レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

西村京太郎トラベルミステリー 悪逆の季節
      〜東京南紀白浜連続殺人事件〜


Meida :3DO
Maker :PACK IN VIDEO
種 別:実写推理アドベンチャーゲーム
発売日:1994年

 西村京太郎ゲームにクソゲー無し。
かなり地味であることは否めないものの、これがおいらの見解である。
おいらが知る限り、過去に西村京太郎原作ものとして発売されたゲームにはフ
ァミコン用としてアイレム発売の「ブルートレイン殺人事件」、「スーパーエ
クスプレス殺人事件」、またPC-Engine CD-ROM2用としてナグザットから「北斗
星の女」、そしてこの3DO用はパック・イン・ビデオからの「悪逆の季節」があ
り、それぞれ対応機種、メーカー共に違ってはいるものの、そのどれもが推理
アドベンチャーゲームとしては、それぞれの時代時代で充分に楽しめたものだ
った。

 ただ、おいらの場合、アドベンチャーゲームは好きだが推理小説やサスペン
スドラマは特に好きというわけではないので、原作の方はどれも読んだことが
ない。
だから、西村京太郎作品が好きだから、これらのゲームが好き、というわけで
はなく、単にゲームとして出会ってゲームとして遊んでそれぞれに楽しんでき
た。

 さて、このゲームは、3DO初期に発売された実写アドベンチャーゲームで、こ
ちらは山村美沙原作の「京都鞍馬山荘殺人事件」の続編として発売されたソフ
トで、その定価たるや実に1万2800円と、今見るとちょっと溜息が出そうな値段
である。
値段もバブリーだが、キャストもバブリーで、主演は松方弘樹、脇を固めるの
は喜多嶋舞、荒井注、石立鉄男、西岡徳馬などこの種のゲームとしてはかなり
の豪華さを誇っている。

 ストーリーの方は、勿論「旅もの」で、東京で起こったボウガン殺人事件を
発端に舞台は南紀白浜へと移ってゆく。
実写映像で見るアドベンチャーゲームの世界、画面の中を走り回る二時間サス
ペンスでお馴染みの面々は、まさにゲーム版火曜サスペンス劇場(または土曜
ワイド劇場)といった趣がある。
ゲームとしての基本的なコンセプトは前作、「京都鞍馬山荘殺人事件」と同じ
だが、インターフェースやシステムなども前作の経験を活かしてかなりこなれ
たものになっており、前作が山村美沙原作で京都を舞台に日舞の家元一族を巡
る事件を追っている為、同じサスペンスものとしても女性向きの趣が強いのに
対して、西村京太郎ものはいかにも男性向きと好対照なのも興味深いところで
だ。

 ところで、RPGやシミュレーションゲームにジャンルとしての王座を奪わ
れて以来、発売本数もめっきり減り、裏道人生を歩まざるを得なくなっている
アドベンチャーゲームというジャンルだが、このジャンルは過去に三回ほど「
なんとかなりそうになった時期」というものがある。

 最初はPC-EngineにパワーアップユニットとしてCD-ROM2システムが発売され
た時だ。
CD-ROMというメディアは、実写画面や音声、音楽を必要とするゲームに適して
おり、また開発側にしても比較的簡単にCD-ROMゲームならではの豪華さを出せ
るこの種のジャンルは魅力的でもあったらしく、この時期PC-Engine CD-ROM2用
という限定された条件ではあったものの、それ以前より多くのアドベンチャー
ゲームが発売されることとなる。
ただし、この流れは後にギャルゲーへと吸収されてしまうのだが、その頃、チ
ュンソフトが「弟切草」を発売する。
これが二度目で、つまり、「サウンドノベル」というジャンルが台頭してきた
時だ。
一時的にせよ、それまで市場から見捨てられた感のあった、テキスト主体ゲー
ムに人気が集まり、各社からサウンドノベル的なゲームが発売された。
そして、三度目は、1993年から94年頃の「インタラクティブ・ムービー」ブー
ムである。
3DOというハード自体もまさにそのブームの寵児といえるのだが、Macintoshや
Windowsなどのマルチメディアパソコンでも数多くのインタラクティブ・ムービ
ー、つまりCD-ROMを媒体とした実写動画アドベンチャーゲームが多く発売され
たのだ。

 しかし、その多くは海外製のものだった為、このゲームの前作「京都鞍馬山
山荘殺人事件」や本作「悪逆の季節」の登場は非常に分かり易い意味で、「次
世代のアドベンチャーゲームのカタチ」を提示してくれたソフトだとおいらは
思っている。

 ただ、この三度目の機会は、最初のPC-Engine CD-ROM2発売時の流れの豪華版
的なところがあり、結果の方も、特にパソコンの世界ではCD-ROM媒体、実写映
像という特権を根こそぎアダルトソフトに持っていかれることになってしまう。

 そして、CD-ROMをも上回る大容量を持つDVD-ROM媒体が一般的となった現在で
は、当時アドベンチャーゲームのお家芸だった「ムービー」は大作RPGの代
名詞となり、昔ながら推理アドベンチャーゲームは、過去に彼の元から独立し
ていったアクション・アドベンチャーゲームや、アダルトアドベンチャーゲー
ムなどの家で世話になり、寂しいながらも気ままな隠居生活を送っている。

 結局のところ、おいらがこのゲームに見たアドベンチャーゲームの未来は、
文字通りバブルとなって消え果てしまったわけだが、最後においらはこのゲー
ムをプレイしていた時に不思議な感覚に囚われたことを記しておきたい。

 それは、この、「テレビでお馴染みの二時間サスペンスを丸ごとゲームにし
ちゃいました」的なゲームをプレイしている時に、何度かとても懐かしい感覚
を味わったのだ。
それは、ずっと以前、MSXや、PC88、そしてファミコンでプレイしてた堀井
雄二アドベンチャーゲームで味わったものと同じ感覚である。
日本推理アドベンチャーゲームの古典といえる堀井アドベンチャーと、推理ア
ドベンチャーというジャンルの、未完の最終形である本作の間にジャンル以上
の共通性があるとは思えなかったが、考えてみれば同じことだったのだ。

 堀井雄二はもしかしたら、テレビの二時間サスペンスをパソコンで遊ぶ為に、
ポートピア連続殺人事件を作ったのかもしれない。
対してこのゲームは、テレビの二時間サスペンスを使ってアドベンチャーゲー
ムを作っている、それは例えば同じ路線の上りと下りの列車のようなもので、
出発駅と終着駅が逆なだけで、車窓に同じ風景が流れるのは当たり前のことだ
ったかもしれないのだ。



AXL 2003

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