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3年B組金八先生〜伝説の教壇に立て!〜


Media :Playstation2
Maker :CHUN-SOFT
種 別:ロールプレイドラマ
発売日:2004年6月


 初めての「金八先生」ゲーム。
主人公はかつての坂本金八の教え子で、1年間入院することになってしまった
金八先生の代理教師として、サクラ中学へと赴任し、1年間、3年B組の担任
をすることになる・・・。

 原作となった「3年B組金八先生」は1979年にはじめて放映された人気ドラ
マシリーズで、現在までの6シリーズが製作されているが、このドラマは古典
的名作ものには珍しく、視聴者の「好き」「嫌い」がはっきりと別れるドラマ
ではないかと思う。
ちなみに個人的には「かなり好き」であることを最初に告白しておく。

 ゲームとしてみると「ロールプレイドラマ」という聞きなれないジャンルを
自称しており、いわゆるCHUN-SOFTがこれまでに展開してきた「サウンドノベ
ル」とは一線を画す存在であることをアピールしているところが興味深い。

 最初に、ロールプレイドラマとはどんなもので具体的にこれまでのサウンド
ノベルとはどこが違うのかということについておいらが感じたことを書いてお
きたい。

 まず一番大きな違いとして、サウンドノベルの象徴的存在だった「選択肢」
が廃止され、これに代わるものとして「カード」(キーワード)が導入されて
いる。
このカードは特定のイベントに遭遇したり、誰かと会話をすることで多くの場
合「情報」として入手することが出来、入手以降は会話の際に使用することが
できる。
簡単に説明すると、「おいら的あの頃ゲーム」というメルマガはこの世に存在
しているが、その存在を知るヒトの数は悲しいことに決して多くない。
逆に言えば、誰かと会話をするときに「おいら的あの頃ゲーム」を話題として
使(いたいかどうかは別として)うことができるのは、その存在を知っている
ヒトだけに限られてしまう。
このゲームではその「情報」を「カード」として扱っているのだ。

 次に、これはサウンドノベルに限らず、ゲーム一般としても変わっている点
だが、テキスト表示が一切なく、全ては音声のみで語られる、完全なフルボイ
ス仕様となっていること。
ちなみに、その為にスタートボタンを押せば台詞の途中であろうが、ムービー
の途中であろうがポーズをかけることができるという、かつてない仕様となっ
ているところはPC-Engine CD-ROM2以降、音声付きゲームを遊んできた者として
はなかなかに興味深い。

 そして最後の大きな違いは「基本的にシナリオは分岐しない」ということだ。
ゲーム1周は、10話に分かれていて、2週目以降、新しい話が加わることは
あるものの、ひとつの話の中で複数のエンディングを迎えることは、一部の例
外はあるものの、基本的にはない。
またバッドエンディングも非常にあっさりしており、とてもマルチエンディン
グなどと呼べるようなものではない。


 そう、実はこのゲーム、「ゲーム性」という面でみるとかなり苦しいのだ。
そもそもゲームには大きく分けて「システム主導」のものと「ストーリー主導」
のものの二種類があるが、テキスト系ゲーム、いわゆるアドベンチャーゲーム
はストーリー主導タイプの権化のような存在だった。
システム面での進化は、テキスト入力方式から「オホーツクに消ゆ」でのコマ
ンド選択方式への進化があったっきり、それこそ十年一日のごとく変わること
なく、逆にシステム的な構築が楽であることや、ハードに対する負担が軽いこ
となどから、DOS世代パソコンゲーム界、それも後期は同人ゲームやアダルトゲ
ームの定番ジャンルとして生き残ったが、コンシューマー業界ではあっという
間にRPGやSLGに駆逐されてしまった。
ストーリー主導だから、システムは古くとも、その上に載るストーリーが上質
のものであれば、楽しいのは確かなのだが、少なくともその頃、それだけのク
オリティを持つアドベンチャーゲームは決して多くなかったし、何よりも「ゲ
ーム」をしているという実感に乏しい。

 このアドベンチャーゲームというジャンルをシステム主導のゲーム、少なく
とも、システムの存在意義をストーリーのそれくらいに重要視したゲームとし
て再生したのがサウンドノベルで、これは革命的な出来事だった。
プレイヤーはストーリーを「読む」のではなくプレイヤーの選択がストーリー
を「作る」ことが可能になった。
それまで「言葉探し」「コマンド総当り」「電子紙芝居」と揶揄されたテキスト
系ゲームを本当の意味で「ゲーム」に押し上げた。
しかし、残念なことにサウンドノベルの進化系である筈のロールプレイドラ
マはシステム面に限っていえばあまりにもお粗末であるといわざるを得ないの
だ。

