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「スーパーファイヤープロレスリング3〜ファイナルバウト〜」

Media :Super Famicom
Maker :Human
種 別:2D_プロレスゲーム
発売日:1993年

 プロレスラーの引退ほどアテにならないものはない。
例えば、デスマッチで有名な大仁田厚の場合、変な言い方になるが、実は彼は
有名になる前は引退していたのだ。
元々、彼が活躍していたのは昭和50年代半ばの全日本プロレス、つまりジャイ
アント馬場の団体で、彼はJr.ヘビー級のエースだった。
ところが、その頃、ライバルのアントニオ猪木率いる新日本プロレスのJr.には
あの初代タイガーマスクがいた。

 ほとんど超人的な運動神経を持つタイガーに対し、大仁田はいかにも地味だ
った。これといった空中殺法も持たず、その頃マスコミはこの好対照な二人を
指して、「空飛ぶタイガー」「地を這う大仁田」と評していた。

 結局、彼はJr,では団体のチャンピオンという地位まで上り詰めながら、タ
イガーマスクの割を食った格好で、怪我なども重なり引退してしまう。


 その大仁田がデスマッチを引っさげて独立団体を旗揚げし、一般のマスコミ
などにも顔を出すようになったのは、今から10年ほど前のことである。
デスマッチブーム後、彼は再びプロレス界から引退し、その後また復活してい
る。
現在は引退しているのかしていないのか、おいらも分からないほど、引退と復
活を繰り返している彼だが、彼だけが特殊なわけではなく、むしろプロレス界
においては、「引退します」といった人間がそのまま完全にプロレスから足を
洗うことの方が珍しく、引退を繰り返すことはむしろ当たり前ですらあるのだ。


 さて、そんなプロレスを題材としたゲーム、ファイアープロレスリングシリ
ーズもどういうわけか、引退と復活を繰り返すゲームなのだ。
ファイアープロレスリングは、1989年にPC-Engine用Huカードで、第一作、コ
ンビネーション・タッグを発売して以来、それ迄のプロレスゲームにはなかっ
たリアルさがコアなファンを生み、PC-Engineで3作(厳密にはCD-ROM2版の女
子があるので4作)が発売され、プラットフォームをSuper Famicomに移した後
もその名を「スーパーファイアープロレスリング」を変え、シリーズを重ねて
いった。

 そんなファイアープロレスリングシリーズの「最初の最終作」が本作、ファ
イナル・バウトである。
本来、ファイプロシリーズはこのファイナル・バウトで打ち切りになるはずだ
ったらしいが、どういうわけか一年後に「スーパーファイアープロレスリング
スペシャル」が発売され、さらにその一年後「ファイプロ最終作」と銘打たれ
た、「スーパーファイアープロレスリングX」が発売される。

 にも関わらず、その約2年後、今度はセガ・サターンで「ファイアープロレ
スリングS」が発売され、プレイステーションの「ファイアープロレスリング
G」へと続く。

 この作品を最後にメーカーである、ヒューマンは倒産してしまい、これで終
に本当に終わりか?と思われたが、その後、加賀テックがワンダースワン版を、
スパイクが、DC及びGBAをリリースしたのだ。

 ところが、この原稿を書いている2002年7月、スパイクからGBAで発売予定の
ファイプロ最新作のタイトルは、「ファイナル・ファイアープロレスリング」
そのタイトルや「ファイプロの集大成」という意味ありげなキャッチコピーか
ら、一部では、これまたファイプロ最終作ではないか?という噂のあるソフト
である。


 世の中にシリーズ化されているゲームは多いがこれだけ頻繁に引退興行を打
つシリーズも珍しい。
その理由について、詳しいことはおいらにも分からないが、第一作からのファ
ンとして、いつも疑問に思うことがある。
果たして、このゲームは売れているのか?ということだ。

 ファイプロシリーズは、プロレスゲームという固定されたジャンルの中では
確かに圧倒的な知名度と人気を誇っている。
ただ、問題なのは、プロレスゲームという市場がどの程度のものなのか、とい
うことなのだ。


 プロレスというスポーツは、野球やサッカーに比べて一般的な認知度が低い。
つまり、題材となったスポーツのことはよく知らないけど、面白そうだから買
ってみよう、というライトユーザーを引き入れにくいジャンルなのだ。
それはプロレスというスポーツが持つ宿命的なものなのだが、そんな中で面白
い動きを見せているものに、ユークスが発売しているエキサイティング・プロ
レスというシリーズがある。

 このゲームは、アメリカ最大のプロレス団体WWF(現WWE)のオフィシャルゲー
ムで、登場するプロレスラーも全てあちらのレスラーだ。
極限までショーアップされたWWFプロレスは、ケーブルテレビの普及に伴い、そ
れまでプロレスに興味を持たなかった若い層や女性を中心に日本でもカルト的
な人気を誇っており、スポーツゲームとしてより、WWFの持つエンターテイメ
ント性を前面に押し出す同シリーズも、他のプロレスゲームをやったことのな
いライトユーザー層にある程度支持されているという稀有な特徴をもつゲーム
である。

 WWFプロレスと日本のプロレスの違い、エキサイティングプロレスと普通の
プロレスゲームの違いがどのようなものであるかは、ここでは詳しく書かない
が、一言でいうなら、普通のプロレスやプロレスゲームを、よくあるカーレー
スのゲームに例えるなら、WWFのそれはクレイジータクシーである、といえば
イメージして貰えるだろうか?

