その三、寮編。

現在滞在している寮は、キャンパスから電車とバスを乗り継いで、順調にいけば40分、ひどい時には一時間以上かかる、ロンドンの北西部にあります。寮の建物の中でも一番バス通りから離れているので、結構静か。どちらかといえば高級住宅街なので、緑が多く、寮も中庭が広いので景色の半分は緑という感じ。生態系の違いとは言え、あちこちでリスを見かけるのはやっぱり環境がよいからなのでしょう。

が、しかし、部屋となるとそうはいかない。広さは六畳間よりも広いくらいでまあいいんだけど、せっかく景色がいいのに窓が小さい。窓際に机とタンスのくっついたようなのがあって、その上に本棚があるのだが、そんなのちっちゃくていいから窓にしてほしい気がする。壁は真っ白、というより薄汚れた白といったほうがいいような、何とも飾り気のない部屋で、病院みたいという友達の意見はまさしくその通りだと思う。

救いといえば部屋に洗面台があるので、歯を磨いたりするのに外に出なくていいことぐらい。ベッドは縦はゆったりしてるけど、横は意外に狭いが、あまり寝相が悪くないので、まだ落ちてない。布団といえば薄い毛布と厚手のシーツくらいで、暖房の効いている時はいいが、最初の一週間は寒くて死ぬかと思った。ちなみに韓国人の友人の部屋はここ二、三日暖房が切れているらしい。セーターを着て、コートを着て、下着を重ね着して寝てもまだ寒いとか。なんでもここ数十年暖房を担当していた人が突然亡くなって、どういう仕組みになっているのか誰も知らないらしい。

一フロアが半分に分かれていて、それぞれにキッチンがあるので反対側に誰が住んでいるのかいまいち把握していない。こちら側はみな国籍が違うので、なかなか楽しい。隣からアメリカ、メキシコ、ギリシア、カナダ、インド出身で、通路の向かい側はポルトガルやリトアニア、イングランド、パプア・ニューギニアなどとなっている。

キッチンにはコンロが四つあるが、一つ壊れているのはよくあることだ。ちなみにオーブンも二つついているがあまり使ってない。冷蔵庫は二ドアのが一つあるだけで人数の割には小さい。これだけの設備だと住人の半数は飢えているところだが、幸い電子レンジがあるので何とか生活している。しかし狭いキッチンに人数分のフライパンと鍋がある光景は少し異様だ。ちなみに自分のはマーケットでそれぞれ一ポンドずつで買った。別に共同で使ってもよかったのだが、みんな自分のを持ちたかったらしい。

寮にある設備といってもたいした物はない。洗濯機と乾燥機は人数の割に三台ずつしかなく、いつも混んでいる。しかも最近寒いので、乾燥機が止まってもまだ乾いてなかったりする。テレビ部屋があって、衛星が入っているので百チャンネルくらい見られるらしいが、いちいちセキュリティーに申し出なくてはいけないので、めんどくさくて一度も使ってない。勉強部屋があるらしいがその所在すら不明だ。

コンピュータールームには15台くらいのパソコンがあってネットで繋がっているが、日本語が打てないし、ソフトも限られているのであまり使い道は少ない。しかも混んでるし、接続速度も遅い。自分のパソコンを持ち込んでつないでいいかどうかたずねたが、今年から駄目になったらしい。こういう融通の利かないところはいかにもイギリスらしい。そのうち隠れて実行しようと思うが、そこら中に監視カメラがあるので気を付けなくては。他には卓球場があるのと、スポーツルームがあるらしいのだが、どうやらこれはがらくた置き場になっているらしく誰も使ってない。

どうも他の寮のほうが設備がよいらしいが、市内に近い分、値段が高いのと環境がよくないので、どちらともいいがたい。

そう言えばこの前避難訓練があった。前の日の夜中に避難場所を書いた紙をそっと部屋に入れていたのでなにかあるんだろうと思ったが、翌朝にはすっかり忘れていた。てっきり誰かの目覚ましでも鳴っているんだろうと思ってドアを開けたらサイレンの音だった。ああそうだったと思って服を着込んで外に出たが、どうやら他の建物よりも遅れてサイレンが鳴ったようで、ほとんどみんな外に出ていた。中には知らずにシャワーを浴びていた人もいて、バスローブだけで凍えている人もいたり。インド人の友達なんて朝早く出かけなきゃいけないのに、訓練のおかげで遅刻してたし。