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ファザナドゥ

Media :Family Computer
Maker :HUDSON SOFT
種 別:アクションRPG
発売日:1987年


 思えば、おいらは物心ついた時からひねくれ者であった。
人間にはよくも悪くもコダワリというものがあって、場合によってはそれが頑
固、片意地と映ったり、職人気質と映ったりするわけだが、おいらの場合生ま
れ持ってのマイノリティ気質とでもいうのか、野球や運動、勉強といったメジ
ャーな才能がないので、逆に「人と一緒はイヤだ、おいらは人とは違うんだ!」
とどんどんひねくれてしまい、まあ、今にして思えば自意識過剰にして小賢し
い少年時代を地味に送っていたのである。

 たまたま、ファミコンが流行する前におもちゃ屋のにーちゃんの助言に従っ
て購入していたおいらは、数年後、少年達の間にファミコンブームが訪れると、
自分がその先駆者であったことを喜ぶどころか、露骨に嫌な気持ちになった。
自意識過剰にして小賢しい子供にとっては往々にあることで、「自分がひっそ
りと楽しんでいたのに! みんなは昨日まで見向きもしなかったのに!世間は
ケーハクだ!」などと一人でぷんぷん怒りはじめ、「ファミコン」という安易
な略語を良しとせず、清く正しく「ファミリーコンピュータ」と呼び続けてい
たのだが、ファミコンブームは一向に衰える様子がなく、おいらは早々にファ
ミコンに見切りをつけ(とはいっても別に本体を仕舞ったわけでもソフトを買
わなくなったわけでもないのだが)、パソコンの世界に羽ばたいていったのだ。

 パソコンによってRPG、アドベンチャー、シミュレーションなどの当時ま
だほとんどファミコンには登場していなかった新ジャンルのゲームの存在を知
り、「うーん、やっぱパソコンはスゲエや!ファミコンなんかコドモのおもち
ゃだ!」などと一人で悦にいっていた。
勿論、全てのパソコンゲームが「スゴ」かった筈はなく、中には全く「スゴ」
くないゲームも多く含まれていたのだが、そういう場合、おいらはこれを楽し
めない自分の方が未熟なのであって、もっと大人になったら本当の良さが分か
る筈だ!と強引に自分を納得させていた。

 当時のおいらにとっては、ファミコンを捨ててきた(心情的にそう思おうと
していただけで、ちゃっかりゲームは買っていた)以上、パソコンゲームがフ
ァミコンゲームよりつまらないなどということはあってはならないことだった
からだ。

 しかし、1986年頃から状況は一変しつつあった。
ディスクシステムや大容量ROMなどの登場により、それ迄到底不可能だと思わ
れていた有名パソコンソフトのファミコンへの移植が目立つようになってきた
のだ。

 思えば、その第一弾は「ポートピア連続殺人事件」だったかもしれない。
ポートピアは堀井雄二の本格推理アドベンチャーゲームであり、国産のアドベ
ンチャーゲーム黎明期における一つの金字塔である。
パソコンを買う前から、近所の大型電気店のパソコンフロアに入り浸っては、
未知のパソコンソフトのパッケージを眺めては様々な想像を巡らせる割に何も
買わない迷惑な客であったところのおいらが、コーエーの団地妻の誘惑と共に
何年も前から憧れ続けたタイトルだったのだ。

 ポートピアがファミコンに移植されると聞いた時のおいらの落胆はひどいも
のであった。
それ迄は自分だけのもの(?)であったゲームがファミコン大好きっ子の手に
渡りしたり顔でポートピアを語られるなど想像しただけでも虫唾が走る思いだ
ったのだ。

 とはいえ、実はファミコン版ポートピアが発売された時点ではおいらはまだ
パソコンを購入しておらず、何年も前からゲームのパッケージに対してストー
カー行為を繰り返していたとはいうものの、必然的にプレイ経験もなかったの
で、ぷんぷん怒りながらもナゼか発売日にファミコン版を購入し、清く正しく
遊び倒してしまったという無責任な過去を持つオトコでもあるのだ。


 後でMSXのテープ版を購入して遊び比べてみたところ、実はポートピアに関し
てはファミコン版の方が数段優れていた、という悲しい事実に気付いてしまっ
たのだが、それにしても、パソコンユーザーしか知らなかった有名タイトルが
次々にファミコンに移植されていくというのは、パソコン贔屓だったおいらに
とっては面白くない話であり、仮に主だった有名パソコンゲームが全てファミ
コンに移植されてしまったら、高い金を払ってパソコンを買ったおいらがバカ
みたいではないか、と思っていた。

 実は実際に発売されたものの他にもあの当時、「発売予定」のラインナップ
に掲載されていたパソコンからの移植ソフトはかなりの数にのぼっており、そ
の中にはなんとスクウェアのアニメーション・アドベンチャーゲーム「アルフ
ァ」やエニックスの「ウィングマン」なども含まれていた。

