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「維新の嵐」

Media :PC98,PC88VA,PC88SR,Family Computer,PlayStation,SATURN等
Maker :コーエー
種 別:シミュレーションゲーム
発売日:1988年


 唐突だが、おいらは殊パソコンに関してはある時期まで極端なハイエンド至
上主義者だった。
それは、インベーダーゲームでビデオゲームの洗礼を受け、ギャラクシャン、
ゼビウス、グラディウスと文字通り日進月歩の急激な進化を目のあたりにして
きた、ということや、最初に買ったパソコンがMSXで、特に一枚絵が命のアドベ
ンチャーゲームではグラフィック機能が貧弱な為に他の8bitパソコンに比べて
非常な辛酸を舐めさせられてきた、という経験により培われてきたものではな
いかと思っているのだが、とにかくパソコンは性能がいいのが一番、サイズ優
先で機能縮小のノートパソコンなど話にならないし、携帯電話なんかでゲーム
をするくらいなら、ホームページの好きなアーティスト欄に「虎舞竜」と書い
た方がマシ(ファンの方、ゴメンなさい)というような極端に偏った思想を持
つおヒトへと成長してしまったのだ。


 今にして思えば、この頃のおいらはかなり純粋におバカなおヒトで、PC98全
盛の頃に性能だけに全てを賭けてFM-TOWNSをローンで購入してしまったり、19
95年頃には、4年ローンで合計100万円のカスタムメイドPCを購入してしまう、
という間抜けなことをしてしまった。
ちなみにこれがどういうスペックであったかというと、CPUがペンティアムの
133MHZでメモリーが32MB、ハードディスクは2GBというはっきりいって今なら
中古で5000円もしないようなしがないパソコンだったわけで、この時の痛手に
より、最近はやっとハイエンド至上主義も直ってきたが、そんなおいらが高校
生になったばかりの頃、後のハイエンド至上主義を決定づけることになったの
が、今回紹介するゲーム「維新の嵐」の発売だった。


 このゲームが発売されたのは、1988年のこと。
80年代を代表するホビーパソコン、PC88シリーズの歴史も後期にさしかかった
頃ではあったが、まだまだパソコンゲームの方では現役で、ゲームはまず88か
らという風潮のあった頃に、敢えてPC-98専用として発売されたコーエーの新作
シミュレーションゲームだ。

 しかも、それ迄コーエーが販売してきた国盗りシミュレーションとは完全に
一線を画し、佐幕、尊王に揺れる幕末を舞台にそれぞれの立場や思想で雄藩や
実力者達を説得していき、自分の望む新時代を切り開くといった内容となって
いる。
尚、現在では大航海時代や太閤立志伝などの方が遥かに有名になってしまった
が「リコエイションゲーム」(コーエー独自のジャンルで、シミュレーション
要素とRPG要素をブレンドさせ、何度でもプレイ可能にしたゲーム)の第一作は
本作となっている。


 パソコン雑誌でこのゲームの発売予定を知ったおいらの胸はときめいた。
何といっても「説得を手段として世の中を動かす」というのが凄い。
言っている意味が全く分からなかったが、少なくともそれ迄コーエーが作っ
てきたゲームの「戦争」とは全く違った方法論だったのは確かだ。
掲載されているゲーム写真を見ると座布団に座った坂本竜馬と西郷隆盛が交
互に口からエクトプラズムとしか思えない「何か」を吐きまくっているのが
少々気になったが、とにかくこれは何だか凄いことになっており、非常に面
白そうだ、というのがおいらの第一印象だった。
それに、システムの問題以前に、おいらは個人的に「明治維新」というもの
に非常な興味を持っていたのだ。

 実をいうとおいらの政治思想というようなものは、未だに「佐幕」のまま
で、イラク戦争で反米の機運が高まっている今日この頃にあっても、おいら
のアメリカ嫌いの根本的な原因は「ペリー来航」に根ざしたままなのだ。

 勿論、維新の嵐では維新断行派の西郷隆盛や桂小五郎だけではなく、近藤
勇や松平容堂といった佐幕派の人々も使用可能で、彼らを使っておいらが長
年夢見てきた「真の日本の夜明け」というようなものを実現することができ
るのだ。

 即座に「これは欲しいっ!」と思ったおいらではあったが、先ほども書い
たようにこのゲームはPC98専用。
当時おいらが持っていたPC8801mk2FRではいかんともしがたかった。
さりとて高校生の身ではPC98を買うこともできず、しばらくはパソコンショ
ップで、98専用の「維新の嵐」のパッケージを恨めしげに見つめるという地
味な日々を過ごしていたが、それでもその頃においらはまだ余裕というもの
を持っていた。

