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殺意の接吻-Kiss of murder-(J.Bハロルドの事件簿)

Media :PC88,PC98,MSX,Windows95
Maker :リバーヒルソフト
種 別:コマンド選択型推理アドベンチャーゲーム
発売日:1987年


 リバーヒルソフトの看板推理アドベンチャーゲーム、JBハロルドシリーズの
中の一本で「殺人倶楽部」「マンハッタンレクイエム」に続く三本目だが、本
作はアドベンチャーゲームとしては唯一といっていいくらい奇抜な方法でリリ
ースされた。
それはMSX版や後にリリースされたWindows版を除き「殺意の接吻」単体パッケ
ージではゲームをすることが出来ず、前作となるマンハッタンレクイエムのデ
ィスクとあわせてはじめて1本のゲームとなるという手法で、本作でのグラフ
ィックデータはほぼ全てマンハッタンレクイエムの流用となっている。
その分、価格は前二作と比べて三分の二程度に抑えられており、ストーリーが
最重要視される推理アドベンチャーゲームとしてはなかなか面白い試みである。

 また、興味深いのはストーリー的にも、マンハッタンレクイエムの続編では
なく、殺人倶楽部の続編、つまりマンハッタンレクイエムと時間軸を同じくす
るアナザーストーリー扱いになっていることで、マンハッタン、殺意の接吻共
に事件の発端となる被害者は殺人倶楽部に登場したサラ・シールズだが、それ
ぞれの作品でサラ・シールズを巡る人間関係も、またサラ自身の生い立ちなど
も全く違ったものに設定されている為、ストーリー的にシリーズを語る場合、
厳密に三作目とはならない。

 特殊なリリースの方法からほとんどのユーザーがマンハッタンを経て本作を
プレイすることになるが、マンハッタンで登場したキャラクター達が全く違っ
た設定で再生されているのは、他のゲームではなかなか味わうことのできない
新鮮が驚きがある。

 ストーリーの方は、殺人倶楽部の舞台、リバティタウンで主人公と知り合っ
たピアニストのサラ・シールズがマンハッタンで不可解な死を遂げ、またその
際に彼女が預かっていた筈の「青の嘆き」と呼ばれる高価なサファイアが紛失
した謎を巡ってJBが活躍する・・・というもので、グラフィックデータを共有
している関係から、舞台はマンハッタンレクイエムと同じで、細かな地名など
もそのままとなっている。


 ただし、本作は単なるシナリオの入れ替えで終わったわけではなく、JBハロ
ルドシリーズとしてははじめて推理コマンドが使用可能になっている。
これは、ゲーム中で発生する事件に対して、プレイヤーが推理した犯人を指名
するもので、それまで総当りのみでクリアすることが出来た前二作との大幅な
差別化を図った意欲的な試みだといえる。

 ただし、その反面、ゲーム終盤近くになると間違った犯人を指名している限
りゲームのストーリーが進行しなくなってしまうという弊害もある。
またゲーム中で発生する事件も含めて、推理しなければならない事件は5つに
もなり、最終的には、その全てについて正確な犯人を指名しなければならず、
一部の事件に関しては、ストーリー的に推理することかなり苦しい、いわばひ
っかけ的なものも含まれる為、実は難易度に関しては本作がシリーズ随一のも
のになってしまっている。


 次に、何度も書いてきたように本作はマンハッタンレクイエムのグラフィッ
クデータを流用している関係上、登場人物の総数などはマンハッタンレクイエ
ムと同等なのだが、ストーリー的にはマンハッタンほどの壮大さはない為、せ
かっく出てきても、はじめて登場した際の台詞が変わらないまま、終盤までほ
とんどストーリーに絡んでこないキャラクターが何人かいる。
ゲームの進行方法としてはやはり、総当りが効率的な為、こういうキャラクタ
ーが多くなるとどうしてもプレイ中にダレてしまうのが難点だ。
また、シリーズ中唯一本作のみが「初対面の人間に尋問できる」という変わっ
たシステムになっている点も正直、気をそがれてしまう。
JBハロルドシリーズでは、ゲームの進行により特定の人物に対して疑惑が深ま
ってきた時にそれまでの一般的なコマンドとは違った尋問専用コマンドが使用
可能になるのだが、本作に限ってはそれがいきなり使用できてしまう。
しかももっと問題なのは、それが全ての人物に対して使用可能なわけではなく、
後に尋問が必要となるキャラクターに限って使用可能な点で、つまり尋問する
ことのできるキャラクターは初対面であっても後に事件に何らかの関わりをも
ってくることが一目瞭然に分かってしまうことだ。

 さらにグラフィックデータの共用も必ずしも成功したとは言いがたく、グラ
フィックを共有しなければならなかったが為に、ゲーム中に設定されたそのキ
ャラクターの設定とグラフィックから想像できるキャラクターの設定の間に微
妙なギャップを感じてしまうキャラクターも何人かいたことも確かだ。


 このように第一作目の殺人倶楽部から後に発売された第四作DCコネクション
までを見渡しても、システム的に本作には明らかに失敗と思われる変更がいく
つか見受けられ、個人的な感想としては全体的にストーリー的にも、いまひと
つといった感想を抱いてしまうのだが、もし追加ディスク形式を本作で終わら
せることなく、低価格、短期間での多数の作品のリリースが実現できていれば、
推理アドベンチャーゲームというジャンルにまた違った将来があったのではな
いかと悔やまれる作品である。



AXL 2004

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