、双方一歩も退かないであろう、終わりの見えない戦いが。対イスラーム世界の戦いにしては、決してならないと思う。それこそ相手の思う壺である。多くの中東諸国は未だ態度を明確にしていない。イラクは明確な非難の態度をとった。イランも攻撃には批判的である。反米の動きは刻々と強まりつつある。無辜の民が一人でも傷つけば、米英は国際的な支持を全く得ることができなくなるだろう。さらにこれに国益を絡めるようなことがあれば尚更。その先は、泥沼である。慎重な態度で臨むべき今回の事態、本当に武に訴えるしか手はなかったのであろうか。アフガニスタン周辺では、タリバーン後を巡って組織間の暗闘が始まりつつある。これも多くの血を流すであろう。人は権力という美酒に酔わないではいられないのだろうか。そして人は歴史を繰り返さないではいられないのであろうか。これらの問いが答えに変わることは、一生涯ないだろう。しかし歴史は止まらない。悲しみはより大きな悲しみを呼ぶ。怒りはより大きな怒りを呼ぶ。終わることのない、螺旋。技術は発達しても、人というものはその実なにも変わっていないのかもしれない。

パンドラの箱は開かれた。あらゆる負の感情が飛び出したあと、たった一つだけ、箱の底に残ったものがあった。それは、『希望』。


十月五日(金)

宴のあと

丑三つ時、容態は大分安定したようだ。しかし三度目とは・・・。まあ仕方がないか。彼奴もよくやった。今は優しく見守るのみ、か。


十月一日(月)

一星霜

今月でこの随想禄を開始してから一年。ページ開設前からつけ始めていたこの随想録であったが、改めて見直してみるとこの一年、色々なことがあったことを思い起こさせる。そう、多くの、数え切れないほどの。暫し何ともいえない想いに浸る。一年・・・か。長いようで、短い。弓より放たれた矢の如く、早く、再び戻ることはない。この一年、起こった多くのことは、もはや、思い出。そして時の流れは容赦なく、一刻も止まるところを知らない。さあ、時の流れに押しつぶされないよう、鉄の意志と一握りの勇気をもって、前へ、少しずつでも、着実に。