 クレイジータクシーを購入する層は決して、タクシー愛好家でもなければ、
カーレースファンですらない、それと同じで、WWFやエキサイティングプロレス
のファンは、プロレスファンですらない場合が多いのだ。

 例えば一般的なプロレスのイメージといえば、汗臭そうな体育会系の男が、
テーマ曲にのって半裸体で登場し、くんずほぐれつの大喧嘩をする、という野
暮ったいイメージがあるが、WWFの場合、一人のニューカマー(新人)を登場
させるに当たって、専門のスタッフによるミーティングが開かれ、デザイナー
によりコスチュームなどが決定される、さらに、入場シーンでは一流アーティ
ストのライブを手がけるような業界屈指のスタッフによって、照明管理や演出
が施され、そのストーリー、選手の一挙手一投足に至るまで、全て専門家によ
って管理されているという徹底振りで、例えばライバルレスラーの愛車をクレ
ーンで吊り上げて、地面に叩きつけて精神的ショック(?)を与えたり、プロ
レスラーですらない団体のオーナーが頻繁にリングに登場し、さらにオーナー
の実の娘には、「絶対的清純派」という目も眩むようなキャッチコピーがつけ
られ、これまた頻繁に登場する、挙句の果てに、その「絶対的清純派」の社長
令嬢が悪役レスラーに誘拐され、強引に結婚式まで執り行われ、哀れお嬢様は、
悪役レスラー、トリプルHに洗脳(?)され、悪の心に染まってしまい、最近
ではあの頃の面影はどこへやら、旦那と毎週のように痴話喧嘩を繰り広げてい
る。

 そして、スポーツとしてのプロレス、プロレスの一団体であるWWFをゲーム
化したのではなく、WWFという唯一無二の世界をそのままゲーム化したのがエ
キサイティングプロレスシリーズなのだ。


 しかし、ファイアープロレスリングは違う。
このゲームは、恐らく数あるプロレスゲームの中で最もマニアックなゲームで
あり、プロレスファン以外はまず購入しないであろうソフトである。

 どこがマニアックなのか?というと、例えばバックドロップという技がある、
これはプロレスを知らない人でも大体どういう技なのかイメージできるくらい
有名な技なのだが、ファイプロの場合、「バックドロップの種類だけで数十種
類は存在する」のだ。

 「抱え式」「捻り式」に始まり、元祖バックドロップだの、殺人バックドロ
ップだの、果ては地獄バックドロップという名前まで、数え上げればキリがな
い。どうしてこれだけたくさんあるのかといえば、それぞれ全て微妙に投げ方
が違うからだ。

 これはプロレスファンにとっては嬉しいこだわりだ。
誰が何といおうとも、ブロディのバックドロップとジャンボ鶴田のバックドロ
ップが同じモーションであっては困るのだ。
しかし、プロレスを知らない一般のユーザーにとっては、不気味なコダワリで
あり、彼らが、数十種類のバックドロップを使いこなせるとは到底思えない。


 つまり、ファイプロとはあくまで限定された、コアなファイプロファンの為
のゲームであり、その限定された購買層だけは必ず買ってくれる代わりに、そ
れ以外のユーザーに手を広げるのはほとんど不可能、というくらいに偏ったゲ
ームなのだ。

 逆に言えば、販売本数は常に一定しているといえる。
その「一定」が果たして、シリーズを存続するのに充分な数なのかどうか、と
いう点に於いて、おいらは非常に疑問を感じるのだ。

 つまり、それがファイプロシリーズが引退と復活を繰り返すことの原因では
ないだろうか?

 最後になってしまったが、このゲームの特徴を簡単に紹介しておくと、現在
ではファイプロシリーズの最大のウリになっているレスラー・エディットが初
めて本格的に採用された作品となっている。
最初にレスラー・エディットが採用されたのは、これより前にPC-Engineで発売
された、ファイアーアプロレスリング3〜レジェンド・バウト〜になるが、こ
ちらのエディットシステムはまだ完成されているとは言いがたく、試作品的な
趣きもあったが、スーファミシリーズで初めて搭載されたエディットシステム
がファンに受けたこと、また当時のプロレスゲームの平均レスラー数が10〜
20人程度であったのに大して、約100人という桁外れなレスラーを使うこ
とができた点などが大きな特徴である。

 恐らくファイナルバウトと銘打たれたにも関わらず、その後スペシャルが発
売されたのは、このシリーズの成功がファイプロをプロレスゲームからプロレ
ス・シミュレータへと進化させ、新たなファン層を開拓した為ではないかと思
う、尚、現時点で最新作となる予定のGBA版「ファイナル・ファイアープロレス
リング」には、ファイプロシリーズとしては初めて、マネージャーやセコンド
といったレスラー以外のキャラクターが直接画面に登場するシステムと、団体
経営が可能になったという大きなシステム上の変更があり、再びファイナルバ
ウトのように次に続く作品になるのかどうか、非常に興味を持っている。



AXL 2002

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