 そんな中で、ついに「ファザナドゥ」は発売された。
言うまでもなく国産パソコンRPGでハイドライドと並ぶ超人気タイトル「ザナ
ドゥ」のアレンジ移植版である。
おいらの記憶なので確かなことは言えないが、このタイトルは最初から「ファ
ザナドゥ」という名前で告知されていたわけではなく、発売予定の段階では単
に「ザナドゥ」となっていたように思う。

 オリジナルタイトルの「ザナドゥ」に恐らくはファミコンの意であろう「フ
ァ」を付けて「ファザナドゥ」ということなのだろうが、この「ファ」には実
に大きな意味があったような気がする。
内容はアクションRPGだが、オリジナルのザナドゥとは殆ど関連がなく、ストー
リー、システム共に独自のものとなっている。
世界樹を中心とした世界で、魔王を倒し、世界を救う為に旅に出る主人公・・
・・という筋書きで、全体的にRPGというよりはアクションゲーム寄りの仕上が
りになっている。

 このゲームは、期待の大作といわれながらあっという間に販売価格が急落し
たソフトとしても知られており、いわゆる「名作」「佳作」と呼ばれる種類の
ゲームではない。

 その最たる理由は何といってもオリジナル版とのギャップだろう。
「ファ」付きとはいえ「ザナドゥ」を名乗っておきながら、蓋を開けてみれば
「ザナドゥ」とは全くこれっぽっちも何の関係のないゲームなのだ。
その為、オリジナル版のユーザーは元より、パソコンを持っていなくても雑誌
などでオリジナルを知り、期待していたユーザー達に文字通り総スカンを食っ
てしまった形となったのは言うまでもない。

 特にザナドゥのような伝説的ゲームともなればコアなファンも多く、その「
怨念」たるや凄いものがあっただろう。

 また、ザナドゥを知らない純粋なファミコン少年達にとっては、恐らくはハ
イドライド・スペシャルと同じくとっつきの悪いゲームに映り、これはこれで
あまり評判はよくなかった。


 おいらの場合、ファザナドゥ発売に関しては、ポートピアの時ほどの関心は
持っていなかった。
既にもう一方のパソコンRPGの雄、ハイドライドもファミコンに移植されてしま
っていたし、そもそもおいらはザナドゥというゲームに対して、いまだに言う
に言われる苦手意識というか、羨望の思いといおうか、おさげ髪を後ろから引
っ張ってしまいたいような、言うに言われぬ複雑な思いを抱えるオトコであり、
その意味で「ザナドゥ・ファン」とは違った視点から「ファザナドゥ」という
ゲームを見ていたからだ。


 おいらが「ファザナドゥ」を購入したのは、中古でかなり安くなってからの
ことで、結局、クリアもしていないし、正直それほどやり込んだ記憶もないの
だが、その独特なグラフィックや世界観だけはイメージとして今も強烈に残っ
ている。

 オリジナル版では二頭身で描かれ、キャラクターというよりは一種のシンボ
ルに近かった主人公が五頭身くらいの(ファミコンとしては)緻密なグラフィ
ックで描かれ、当時のファミコンとしては珍しく漢字の混じった綺麗なフォン
ト(ただし文字はやたらとデカい)でメッセージが表示され、オリジナル版ザ
ナドゥでも売りの一つだった「デカキャラ」(ボスのキャラクターは主人公の
何倍もある巨大なものを採用し、しかもそれがちゃんとアニメーションで動い
ていた)さえもファミコンでちゃんと表現しているのだ。

 確かにザナドゥとは全く違ったゲームではあった。
しかし、変な言い方になるが、この「ファザナドゥ」というゲームはファミコ
ンでありながら、その独特な世界観、グラフィックなどから普通のパソコンR
PGよりもよっぽど「パソコンRPGっぽい」ゲームだったとおいらは思うの
だ。
これはおいらの勝手な推測だが、ザナドゥの完全移植、もしくは忠実な移植が
ハードの特性上不可能である以上、ユーザーがイメージとして持つ「パソコン
ゲーム」という雰囲気を最大限表現することで、「それっぽさ」を出そうとし
ようしたのではないかと思っている。

 1990年代はじめから徐々に衰退していったパソコン専用ゲームの世界。
現在僅かに残っているそれらはパソコンの表現力の向上と、恐らくは移植作業
の簡略化の為に見た目はコンシューマー用のゲームとほとんど違いがなくなっ
てしまっているが、おいらが少年時代に憧れたパソコンゲームという世界が持
っていた独特の匂いというかエッセンスのようなものを、最も色濃く体現して
いたのは、皮肉なことに家庭用ゲームだった「ファザナドゥ」だったのかもし
れない。



AXL 2003

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