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「スウィートホーム」

Maker :カプコン
Media :FAMILY COMPUTER
種 別:非リアルタイム・ホラーRPG
発売日:1989年12月


 おいらは怖い話の類が大好きである。
基本的に幽霊だとかは信じていない癖に、テレビの怪奇特集には目がなく、稲
川淳二のこわい話を子守唄にして眠るという異常体質の持ち主なのだ。
そんなわけなので、子供の頃からホラー系のゲームも大好きだった。
知っている人は知っているという伝説のホラーゲーム、「白と黒の伝説」をプ
レイ出来なかったのが残念だが、それ以外のゲームはそれなりに数もこなして
きたつもりである。
ホラー系のゲームの楽しみ方はなんといっても、ゲームをはじめる前に部屋を
真っ暗にして一人で遊ぶことである。
夜中なら尚雰囲気があって良い。

 しかし、そうまでして雰囲気を出しても、恐怖を楽しむという意味で評価に
値する作品は少ない、ましてや本当に「怖い」と思ったゲームはほとんど皆無
に近いのだ。
例えば、クロックタワー2の「音」を使った演出は秀逸だが、ゲームを進めて
いく内に対処に慣れてくると、対処が事務的になり、「怖い」よりも「面倒臭
い」が先に立ってしまうのだ。

 しかし、そんなひねくれ者のおいらが唯一、本当に怖いと思ったのがこの「
スウィートホーム」である。
メディアはファミコンで、ハードの表現力という意味で言えばかなり不利だ。
しかし、ファミコンの現在では貧弱と感じられるグラフィックや容量でこのゲ
ームは充分過ぎるほどの恐怖を演出してくれる。


 「スウィートホーム」というゲームは同名の伊丹十三監督の映画をゲーム化
した作品だが、ゲームの方が映画よりずっと怖い。
おいらはゲームをプレイした後、テレビでこの映画を見たが、あまりのギャッ
プに唖然として途中で見るのをやめてしまった記憶がある。
だが、映画を原作としているだけに、ストーリーも少なくとも導入部において
は映画と同じで、簡単に説明すると、フレスコ画家、間宮一郎(故人)の屋敷
に残されたフレスコ画を取材するために5人のテレビクルーが間宮邸に乗り込
む、ところが、屋敷に入った途端入り口が崩れ、5人は屋敷に閉じ込められて
しまう。
ゲームの目的は、この屋敷から脱出すること、だ。


 ゲームジャンルは、非リアルタイムRPGで、分かりやすく言えばドラクエタ
イプ、ただし当然のことながら町や村は存在しないので、始めから終わりま
でダンジョンの中にいるような感じだ。
5人のプレイヤーキャラにはそれぞれ特技があり、プレイヤーが名前を変更
することも可能だが、正直このネーミング機能に意味があるのかどうかは謎
である。
何故なら、こういうRPGの場合、大体が勇敢な戦士タイプ(男)に、万能勇者
タイプ(男)、魔法使いと僧侶の少女が二人いて、もう一人加えるならば、
盗賊の少年あたりで構成されているのが常である。
作品時代、舞台設定によって多少の違いはあるものの、どちらにしても、主人
公は10代前半から20代前半の少年・少女ということに相場が決まっている
ので、プレイヤーも想像力を働かせて好きに名前をつけられる。
よくあるパターンとしては、プレイヤーが男性なら、魔法使いの少女あたりに、
女性の場合は、主人公の勇者あたりに意中の人の名前をつけたりして、密かに
楽しむとかそういうことができるのだが、このゲームに限ってはそうはいかな
い。

 何故なら、この5人のキャラそのものが原作映画で実在の俳優が演じたもの
だからだ。
ちなみに5人を演じたのは、宮本信子、山城新伍、古舘伊知朗、黒田福美に
NOKKOである。
これだけ個性的な俳優達が演じたキャラに、自分の想像力でイメージした別の
名前をつけるのはかなりの勇気がいる。
例えば、自分の好きな男の子の名前を山城新伍につけられるか?という問題が
浮上してくるのだ。
世の中に星の数ほどゲームはあるが、山城新伍に名前をつけられるゲームはス
ウィートホームをおいて他にはないのだ。


 話が脱線してしまったが、とにかくこの5人を屋敷から脱出させれば良い訳
である、勿論、RPGなので途中で幽霊の類と戦うことによりキャラは成長して
いくし、キャラが個々に持つ特技をうまく使ってゲームを進めていくことも大
切だ。

 しかし、これだけでは、何故このゲームが「怖い」のかが分からないかも知
れない。
何よりもやってみれば分かるが、このゲームは本当に怖い。
夜中に部屋の電気を消して30分プレイしたおいらが、思わず電気をつけてし
まったほどに怖いのだ。
その恐怖の正体は、まずこのゲームがプレイヤーを「突き放している」ことに
ある。
例えばドラゴンクエストは、どんな風にプレイしていても、クリア不可能にな
ることは絶対に無いし、誰でも約束されたエンディングに辿り付くことが出来
るが、このゲームはそうではない。
このゲームの目的は5人を屋敷から脱出させることだ、と書いたが、実は脱出
させるのは5人でなくても良いのだ。
最悪一人でも脱出すればエンディングに辿り付くことは出来る。
何人脱出させることが出来たかによってエンディングが変化するようになって
いるが、逆に言えば、一度死んだキャラは決して生きかえることは無い。
それだけに選択を謝れば、その責任はプレイヤーが負うこととなる。
選択を誤って即ゲームオーバーだというのなら、セーブしたところからやり直
せば良いので逆に怖くもなんともないが、一人づつ仲間が減って行く、という
ところがこのゲームの上手い所である。
キャラクターが一人死んだだけなら、ゲームの続行は可能だが、そのキャラク
ターは2度と戻ってはこない、セーブしたところまで戻ってやり直すか、この
まま続行するか、その決断はプレイヤーにゆだねられている。
一人くらいなら・・・と思い、ゲームを続行するとまた一人仲間が死に、パー
ティが少なくなっていく。
また、キャラクターそれぞれに特技があるので、一人死ねばそれだけ進行が
不利になる。
果たしてこのままゲームを続けるべきなのだろうか?
このままゲームを続けて本当にクリアできるのだろうか?と不安になっても決
してゲームは答えてはくれないのだ。

 このプレイヤーを突き放したシステムと、最初から最後まで屋敷の中で周囲
はトラップや敵だらけ・・という圧倒的な閉塞感がプレイヤーを不安にさせ、
おどろおどろしい演出とあいまって他のゲームでは味わえない恐怖感を生み出
すのだ。


 ちなみにこのゲームは、映画と同じく伊丹十三監督が制作総指揮に当たった
らしい、また、カプコンのホラー系ゲームといえば、現在ではやはりバイオハ
ザードが最も有名だが、このゲームの制作スタッフが後にバイオハザード制作
にも関わったそうである。

 実はおいらはバイオハザード自体は友人に借りて何回かプレイした程度しか
やっていないが、カラスの鳴き声が聞こえるな・・・と思っていたらその直後
に本当にカラスが窓ガラスを突き破って襲撃してきたときは恥ずかしながら、
テレビの前で「うわぁっ!」と声をあげてしまったことを覚えている。



AXL 2001
(2004.12 加筆)
映画「スウィートホーム」は伊丹十三制作総指揮の作品で、監督作品ではあり
ませんでした。ご指摘いただいたishiさんに感謝いたします。

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