 何故なら当時のPCゲームの主流はPC88であり、ゲームのボリュームや、対
象となるユーザー層(当時のPC98の主なユーザ層はビジネスマンをはじめと
する中高年だった)の問題からPC98版で先行発売されることがあったとして
も、ある程度以上のネームバリューを持つソフトであれば必ずPC88版が発売
されるという当時の空気は充分知っていたし、パソコンショップの発売予定
表にも発売時期未定ながらもちゃんと"PC88版"の維新の嵐がラインナップさ
れていたからだ。

 しかし、それからしばらくしておいらはとあるパソコン雑誌で驚くべき現
実と正面衝突せざるを得なかった。
発表された88版「維新の嵐」はPC-88VA専用のだ。


 PC-88VA、それはPC88全盛期にはかなく散っていった薄幸の上位機種。
発売された時期が、シャープのX68000発売からしばらく経った頃だった為、
NECがX68に対抗すべく発売したマシンだと当時のおいらは読んでいたが、そ
れにしては機能的になんとも中途半端なもので、下位互換を持つPC88シリー
ズのソフト資産が使えるメリットがあるにしても、88よりは高機能だが、ビ
ジネス機として考えれば98には劣り、ホビー面でもX68に二三歩引けをとる、
というような機種で、VA2,VA3を発表後、春の夜の夢の如く「なかったこと」
になってしまったが、その薄命ぶりは、後にNECがコンシューマー市場で発表
することになるPC-Engineの上位機種、スーパーグラフィックスになんとなく
似通った部分のあったマシンである。


 ところが、よりにもよって維新の嵐がVA専用として発売されるというのだ。
これはやはり冷静になって考えてみると、VA専用ソフト充実に力を入れていた
であろう、NECの思惑というようなものも充分考えられるのだが、当時のおい
らにそこまで分析する余裕はなく、単純に「維新の嵐はものすげーゲームだ
から8bit風情のマシンでは無理なんだ!」と理解してしまった。


 これにより、おいらは約1年後にPC98を購入し、さらにその2年後には、98
のグラフィック性能に「よく考え見れば特にこれといた根拠のない不安」を抱
いてFM-TOWNSを購入してしまうことになるのだが、それは後のこと。

 結局、紆余曲折を経ておいらが最初に手にした「維新の嵐」はVAよりさらに
遅れて発売されることになったPC88SR版だった。


 PC-98版と88版の最大の違いは、このゲームのキモである「説得システム」で
PC-98版がエクトプラズム・シューティングとでも表現すべきアクション要素の
強いシステムだったものが、相手の気分に応じて話題を変更するというカード
ゲーム的要素の強いものになっている。
プレイヤーは、時代毎に分けられたシナリオ、登場人物を選び、主人公の思想
による全国統一を目指すこととなるのだが、思想は国体思想と国外思想の二つ
に分かれており、国体思想は、佐幕、公武合体、尊王の三種類、国外思想は攘
夷、開国の二種類が容易されている。

 説得を行うことにより、敵対する思想の要人を自分と同じ思想にすることで
同士を増やし、最終的に日本全国を思想統一することが目的となっている。

 面白いのは、攘夷、開国の国外思想に関しては主人公の思想が変化しても問
題ない、という点で、はじめは攘夷・佐幕という思想を持っていた主人公が開
国・佐幕になることもある。
ただし、国体思想が変化した場合は、その場でゲームオーバーとなるので、坂
本竜馬で幕府軍プレイをするようなことは出来ない。


 最初に雑誌の記事を見て「欲しいっ!」と思ってからかなり時間は経ってし
まったものの、やっと手に入れた「維新の嵐」をおいらは遊び倒した。
身分も同士もいない主人公が説得を行うことにより、遥かに自分より身分の高
い同士を得て、同士のコネを利用して幕府の要職についたり他藩の実権を握れ
るのは非常に新鮮で面白かったのだが、このゲームの欠点として、例えば全国
に散らばっている大名を一人づつ説得していこうとすると、ある地点まで来た
時に最初に頃に説得した筈の大名が、また別の人間に説得されてしまい、思想
が元に戻ってしまうことがあるのだ。

 その為、二度手間、三度手間を覚悟し、どうしても言うことを聞かない奴に
は武力制圧という最終手段も用いつつ、ついに佐幕思想での統一に成功したも
のの、エンディングが、「幕府軍が勝ったには勝ったけど、ホントにこれで大
丈夫かなぁ?」というようなかなり歯切れの悪いニュアンスを含んだメッセー
ジが表示されてしまい、維新を成功させた場合の華々しいエンディングに比べ
るとかなりぞんざいな扱いになっていることに気付かされるのだった。



AXL 2003

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