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コナミのゲームを10倍楽しむカートリッジ


Media :MSX(複数スロットマシン専用)
Maker :KONAMI
種 別:特定ゲーム用データ改造ツール
発売日:1985年


 子供の頃に読んだものなので話の細かいところまでは覚えていないが、「ダ
メおやじ」という漫画の単行本にこんな掌編が収録されていた。

 道端でスケッチをする貧乏画家の青年を見つめる若い女性がいる。
彼はどうやら住む家もないらしいが、画家を目指し毎日街角で一生懸命スケッ
チをしていた、そんなひた向きな彼の姿に密かな恋心を募らせるが、ある時、
彼がなけなしの金で買った宝くじが大当たりしているのを知り、画材を放り出
して大喜びで走っていくのを見た彼女は幻滅し、彼の前から去っていく。

 子供心にも妙に印象に残る話で、あれから20年くらい経った現在もふとし
た時に思い出すことのある話だ。
そして、この話を思い出すとおいらは何故か即座に「光栄(現:コーエー)」
という言葉に思いを巡らし、次に「コナミ」という言葉を思い浮かべてしまう。

 コナミといえば、ここ数年、ゲームの著作権でナムコを訴えたり、同社発売
の「ときめきメモリアル」の改造データ入りメモリーカードを販売していた会
社を告訴したりと色々と大変なことになっている。
この場合の改造データというのは、例えば最初からパラメータが最高になって
いるようなものを指し、そのデータを使えば簡単にエンディングが見られたり
ゲームを楽に進めることができるようになるもののことでだ。

 このデータを販売した会社をコナミが告訴することにはおいらは基本的に異
議はないのだが、問題なのは、コンピュータゲームの権利者団体であるACCSが
こうした改造データを個人が自分で楽しむ範囲内で作成した場合にもゲームと
いう著作物の同一性保持侵害を理由に違法であるという見解を示していること
にある。


 つまり、勝手にデータを改変することにより本来クリエイターが意図してい
るゲームバランスが著しく壊されるので例え自分で改変データを作成して自分
で使用した場合であってもそれは犯罪である、というようなことを言っている
わけである。

 平たく言うと、推理小説をいきなりラストから読んで犯人を確認するのは犯
罪だ、というようなわけのわからない話なのであり、本来ソースをかけるべき
コロッケに醤油をかけて食べるのは、料理に対する同一性保持の侵害だとか、
もうそういうレベルの実に下らない話だとおいらは思うわけである。

 残念ながらおいらには改造データを作成するようなスキルはカケラもないの
だが、「クリエイターが意図したゲームバランス」を無条件でユーザーが受け
入れなければいけないというこの見解には非常な憤りを感じている。
そもそも、「クリエイターが意図したゲームバランス」では殆どクリア不可能
なゲームがいくつも存在する。
ゲームというのは、そもそもユーザーが楽しむ為のもので、個人的な楽しみ方
にまでメーカーが口をつっこむのは本末転倒以外の何物でもない。


 というようなことを1年くらい前に一人で怒ったりしていたので今回はイヤ
ミったらしくも「コナミのゲームを10倍楽しむカートリッジ」を紹介してし
まうのである。
これはMSX用のROMカートリッジだが、これ単体ではゲームを楽しむことはでき
ない。
MSXには、どういうわけか、ROMカートリッジの挿入口が2つ以上ついた機種が
あり、例え1つしかついていない機種であっても拡張機器を取り付けることに
より最大4つくらいまで増やすことができた。
つまり、同時に2本以上のROMカートリッジを差し込んで起動することが可能
なわけだが、この機能自体は残念ながらそれほど頻繁に使用されることはなく
ゲーム以外の一部のアプリケーションに限って利用されていた。

 ここに目をつけたのがコナミで、例えば、MSX用のグラディウスをプレイする
時に余ったROM挿入口にツインビーのカートリッジを差し込んでおくと自機がツ
インビーになるといったような遊び心のある隠しフューチャーを盛り込んでいた
が、それが極まったものがこの「コナミのゲームを10倍楽しむカートリッジ」
である。

 これはコナミのゲームと同時に使用することにより、ステージセレクトや、
残機設定の変更が可能になるというもので、メーカー公認の一種の改造ツール
である。
こういうことは何もコナミに限った話ではなく、例えば光栄(現:コーエー)
でも最近の信長の野望や三国志シリーズでは恒例となったパワーアップキット
の武将能力エディット機能などもメーカー公認の改造ツールであり、「10倍
カートリッジ」やパワーアップキットを購入したユーザーと、しなかったユー
ザーに対する「ゲーム作品の同一性保持」の差はどうなるのだ?という気がし
ないでもない。

 ここまで書いてしまうのはどうかと思うが、正直なところ今のゲーム会社に
とって「作品の同一性保持」だとか「クリエイターへの権利侵害」などという
ことは実はどうでもいい問題でしかなく、要は、改造データの販売により自社
の利権が侵害されることや、その流布によりゲームそのものの魅力が半減し減
収に繋がることの方が問題なのだとおいらは思う。
そして、それそのものは全然構わないと思っているのだが、はっきりそう言っ
てしまうとミもフタもないから、もっともらしい理屈を並べているだけではな
いのだろうか。
いや、それそのものは全く構わないのだ。
ゲーム会社が企業である以上、利権を守ることは当然の行為だと思っているの
で、改変データ販売会社を告訴することに関しては先ほども書いたように全く
異議はない。

 問題なのは、その理屈を盾に、ゲームやそのバランスをユーザーに全肯定さ
せようとする思い上がりにある。
少なくともおいらが購入したゲームにおいて、それをどのように楽しもうが、
おいらの勝手であり、それに文句をつけるならば金を返して頂きたい。
そして、おいらはコロッケには醤油をかけて頂く方なのでその点もどうか放っ
ておいて頂きたいと切に願う次第なのである。



AXL 2002

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