ニューヨークの例の停電は予想以上にすさまじいものとなった。テレビで見た情報だけなので詳しくはいえないけれど、一晩中暑苦しい暗闇の中ですごさなければならない市民の不安は底知れないものがあるだろう(たとえ9・11を経験したとしても)。この停電をに関して私が改めて確信したことは、都市というのは本当にもろいということである。いったん停電になると全ての都市機能が麻痺してしまう。いかに人々が電気に頼り切っているかがよくわかる例であろう。
私は停電というと往年の名作漫画『スケバン刑事』の中の、信楽老と青狼会によるクーデター・グランドスラム作戦を思い出す。グランドスラム作戦は、停電による都市機能の麻痺を利用したクーデターというのを幼少の私に教えてくれたからだ。
8月20日の東京は連日の猛暑だった。必然的にクーラーの需要が多くなったのに加え、高校野球の決勝戦や人気アイドルのコンサートの中継もあってテレビの視聴者数も増えていた(おまけに電力を大量に食う特殊なテレビが売れに売れていた)。結果、電力不足によって東京一帯が停電に見舞われた。おまけに鉄道・道路などの交通機関を麻痺させて一般市民がパニックに陥っていたところに、青狼会がクーデターを仕掛けるというのが、グランドスラム作戦の大まかな流れである。
グランドスラム作戦……というより大停電を起こすために信楽老と青狼会は多大な準備をしている。
人気アイドルをわざわざ作って、しかも地方営業を優先させて東京のファンに飢餓感を与え、8月20日の初の東京(当時の後楽園)コンサート中継によってその飢餓感を爆発させる。
全国から人気選手を引き抜いて最強の高校野球チームを作り上げて、8月20日の決勝戦では、12-0で相手チームに大量リードさせておきながら9回裏でそれを一気にひっくり返すという視聴者の目を引くような凄い試合をしてみせる。
クーラーだけではなくてテレビを使わせるというアイデアは、今から見ても凄いと思う。発電所などの電力施設を直接攻撃するのではなく、「需要過剰による停電」を狙ったものとして、グランドスラム作戦はいつまでも私の心の中に残るだろう。
さて、話は元に戻るが、グランドスラム作戦が頭にあったから、今回のニューヨークの大停電の最中にまたテロが起こるのではないかと私は思っていた。東京電力の一連の不祥事で東京が停電になるかもしれないというニュースを聞いたときは、これに乗じてクーデターが起きると思っていた。
都市というのは電気が無くなっただけで、簡単に息の根を止められてしまうもろいものである。一般市民はこのことをわきまえた上で、たとえ停電になっても冷静に対処できるようになりたいものである。そういう意味で、停電になっても特に騒がなかった市民の映像を見て私はほっとした。