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「黄金の羅針盤」

Media :PC-98,Windows 95
Maker :リバーヒルソフト
種 別:推理アドベンチャーゲーム
発売日:1990年


 2001年5月現在では、リバーヒルソフトによる本格アドベンチャーゲーム、
最後の1本となる。
リバーヒルソフトのアドベンチャーゲームといえば、J.Bハロルドシリーズが
有名だが、J.Bシリーズと平行して、大正時代の日本を舞台に、私立探偵藤堂
龍之介が活躍する"1920シリーズ"というものがあり、全2作がリリースされて
いる。

 冒頭に本格アドベンチャー最後の1本と書いたが、厳密にいうと、1995年頃
にWindowsパソコンとPS,サターンなどに「ブルーシカゴ・ブルース」というJB.
ハロルドものがリリースされているが、個人的には、これはJ.Bシリーズに入れ
て欲しくない。
ブルーシカゴブルースは、実写ムービーをふんだんに使い、Windows版ではCD-
ROM6枚組という驚異的な大容量のゲームとなったが、ゲーム内容では、1作目
の殺人倶楽部にも遠く及ばす、スカスカの薄っぺらいシナリオが、ファンの不
評を買ってしまった。


 さて、肝心の黄金の羅針盤を簡単に説明すると、舞台となるのは、大正時代、
サンフランシスコを発って目的地の横浜へと向かう、豪華客船翔洋丸の中で、
デッキの樽の中から人骨が出てきたのを偶然乗客が発見したことにより幕を開
ける。

 プレイヤーは偶然翔洋丸に乗り合わせた若き私立探偵、藤堂龍之介として調
査を依頼され、やがて船上で次々に起こる連続殺人の謎に挑むこととなる。

 システムは、実際に翔洋丸が描かれているマップ上を移動して操作を行うタ
イプで、非常に不本意な言い方をすれば、あの「ミシシッピー殺人事件」に似
ていなくもない。
しかし、別に部屋に入った途端、落とし穴にはまったり、毒矢が飛んでくる心
配はないのでゆっくりと捜査を進めることができる。

 ゲームの進行と共に翔洋丸は少しづつ横浜に近づくという演出になっており
ゲームクリア後、横浜についた乗客たちが見たものは・・・という、ちょっと
だけ近代史の勉強にもなる展開があるのだが、その辺は実際にプレイして確か
めみて欲しい。

 ところで、同じリバーヒルのJ.Bシリーズと比べると1920シリーズは舞台が
常に閉塞された空間に設定されている、という大きな特徴がある。
この黄金の羅針盤では、翔洋丸という客船の中だけでゲームが進行し、当然な
がら船の外に出ることは出来ない、前作の「琥珀色の遺言」でも、舞台は琥珀
館という洋館の中だけに限定され、琥珀館の外に出ることは出来ない。

 J.Bシリーズがマンハッタンやワシントンなどの都市の中を自由に移動でき
たのに対して、1920シリーズは敢えて閉塞した空間を舞台にし、その中で一層
複雑に絡み合う人間達の愛憎を描いている。
特に、登場人物の殆どに血縁関係があった琥珀色の遺言では、その特長が顕著
にあらわれていた。
個人的な好みの問題だが、おいらとしては、後者の方がより「ツボにハマって
しまう」のである。

 また、大正時代という、ある意味では日本が今よりも遥かに西洋に感化され
ていた時代を舞台にしているだけあって、ディティールにも徹底的に凝ってい
る、このゲームのお陰でおいら自身、かなりその時代に感化されてしまい、「
古いもの大好き!」という若者らしくない嗜好により一層磨きがかかってしま
った、というどうでもいい影響をも及ぼしている。



 さて、このゲームに登場する豪華客船「翔洋丸」惚れ込んでしまったおいら
は、勿論、ゲーム中に登場する翔洋丸は架空の客船に違いないだろうが、翔洋
丸のモデルとなった実在の豪華客船は存在するのではないだうか?という事に
気づいた。

 ゲーム中で語られる翔洋丸という船はいくつかの比較的特定し易い特徴を持
っていた、まず日本が世界に誇りうる最初の豪華客船である、ということ、ゲ
ームの舞台となっている大正後期には既に翔洋丸は老朽船になりかけているこ
と、そして最後に横浜サンフランシスコ間に就航している、ということである。

 これらの条件を元に検索してみたところ、東洋汽船の「天洋丸」という豪華
客船が存在したことをつきとめることが出来た。
「天洋丸」は、1908年(明治41年)に就航し、「天洋丸級」と呼ばれる2隻
の同型船(地洋丸、春洋丸)と共に、日本が最初に世界に誇り得る豪華客船と
してデビューしている。

 また、天洋丸はパーソンススチームタービンを採用し、日本の客船として初
めて重油が用いられた船でもあるらしい。
バーソンスチームタービンとはなんなのだ?と言われても困るので、「言葉の
意味はよくわからんが、とにかく凄い自信だ!」と思っておこう。

 次に、居間、寝室、浴室をワンセットにした特別室や、ラウンジを日本の客
船として初めて取り入れたのも天洋丸である。
翔洋丸の特別室もこれと全く同じ構成であり、ラウンジも存在しており、また、
室内装飾にアールヌーボーが採用されている点も翔洋丸と同じである。

 この天洋丸が翔洋丸のモデルとなったとするもう一つの根拠は、天洋丸を所
有する汽船会社と、その創業者の生き様があまりにもゲーム中で語られるそれ
と酷似している点である。

 ゲーム中に登場する翔洋丸を所有する船舶会社、亜細亜汽船は、創業者が裸
一貫で築いた船舶会社だという設定になっているが、天洋丸を所有していた東
洋汽船の創業者、浅野總一郎氏も若い頃に何と5回くらい無一文になるという
凄まじい人生を背負いながら明治29年、49歳の時に東洋汽船を設立してい
る。

 ところで、現実の天洋丸だが、1926年(大正15年)3月付で、船籍を東洋汽船か
ら日本郵船に移し、1933年(昭和8年)に解体されている。

 ゲームの舞台となったのは、1923年(大正12年)のことである。





AXL 2001

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