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源平討魔伝



Media :アーケード、Family Computer,PC-Engine,Play Station,Windows等
Maker :namco
種 別:トップビュー&横スクロールアクションゲーム(ファミコン版以外)
    コンピューターボードゲーム(ファミコン版のみ)
発売日:1986年(オリジナル版)
1988年ファミコン版
    1990年PC-Engine版


 移植というのは考えてみれば罪な作業である。
ゲーセンが今よりずっと元気だった頃、ゲームの聖地はテレビゲームショップ
ではなく最新のアーケードマシンがずらりと並んだゲームセンターだった。

「ゲーセンのゲームを家でやりたい!」
それはゲーマー達の純粋且つ当然の願いだった。
こういう時代に家庭用のテレビゲーム機やパソコンを売る為には、「これがあ
ればゲームセンターのゲームが出来ますよ!」という言葉が非常に有効だった。
また、アーケードゲームメーカーにしても、台数の限られたゲームセンターで
はなくエンドユーザーに直接販売できるゲームソフトという分野は充分魅力的
だっただろう。

 そしてその歴史の必然が招いたひとつの悲劇に「移植」というものがある。
1980年代、アーケードゲームマシンと家庭用テレビゲームの間には埋めがたい
性能の差というものがあったのだ。
ファミコンは1983年に発売され1990年に発売されたスーパーファミコンの迄の
間、実は7年もの長きに渡って家庭用テレビゲーム機のスタンダードとして君
臨し続けたが、アーケードゲームマシンの方は数ヶ月単位で進化を続けてく。
日進月歩の勢いで開き続けるハード性能という現実の隙間をたった一言で埋め
る魔法の言葉、人はそれを「移植」と呼ぶ。


 源平討魔伝は1986年にnamcoからアーケード用ゲームとしてリリースされた
異色作品で、1192年平家を討ち鎌倉幕府を開いた源頼朝をラスボスに据え、平
家の視点から源氏を打ち滅ぼすことを目的としたアクションゲームである。

 主人公は頼朝も討つ為に冥土から復活した武者、平 景清。
ちなみにこの人は別名「悪七兵衛 景清」とも呼ばれた人物で、歌舞伎芝居
や落語などにもよく登場する人である。
史実によれば平家が滅んだ壇ノ浦の合戦の時、身を隠し、後に一人で頼朝の
首を狙って暗殺を試みるも失敗したらしい。
頼朝は景清の命を助けた為、「命を助けて貰った以上はもう貴方に復讐をす
ることは出来ない、しかし、源氏の世の中は見るのも嫌だ」と言って自ら両
目を潰して神社に奉納してしまったという、神社サイドから見るとかなりあ
りがた迷惑な人で、1196年に死亡している。


 そんなわけで、存命中は頼朝に復讐を果たすことはできなかった為に、死
後790年も経った1986年になって突如として日本全国のゲーセンに出没し念
願を果たさんと頑張ることになる。


 この源討魔伝は、ゲーム中に全方向スクロールのトップビュー、横スクロ
ールのサイドビューが混在しているだけではなく、ボス戦では横スクロール
画面が拡大されキャラが大きくなるBIGモードなるものが搭載しており、
中でも巨大なボスキャラ、武蔵坊との戦いの迫力は当時のゲーマーを驚かせ
た。

 アーケードで大ヒットした本作は当然のようにユーザーから家庭用ゲーム
機等への移植を希望する声が沸きあがり、アーケード版発売の2年後、1988
年になってファミコンへの移植版が発売された。


 ・・・・が、今にして思えば、それが本当の恐怖のはじまりだったのだ。
考えてもみて欲しい、BIGモードの、それも武蔵坊弁慶のグラフィックた
るや、90年代以降のスト2や飢狼伝説などの2D格闘ゲームにも引けを取ら
ないほどなのだ。
何をどうしたらそんなものをファミコンで動かせるというのか。

 ファミコンは国民的ゲーム機としての宿命上、数々の不可能だと思われた
移植を経験し、ある時は笑い、そしてまたある時は涙に濡れてきた歴戦のツ
ワモノだが、今度ばかりは相手が悪すぎた、当時中学生だったおいらの目か
らしたって移植できそうな気配がまるっきりしなかったのだ。


 しかし、それでもおいらはファミコン版に半信半疑ながらも期待をしてい
た。実はこのゲーム、硬派な見た目通りなかなかに難易度の高いゲームの上、
人気作だった為にゲーセンに置いてある時はなかなか遊ぶことが出来なかっ
た。当時は少なかった歴史もの、ということもあり、止せばいいのに小遣い
を貯めて発売を待ってしまったのだ。


 購入したゲームの箱は物凄く大きかった。
いや、他のゲームに比べて・・・などという生易しい話ではなくて、凡そフ
ァミコンゲームとしてはあり得ないような大きさでだったのだ。
手にとってみると、その重さや感触から中にはゲームソフト以外のものが入
っていることはすぐに分かったが、その時はまだ「これはお得だな」程度の
呑気なことしか考えていなかった。


 ・・・中からすごろくシートが出てくる迄は。
そう実はこのゲーム、アーケード版の超絶なクォリティをファミコンに移植
することをはじめから断念し、ボードゲームとして移植されたのだ。
「移植されたのだ」はいいがひとつひっかかるのは、元になったゲームは当
然ボードゲームなどではないので、この時点で既に移植ではない、というこ
とが言える。

 これはどういうことか、と言うと、例えばゲームショップに行ってPS2
本体を購入し、家に帰って開けてみたら中からはセガ・マーク3が出てきた
ようなもので、なんというか、はっきりいって詐欺ではないか。


 考え見ればこういうアレンジ移植の域をはるかに超えた詐欺移植ものは他
にもあり、同じナムコのスプラッターハウスなどもファミコン版はオリジナ
ルのスプラッター映画さながらの硬派でドロドロの雰囲気はどこへやら。
タイトルからして「スプラッターハウス わんぱくグラフティ」という日本
語に訳すと「血まみれ館 わんぱく落書き」などという、アンタ、アタイを
どうするつもり!?とでも言いたくなるほどテキトーなものになってしまっ
ている。


 しかし、それでもこのファミコン版源平のやる気の無さにはかなわないだ
ろう、大体このゲーム、テレビゲームの癖に「二人用」なのだ。
すごろくボードがついてきた時点である程度は予想していたものの、一人で
は基本的にゲームにならず二人以上の人間が集まってはじめて遊べるような
シロモノになっているのだが、「よし、これからじっくり源平だ!」と意気
込んでショップから帰ったおいらの周りに友達なんかいるはずもなく、かと
いって一人ではゲームにすらならない。

 なんというか、食べきれないほどのご馳走に囲まれていざ食べようとした
ら夢から覚めた・・・そんなゲームだった。



AXL 2003

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