第12回 マイケル・オーウェン
   

    1998年フランスW杯、「ロナウドの大会」となる筈だった
   この祭典で、そのほかのスター候補を上回るパフォーマンス
   を見せたのはその誰よりも若い一人の少年だった。

   人々は彼を
「ワンダーキッド」と呼んだ。

   マイケル・オーウェン。
   英国に登場した生粋のゴールハンターである。

   彼が世界を驚かせたのは、そのダイナミックなパフォーマンス
   だった。

   とっさの状況判断でスペースを見つけると、
100m10秒9の駿足
   をいかし、DFをふりきってグングンとゴールにせまり、確実で
   しかも最少のタッチでゴールへたたき込む。

   それはまさに驚異だった。

   何よりこの少年は、たった一人でDF陣を崩壊させて決着を
   つけるすべを心得ていた。

   現在この能力を有するのは、ロナウドやシェフチェンコなど世界
   を見回しても数えるほどしかいない。
   しかも彼はそのうちの誰よりも若いのだ。

   1999年12月14日で彼は20才になった。

   つまり、まだ彼は、言葉本来の意味での
「少年」なのである。

   その若さにもかかわらず、彼は多くの伝説に取り囲まれている。
   それでもこれから彼が築いていくはずの栄光に比べればとる
   に足らないものだと考える英国人は多いだろう。

   オーウェンは8才にして11才のチームでプレーしていた。
   U−11の時代には地区代表として1年間で72ゴールを
   あげている。

   これは、ギッグスが追い抜いていなければ、英国最高の
   ウェールズ人プレイヤーであるイアン・ラッシュの記録を
   破るものである。

   このシーズン、オーウェンは20分試合に出て9ゴールをあげて(!)
   戻ってきたという話もある。

   各チームによる猛烈な争奪戦のすえ、ビートルズを生んだ街・
   リバプールに入団した彼は17才と23日にしてプレミアにデビュー、
   出場した1分後にはゴールをたたきこんだ。

   これが評判になり、「ワンダーキッド」という愛称が与えられたが
   それが世界中に伝播していくのに時間はかからなかった。

   おそらくオーウェン自身にも想像はつかなかったろう。

   リバプールではロビー・ファウラーの控えだったがファウラーが
   ひざをケガして戦線離脱するとたちまちエースへとのしあがり、
   18ゴールをあげて得点王のタイトルを奪取、それとともに
   イングランド最優秀選手賞も手にした。

   リバプールに移籍してきた国際的なドイツ人ストライカー・
   カール・ハインツ・リードレが当時無名のオーウェンの練習
   風景を見ただけで顔をくもらせ、
   「俺とファウラーのどっちがベンチに座るのか」と
   真顔で語ったという。

   その言葉通りの活躍を、代表監督のホドルがみのがすわけ
   はなかった。

   オーウェンが代表として出場したのは1998年2月11日のこと。

   18才と59日での代表デビューはあの「ミュンヘンの悲劇」で
   命を落とした神童ダンカン・エドワーズの記録を破るものだった。

   オーウェンは代表4試合目で初ゴールを達成、リーグ戦での
   活躍もあって、フランスW杯のメンバー22人の中に選ばれる。

   世界にその名を知らしめたのはたった2つのゴールに過ぎない。

   予選リーグのルーマニア戦、シアラーがベッカムからのパスを
   折り返し、オーウェンがただちに反応してネットを揺らした。

   ペレに次ぐ、18才と180日のW杯初ゴールとなった。

   決勝トーナメントのアルゼンチン戦ではセンターサークル付近で
   ボールを奪い、40メートルを独走してDF2人をかわしてゴールした。

   その
驚異的なスピードには「神様」ペレも舌を巻いた。
   「あの子は今に世界的なエースになるだろう」

   ペレの言葉はまだ実現されていないがオーウェンは確実に
   その道を、彼特有の駿足でひた走り続けている。

   現在、オーウェンはひざの故障でリハビリをこなし、完全な状態
   に近づきつつある。順調なら11月17日、欧州選手権予選の
   プレーオフ、対スコットランドの大事な一戦に、エースのシアラー
   とともにピッチに立っているはずである。

   オーウェンは国内でもたいへん人気が高く、英国の期待を一身
   に担っている。

   この世界中で愛されるスポーツが、決して「サッカー」や「カルチョ」
   などというものではなくあくまでも
「フットボール」なのであると
   いうことをオーウェンこそが知らしめてくれると思っているのだ。

   もちろん彼らの中にも反対派はあって、一人の少年にそれだけの
   過剰な期待をするのはどうかと現実的な発言を繰り返している。

   だが、彼らのうちもっとも手厳しい者でさえ、オーウェン自身が
   すばらしい才能のかたまりであることを否定するものは一人も
   いないだろう。

   英国が誇るこの神童はオーフェンという名で登場する。

   英国は伝統的にファンタジスタを好まない傾向にあり、10番は
   つねにエースストライカーのものである。

   オーフェンの背中には、すでにその勲章が光り輝いている。

   やはり彼に贈られるのは10番がふさわしい。
   それは、あなたのクラブでも同じことだろう。