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「ウォーリィ」

Media :MSX等
Maker :MICRO CABIN
種 別:テキスト入力型アドベンチャーゲーム
発売日:1985年


 今の子供達もやっぱりゲームに対して「必死」なのだろうか?
おいらの頃はゲームそのものの難易度や形態も変わってきているので、一概に
は比べられない、とは分かっているものの、こうして昔のゲームのことを考え
る時、最初に浮かんでくる疑問は大抵これである。

 少なくとも、おいらの少年時代は「かなり必死」だったような気がする。
今になって冷静に考えてみれば、所詮は遊びなのだから適度に楽しめれば充分
の筈なのだが、当時のおいら達にとって新しいゲームとの出会いは例外なく「
勝負」であり、友達より良いスコアを出せるか否かは、プライドの賭かった大
問題だったのだ。

 ゲームをクリアしたからといって、親に褒められるわけでも将来、有利な就
職ができるわけでもなく、稀にゲームメーカーから「終了認定証」を貰える程
度のこと過ぎなかったが、ゲームにのめり込んでいたおいらや友人達は「シュ
ーティングゲームがうまくなれば次元大介並の反射神経を持つオトコ」になり、
「アドベンチャーゲームをクリアできれば将来は探偵になれる」と半ば本気で
思い込んでいた。

 こういう時代の空気のようなものがあったからこそ、高橋名人は子供達のア
イドルとなり得、ゲームセンターあらしやファミコンロッキーといった亜熱帯
の国で食べる激辛レトルトカレー「Lee20倍」のような熱い漫画が支持された
のではないだろうか。


 さて、今回紹介する「ウォーリィ」というゲーム、はっきりいってかなりマ
イナーである。
内容は「ミステリーハウス」の流れを汲む「お屋敷探索型アドベンチャーゲー
ム」というかなりクラシカルなもので、システムもキーボードから直接文字を
打ち込むテキスト入力方式を取っている。
ゲームのストーリーなど詳しいことは忘れてしまったが、プレストーリーはと
ある屋敷に宝物が隠されていて、それを見つければクリアといういたってシン
プルなものだが、"Worry"(悩ましいの意)というだけあってその分難易度はか
なり高い。

 実はこのゲームは友人が購入したもので、おいらはもっぱら彼の横であーだ
こーだと無い知恵を振り絞っていただけで、そういう意味でも気楽な立場でこ
のゲームに接することができたが、持ち主である彼のこのゲームに対するのめ
りこみ様はかなりのものがあった。

 コマンド選択型が当たり前になってしまった現在のアドベンチャーゲームか
らは想像がつかないかもしれないが、そもそもテキスト入力型アドベンチャー
ゲームには「総当り」という手段が取れない。
コマンド選択型であれば、その時に選択可能な選択肢を総当りで全て選べば、
基本的にはその内のどれかに「当たり」が入っているので、先に進むことは出
来る筈(一部、正解となるコマンドを複数回連続で入力しないとフラグが立た
ないなど総当り対策を取っている作品も存在するが)だが、テキスト入力型ア
ドベンチャーゲームの場合、プレイヤーの想像力次第で事実上コマンドの候補
となる言葉は無制限に存在する為、難易度(というより「進めにくさ」)は飛
躍的に高くなってしまう。

 例えば、テーブルの上に花瓶の絵が描いてあるとして、その花瓶を動かした
い場合、「カビン ウゴカス」と入力するのが一般的だが、花瓶に該当する名
詞が「カビン」ではなく「ハナサシ」(花刺し)だとか、「ハナタテ」(花立
て)としてプラグラムされていた場合、「カビン」には反応してくれない。
その上、この時代のコンピュータのグラフィック性能の問題から、低解像度の
機種のゲームの場合、「画面に何かが描いてあるのは理解できるものの、厳密
に何が描いてあるのかは理解できない」というケースすら存在して、ただでさ
え進めにくいシステムだった上に、この「ウォーリィ」や高難易度を宣伝文句
にしていた「マスカレード」(スタークラフト)あたりになるとかなり手がつ
けられない様相を呈してくるのだ。


 おいらはエニックスのウィングマンですら、半年以上もクリア出来ず、どう
してもコマンドの分からなかった最後のシーンは結局、雑誌の「山下章のレス
キューAVG&RPG」というコーナーでカンニングをしてクリアしたような
ヒトなので、このゲームと正面衝突するような機会があってもきっと清く正し
く投げ出していただろう、と思うのだが、友人はその点オトコだった。


