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かまいたちの夜

Media :Super Famicom,Play Station(特別篇),GameboyADVANCE(アドバンス)
Maker :CHUN SOFT
種 別:サウンノベル
発売日:1994年


 サウンドノベルの始祖、弟切草から約2年を経て発売された第二弾。
弟切草がホラーをベースにしたオムニバスな反面、一つ一つのシナリオに限っ
ていえば、選択肢によるシナリオが変化が乏しかった(ストーリーが変化する
よりも選択肢の選択によって別のシナリオに飛ばされることで変化させること
が多かった為)のに対して、今作ではベースとなるストーリーは一つのみで、
主人公の行動によって起こされるストーリー変化を楽しむことに重点が置かれ
た作りとなっている。

 ストーリーは大学の友人であるヒロインと冬休みを利用して、彼女の叔父が
経営するペンションに泊まりに来た主人公が遭遇する密室殺人の謎を軸に展開
してゆく。


 当時のサウンドノベルファンにとっては弟切草の存在はあまりにも大きく、
かまいたちの夜が発売される迄はサウンドノベル=ホラー&マルチシナリオと
いう暗黙の定義があった。
実際、弟切草のヒット後、他のメーカーから相次いで発売された幾多のサウン
ドノベルタイプのゲームもほとんどがこのフォーマットを使っていた。
 それだけに、サウンドノベルの元祖、チュンソフトから発売された第二弾の
内容が、ホラーからサスペンスへ、オムニバスから非オムニバスへの変化の影
響もまた大きく、前作弟切草でサウンドノベルの魅力にとり憑かれたファンに
とって、場合によっては二の足を踏みかねない冒険だったとおいらは思ってい
る。

 しかし、今にして思えば、サウンドノベルのようなプレイヤーの選択によっ
て物語世界に影響を与えられる種類のゲームに関していえば、弟切草のような
システムよりかまいたちの夜のシステムの方がより適切であると感じられる。
サウンドノベルとは本来、プレイヤーが主人公になりきって選択肢を選び、そ
の後の展開が複数に分かれる共に、変化そのものをを楽しむものであるべきだ
からだ。
そしてその変化はある程度はプレイヤーが予測し得るものでなければならない。
つまり、特定のキャラクターとの会話で、好意的な返答をするか、もしくは挑
発的な返答をするかという選択肢があった場合、プレイヤーは現在の主人公と
相手の立場の違いや、選択肢を選ぶことによる先の展開の変化を念頭に於いて
選択肢を選ぶ。

 勿論、弟切草でもそういった要素は皆無ではなかったものの、オムニバスと
いう性質上、極端な言い方をすると、「オバケが出そうだなあ」という選択肢
を選ぶと物語世界そのものが「オバケが出る」シナリオに飛ばされてしまうよ
うな非現実的な部分があったことは確かで、その意味からプレイヤーが主人公
と自分を同一視し、選択肢に主人公として答えるというよりは、主人公からは
一歩引いたいわば観客的な立場でプレイする傾向が特にある程度ゲームに慣れ
た後半に於いて多くなってしまうのだ。


 しかし、その反面、非オムニバスのしかも推理ものというシナリオには問題
点も多い。
かまいたちの夜の場合で言えば、ストーリーは夕方、ヒロインとスキーを楽し
むところからはじまり、ペンションに戻り、夕食を食べて他の客や従業員との
歓談を楽しんだ後で、殺人事件の幕が切って落とされ、ある時点までに犯人と
トリックを見破れなければ犠牲者としてエンディングを迎えてしまう。
寄り道的なシナリオもいくつか含まれてはいるものの、基本的にストーリーは
このフォーマットを繰り返す為に、軽快にシナリオそのものが変化する弟切草
に比べるとどうしてもプレイヤーは同じ話を何度も繰り返して読まされること
になってしまう上に、もし購入して間もない段階で真犯人とトリックに気付い
てしまうとゲームの価値そのものが危うくなってしまう。
ゲームとして見た場合、弟切草の場合はまずシステムありきでその上にシナリ
オを乗せていた為、個々のシナリオに多少の出来不出来があったとしてもゲー
ムの価値そのものに大きな影響を与えることはなかったが、かまいたちの場合
は、ゲーム性のかなり大きな部分をシナリオに下駄を預ける形で作られている。
実はこの傾向は後に発売される「街」や「かまいたちの夜2〜監獄等のわらべ
歌〜」に於いてさらに顕著になっていくのだが、少なくとも、かまいたちの夜
の時点ではこれらの問題はクリアすることに成功したとおいらは思っている。

 勿論、シナリオの好き、嫌いに関しては個人差があるので、あまり面白いと
感じられなかったり、あっさりと犯人を見抜いてしまった人もいるかもしれな
いが、おいら個人に関して言えば、なかなか真犯人を見破ることが出来ず、そ
れが悔しくて何度もプレイを繰り返すことが出来たし、もっと言えば選択肢に
よる物語の広がりの中で、ゲームに登場するペンション「シュプール」の従業
員や他の客達に対してなんともいえない親近感を抱くことが出来、あたかもシ
ュプールの客の一人になったような感覚をさえ味わうことが出来た。


 さらに、早い段階で犯人を見つけてしまった場合にはどうするのか、という
構造的な問題に関しては、プレイヤーの予想を遥かに越えた量の隠しシナリオ
という形で答えてくれた。
このゲームはたとえ真のエンディングを見たとしてもそれで全てが終わるわけ
ではなく、ゲームでセーブデータ管理に使う「しおり」の色が変化することに
よって隠しシナリオへ繋がる選択肢が新たに登場するようになっているのだ。
この隠しシナリオに関しては、「推理もの」というかまいたちの夜の大前提を
あっさりを覆す全く異質なシナリオが描かれていると共に、それ迄の寄り道シ
ナリオとは違い、1本あたりのボリュームも充分に取られているので、これを
体験することによってゲームの価値を何倍も味わえうことが出来るという豪華
なものに仕上がっているのだ。
ピンクのしおりの存在は前作の「弟切草」にもあったし、かまいたち以前に発
売された他社によるサウンドノベル系ゲームでも半ば当たり前となっていたお
まけ要素だったが、かまいたちの夜で登場した隠しシナリオは「おまけ」以上
のボリュームを持っていたことに加えて、実はさらにその後にも「金しおり」
と呼ばれる真の隠しシナリオまで含まれていたのだ。
特にフローチャート機能のないスーパーファミコン版でこれらを見つけるのは
至難の技で、おいらは購入してかなり経つまでその存在すら知らなかった。


 おいらはゲームに限らず人間が「楽しさ」を実感する要素のひとつとして、
いい意味での「予想外の驚き」があると思っている。
そして「かまいたちの夜」はそんな驚きがたくさんつまったゲームだったのだ。



AXL 2003

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