60年代のTVCM

大きいことはいいことだ…森永エールチョコレート

富士山を背景にしたセットで気球に乗った山本直純大先生が、自ら作曲したCMソングに合わせ、身を乗り出してタクトを振るというこのCM、リアルタイムで見ていた人間には、忘れようとしても思い出せない強烈な印象を残したはずです。

  大きいことは いいことだ それ!
  おいしいことは いいことだ それ!
  森永エールチョコレート
  大きく食べて おいしくたべて
  50円とは いいことだ
  「50円」
  森永エールチョコレート
  「勝負あり」

 「60年代のTVCM」と謳いながら、前史時代ものが多かったりしていましたが、この森永エールチョコレートのCMは、正真正銘の60年代というか、熟しきった60年代を象徴するかのようなCMと申せましょう。
 資料によりますと、60年代も後半に当たる1967〜68年頃の放映とあります。個人的な時代感覚からいうと、僕は既に中学校に入っている時期で、そろそろ70年代の匂いも漂い始めようかというような頃だったように思います。実際にはモノクロのフィルムだったようですが、イメージ的にはカラーだったような印象さえあります。

 画面には、「祝 エール独走!」という訳のわからないコピーが踊り、大勢の若人がグランドかスタンドと思しきところに集い、エールチョコレートを手に、誰にか分かりませんが、文字通り「エール」を送っているわけであります。
で、このアップになっている女性が誰なんだろうという疑問が湧いてくるわけで、「60年代の雑誌」の「月刊平凡」の1966年の後半辺りの号で私が勝手に話題にしている恵とも子みたいな雰囲気も漂っているような気もしておりますが…。

 この50円という値段が、結構、衝撃的だったようなことを言う友人もおりますが、私には、あまり、そういう記憶が残っていません。私もエールチョコレートを買ったことはあったと思いますが、この「60年代のTVCM」の「おしゃべり九官鳥」プレゼントのコーナーでも触れた通り、私の場合、チョコレートと言えば、基本的に、グリコのアーモンド・チョコレートしか食べていませんでした。しかも、私が買っていた板チョコのグリコ・アーモンド・チョコレートは30円とか40円のものだったので、50円という値段が衝撃的というのも、確かに板チョコとしては大判のようですが、実感として、よく分かりません。
 むしろ、個人的には、同じ頃に、やはり、森永のチョコレートで、その名も「To you チョコレート」というのがあり、中学2年生の時にバレンタインデーで初めてもらったチョコレートとして、私の記憶に残っています。それまで、私は、そういうチョコレートがあることも、バレンタインデーというものがあることも知りませんでした。私にバレンタインデーの存在を私に教えてくれた、この「To you チョコレート」のCMはどんなものだったのでしょうか。

 このデータを一度サーバーに転送してから思い出しましたが、このエールチョコレートのCMソングを「森永メイジチョコレート」と大声で歌っている友人もおりました。


〔資料編〕

「テレビ史ハンドブック」(自由国民社)
■大きいことはいいことだ(森永製菓)
 いざなぎ景気の中で、高度成長を続けている日本経済は、ついにGNPが世界第2位となった。大量消費ブームはなかなか衰えず、人々は、まだまだ高度成長への期待を夢見ていた。そんな社会風潮を反映するかのように、「大きいことはいいことだ」と、山本直純のオーバーな指揮で、1500人もの出演者が大合唱する天真爛漫な、少々大袈裟とも思えるCMが出現した。しかし、現実には、人々の生活は厳しかったようで、当時の森永製菓の弁によると、「小さなしあわせ、小さなマイホーム…われわれは個人生活の面で必要以上に小ささを強調され、がまんさせられている。それを、つっぱって大きいことはいいことだと明快に断定した思想が共鳴された。大は小を兼ねるという伝統的なことわざの今日的表現でもある」と述べている。その弁どおりに「大きいことはいいことだ」は流行語化していくこととなる。

「TVグラフィティ」(講談社)
★大きいことはいいことだ
 「大きいこと」は「いいこと」だった。ジャンボ・ジェットが飛ぶ。超高層ビルが建つ。ニッポンはいつのまにか、GNP世界第2位の経済大国に成長していた。
 そんな時流に、このCMはちゃっかり便乗し、「大きいことはいいことだ、ソレ、おいしいことはいいことだ」と、声高らかにうたいあげた。たしかに同じ値段なら、チョコレートは大きい方がいいに決まっている。が、その威勢のよさとはウラハラに、このCMの歌声は、どこかソラゾラしく響くところがあった。山本直純のオーバーな演技のせいもある。「大きいことはいいこと」だった時代にようやく影がさしはじめたということもあった。(森永エールチョコレート・昭和42年)






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