 このゲームでは、1話が一ヶ月となっていて、あらかじめ行動することので
きる回数は1日につき4回まで(ただし、一ヶ月あるからといって30日分プ
レイできるわけではなく、プレイできる実日数はシナリオによって違う)で、
学校の中や、周辺の街の中に設定された「場所」をひとつ選ぶごとに行動可能
回数が減っていく方式を取っている。
訪れた場所で、イベントに遭遇したり、そこにいる誰かと「有効な会話」(正
解となるべきカードを提示した場合)をすることができれば、新しいカードを
貰うことができたり、フラグが立ったりする。
必ずしも決まった手順を踏んでプレイする必要はなく、実はいくつかのカード
やイベントや入手したり見なくてもクリアすることは可能だが、各シナリオの
エンディングは先ほど書いた通りひとつしかないので、プレイヤーの自由度は
決して高くない。

 その代わりに、このゲームにはザッピングシステムと、才能開花システムと
いう独自のシステムを組み込んでいる。
ザッピングシステムは、プレイヤーの視点が主人公以外の誰かに移るわけでは
なく、ひとつの時間軸に別の物語が存在する場合、そのどちらにも関与できる
というタイプのものになっている。
つまり、5月なら5月に複数の生徒を主人公を主役とするドラマが同時に展開
し、教師である主人公はどちらのシナリオにも同時に関与することができると
いうものだ。

 才能開花システムはこのゲーム独自のもので、ゲームを進めるうちに各シナ
リオをクリアする為に必要なカード(イベントカード)とは別に「才能カード」
というものを入手することができ、これを学校や街で遭った生徒に使うことに
より生徒の隠された才能を開花すること可能になる。
一人の生徒にはその生徒の個性により10種類の「将来の職業」が隠されてお
り、カードを使ってそれらの才能を発掘することができる。
一口に才能を開花するとはいっても、一人の生徒につき20回前後の手順が必
要で、一朝一夕に開花することができるものではなく、開花に必要なカードは
多岐に渡り、その多くは生徒の特定の才能を開花することによって入手可能な
ために、シナリオクリアの片手間にやらざるを得ない為、かなり時間がかかる。

 そこまでして才能を開花させるとどうなるのか、というと実はどうにもなら
ない。
・・・というのは嘘で、完全に才能を開花させた子供だけが「仰げば尊し」を
歌ってくれるというシステムに反映されているし、いわゆる隠しシナリオ発生
のキーにもなっている。

 ・・・が、やはり、おいらはこれでは「どうにもならない」のと同じだと思
っている。
何故ならこれらの特典があったにせよ、ゲーム中では「才能を全て開花した生
徒」と「ひとつも開花していない生徒」に全く違いというものがないのだ。
彼らはただシナリオにそって行動するだけで、シナリオそのものに才能が影響
を与えることはない。

 例えばシナリオの中で病人がでたとして、生徒の中に医者の才能を開花した
生徒がいる場合といない場合で、シナリオの展開に変化があれば、「システム」
として充分に生きてくる筈だ。

 「仰げば尊しシステム」にしても、ゲーム本編とは関係ない才能開花システ
ムと連動させるよりも、ひとつのシナリオをマルチエンディングとし、その生
徒が主人公となるシナリオでグッドエンドを見ることができた子供だけが歌っ
てくれるというシステムにした方が、歌ってくれた時の嬉しさはずっと大きい。


 そのような理由から、残念ながらシステム面においてこのゲームにはおいら
はいい印象がない。的外れというより、もっとできた筈なのに・・・と思う部
分が非常に多い仕上がりになっていると感じられた。


 長々と悪い点ばかりを書いてしまったが、ではこのゲームは「ダメ」なのか。
といえば決してそんなことはない。
いい年をしてこんなことはいいたくはないが、おいらはこのゲームをしながら、
不覚にも何度か泣いしまった。
個々のストーリーに関してはネタバレを避ける為にここでは書かないが、いきな
り20人もの生徒を持ち、最初は思い入れどころか誰が誰なのか区別もつかなか
ったのが、ゲームを進めるうちに彼ら一人一人の愛着が湧き、愛しく思えてくる
ところなど、ドラマ版に決してひけを取らないし、恐らくはこういう体験ができ
るゲームはこれだけだと思うからだ。


 ストーリーというのは好き・嫌いが分かれるし、ましてや原作の金八先生自体
その傾向の強い作品だが、このゲームに関してはどちらにもオススメできる良作
だとおいらは思っている。
個人的にも「マルチエンディングではない」「分岐がない」などの点から購入ま
でかなり悩んだ作品だったが、もし同じような悩んでいるヒトがいたら、「損は
しないはず」ということを伝えておきたい。


 それだけに、ジャンルとしての「ロールプレイドラマ」に関しては、本作の流
用ではなく、システムとして完成したものが登場することを期待したいと思って
いる。



AXL 2004

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