 おいらが遊びに来ている時は勿論、恐らくは夜も一人でコツコツとゲームを
進め、なんとか自力で中盤くらいまでは進めていったのだ。
それでもどうしても分からないところがあったらしく、ある朝、教室に姿を現
した彼は鎮痛な面持ちでおいらにこう相談をもちかけてきた。

「これ以上はもうどうにもなんないし・・・オレ、アレを使おうと思うんだ。」

 彼のいうアレとは「ヒント請求券」である。
これまた現在のゲーム事情からは考えられないことだが、当時こういった高難
易度ゲームには大抵、マニュアルに「ヒント請求券」なるものが付いていた。
早い話が、これをハガキに貼って送るとメーカーからヒント集が送られてくる
ユーザー救済用のアイテムなのだが、このヒント券にも二種類あって、一つは
具体的に自分がどこで詰まっているのか、といった詳しい状況を書き添えてヒ
ントを請求するタイプ。
このタイプの場合、信じられないことだが、メーカーの人がちゃんとケース・
バイ・ケースのアドバイスを手書きで返信してくれるのだ。
また、このタイプの場合は、ヒント請求権が3枚くらいついているのが普通で、
つまり、ユーザーは三回までは「天の助け」を期待できるようになっている。

 もう一つはヒント請求権が一枚しか付いていないもの。
この場合は、具体的な状況などは書く必要がない代わりに、送られてくるのは
予め用意されていた「ヒント集」で、基本的に詰まり易い箇所の対処法が書い
てある、いわばメーカー製の攻略本のようなものだ。

 こんなものがあるのだから、彼ももっと早くヒントを請求すれば良さそうな
ものなのだが、「終了認定証」を発行してくれるタイプのゲームの場合は、ヒ
ント券を行使してしまうと同時に「終了認定」を受ける資格もなくなってしま
うのだ。
この「ウォーリィ」が、終了認定証を発行するタイプのゲームだったかどうか
は定かではないのだが、そうでなくても、当時の彼は一時的にせよこのゲーム
に人生を賭けている節も見受けられた為、ヒント券に頼る、というのは苦渋の
決断だったに違いない。


 それから、二、三週間経ったある日のこと・・・。
「ヒント集、来たよ!!」
その時の彼の満面の笑顔をおいらは一生忘れないだろう。

ヒント集を頼りに再び攻略を再会した彼は、その後一週間くらいは、ニコニコ
とおいらにウォーリィの冒険談を語ってくれたものの、ついに終盤近くに差し
掛かり、ヒント集でも触れられていないところでまたしても詰まってしまった
彼は、再び斜陽のヒトと化してしまい、「ウォーリィ・・・ブツブツ」「あそ
こで・・・これを・・・」などの比較的意味不明な独り言が目立つようになっ
てしまったが、そんな彼に再び運命が微笑みかけた。


 それは別の友人が読んでいたパソコンゲーム雑誌(確かコンプティーク)の
存在だった、その雑誌にたまたま「ウォーリィ」の攻略記事が掲載されていた
のだ。
インターネットはおろかパソコン通信すらなかった時代、ゲームの攻略情報は
専門誌の情報に頼る他はなく、それとてもとても全てのゲームをフォローして
くれるわけではないので、ウォーリィのような比較的マイナーなゲームの攻略
情報を入手する機会は限りなく少ない。

 彼は雑誌を持っている友人にウォーリィの攻略ページだけを切り取って、譲
ってくれないか?と話を持ちかけ、渋る友人を対価100円を支払うことで納
得させると踊るような足取りで家に帰っていったのだ。


「ウォーリィ、クリアできた?」

 翌日、期待に胸を躍らせてそう話し掛けたおいらに彼は力なくこう答えた。
「あすこに書いてあったこと・・・全部知ってたよ・・・」

 ウォーリィにのめり込み、三度絶望のどん底に叩き込まれた上に、全財産
(100円)すらも失った彼はもはや見る影もなかった。



 結局、その後彼から「ウォーリィをクリアした」という話を聞くことはなく、
中学卒業とともに音信も絶えてしまったが、果たしてその後、彼にゲームの女
神は微笑んだのだろうか?



AXL 2003

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